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全ビジネスパーソン必読! 「対話不全」への処方箋|【特集】デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築[Column3]

 日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。
 わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。
 安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。

ビジネス環境が激変する今だからこそ、求められるのは「対話力」だ。対話力研究の第一人者に、その極意と明日から使える「手法」を聞いた──。
話し手・田村次朗
聞き手/構成・編集部(野川隆輝)

田村次朗(Jiro Tamura)
慶應義塾大学法学部 教授、弁護士
米ハーバード大学国際交渉学プログラム・インターナショナル・アカデミック・アドバイザー
慶應義塾大学法学部卒、米ハーバード・ロー・スクール、慶應義塾大学大学院。ブルッキングス研究所、米上院議員事務所客員研究員、米ジョージタウン大学ロースクール兼任教授を経て現職。著書に『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中央公論新社)、『リーダーシップを鍛える「対話学」のすゝめ』(共著、東京書籍)、『16歳からの交渉力』(実務教育出版)など多数。 (WEDGE)

 国際化が急速に進む今、われわれは好むと好まざるとにかかわらず、モノの見方や意見が異なる人と話し合う機会が増えている。政治の場はもちろん、ビジネスや日常生活、あらゆる人間関係の基礎にあるのが「対話力」だ。

 この一文で「コミュニケーションは大事だ」という漠とした結論を想像した読者もいるだろう。しかし、多くの日本人が想像する「コミュニケーション」とは、実際には「会話」であって「対話」ではない場合が多い。

 「対話」とは、対立を恐れずに異なる考えや意見を持つ人と話し合うこと、相手に合わせることなく意見の相違を確認しながら協働して問題解決に取り組むことだ。これによってはじめて、創造的な問題解決策が生まれるのだ。

 日本では「場を重んじる」「空気を読む」ことが求められ、対話する土壌が形成されてこなかった。そのため「対話」は、極力対立を避け相手に合わせて親睦を深める「会話」と混同されることが多い。また、日本人には先輩・後輩や上司・部下などの上下関係を重視する文化が根付いており、これを根底から覆すのは簡単ではない。

なぜ今、「対話力」なのか

 高度経済成長期の日本には「米国に追いつけ追い越せ」という明確な目標があった。また、拡大していく市場に参入すれば、他社と同じことをしていても企業が成長した時代であった。

 しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックやロシアのウクライナ侵攻をはじめとする安全保障環境など、日本企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。そうした変化に柔軟に対応し、激しい競争を勝ち抜くために必要なことは何か──。それは、いかに多くの選択肢を持ち、検討し、最良の選択をするかである。その決断の質を決めるカギになるのが、意思決定プロセスにおける「対話」なのである。

 対話力を向上させるために不可欠な要素が「アプリシエーション」と「アサーティブネス」である。

 前者は、自分とは違う相手の立場を理解し相手の考えに価値を見出すことだ。ただし、これは相手の考えを無条件に受け入れることではない。後者は、お互いの立場を尊重して主張することだ。日本人は、主張されると攻撃された感覚に陥りがちだが、そうではなく、……

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