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対策強化が必須の経済安保 経営者に必要なバランス感覚|【WEDGE REPORT】

経済安全保障の重要度が高まる中、日本政府による民間企業の管理強化が進んでいる。日本企業、とりわけ経営者は、経済安保の本質を理解した上で対策を打たなければならない。

文・山田敏弘(Toshihiro Yamada)
国際ジャーナリスト
講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の客員研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。著書に『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社+α新書)など。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)。


 昨今、政府内でもっとも注目されているキーワードといえば「経済安全保障」が挙げられるだろう。

 2022年5月11日には、「経済安全保障推進法」が成立した。岸田文雄政権は経済安保対策を成長戦略の柱の一つに据えている。

 経済安保とは、安全保障に影響を及ぼす経済にからんだ国家的な活動のことを指し、国の利益を守るために、製品や技術、データなど経済分野の資源を守ることだ。同法では「①サプライチェーンの強靭化」「②基幹インフラの信頼性の確保」「③重要先端技術の開発支援」「④特許出願の非公開」が主な取り組みの対象となっている(下図)。

4本柱で経済安全保障を強化する

(出所)内閣府公開資料を基にウェッジ作成

 そして早くも来年の通常国会に提出が予定されている同法の改正案では、さらなる規制強化が行われる予定だ。目玉は、機密情報の取り扱い資格である「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の制度化である。セキュリティー・クリアランスは、政府職員や民間業者などが重要情報にアクセスできる資格を厳格化するもので、先進国では当たり前のように存在している制度だ。

 世界でも有数の技術大国である日本で「日本の技術は日本で守るべき」という意識を持つのは当然であり、昨今の動きは歓迎すべきである。

 ただし、ここで重要なことは経済安保の本質をしっかり認識して、「正しく恐れ、備える」ことなのだが、残念ながら、いまだ日本が持つ技術の真価と本当のリスクを過小評価し、「自分(の企業)には関係がない」と感じている個人や企業なども多い。

 国外から日本の技術を狙う産業スパイは思わぬところで暗躍している。まず現場では何が起きているのか、実態を知るためにいくつかの事例を見ていきたい。

SNSを介して
産業スパイが日本人に迫る

 20年、大阪府の住宅化学メーカー・積水化学工業の研究員が、スマホのタッチパネルなどに使われる電子材料「導電性微粒子」の情報を中国企業に渡していたことが発覚した。ビジネス特化型SNS・リンクトインを介して接触してきた中国・広東省の通信機器部品メーカー「潮州三環グループ」の関係者に唆されて、導電性微粒子の製造過程に関する書類や画像をメールで送信していた。同グループは中国共産党とも近い企業として知られているが、……

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