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木村石鹸にみる「ブランディングCRM」の勧め

みなさんこんにちわ。tohari.です。
昨日、日経クロストレンドで木村石鹸さんの「ECサイトでのCRM施策」について書かれた記事が出ており、その内容が興味深かったので改めてこのnoteでもご紹介しつつ、筆者なりの解説を加えていきたいと思います。


筆者の主な専門領域には「WEBマーケティング」「ブランディング」「CRM」「データマーケティング」の4つがあるのですが、日頃からこの4つが重なるところの施策開発を強みとして、企業様のマーケティング活動をご支援させていただいています。

木村石鹸さんの取り組みは、この中で「ブランディング×CRM」という領域においてとても良い事例になると思います。その一方で、今後の課題や施策アイデアなどについて思うところもありましたので、補足させていただきます。皆様の参考になれば幸いです。



木村石鹸のCRMとは?(日経クロストレンド記事のご紹介)


木村石鹸とは

木村石鹸さんの商品を購入したことのない方でも「名前は聞いたことがある」という方も多いと思います。
木村石鹸さんは今年でなんと創業100周年を迎える老舗せっけんメーカーさんです。今もなお、職人の手作業による“釡焚き”製法によって石鹸の製造を行い、「洗浄力」「成分の安全性」「使い心地」のバランスがとれた洗剤を開発されています。
そんな木村石鹸さんが運営しているECサイトが「くらしの丁度品」です。

日経クロストレンドの記事によると、このECサイトは2017年にスタートし、20年に発売したヘアケア商品「12/JU-NI(ジューニ)」がヒットし、広く知られるきっかけとなったそうです。現在ECサイトでは、ソープ、ヘアケア、洗剤、化粧品などのジャンルで商品を複数とり揃えています。

基本的には日用品に分類される訳ですが、中心価格帯はソープ、ヘアケア商品でおよそ3000-5000円程度(商品一覧で見た感じ)と、いわゆる高級品に属するかと思います。


木村石鹸流CRM

このようなサイトのCRMについて、日経クロストレンドの記事を要約すると以下のようになります。

  • 木村石鹸では、一般的なECでよくある企業主導での売り込み施策(商品配送時の別商品のチラシ同梱、契約者が解約しにくい仕組み導入、初回のお試し購入者への本購入推奨など)は行わない。

  • 継続的な売り上げには、そのようなテクニックよりも、会社のことを好きで応援してくれている人が一定数いることの方が重要。

  • そのために、社員が一生懸命物を作っている様子など、会社の熱量を伝える情報提供に力を入れている。

  • 同時にEC運営にはKPIも設けておらず、数値の改善よりも、常に顧客に意識を向けるようにしている。

  • そのような押し付けない、無理に繋ぎ止めようとしない姿勢や仕組みが顧客の信頼や好意づくりにつながるはずであり、それが木村石鹸流CRMである。

と、いうことです。
ちなみに木村石鹸流CRMの具体例としては、このようなものが紹介されています。

(1)ちょっとレター
「ちょっとレター」とは、社内のことや商品に関するニュース、社長が日記のようにつづった内容など、木村石鹸の社内の雰囲気が伝わるような手書きの手紙であり、これを3カ月に1度のペースでECサイトの利用者に送っている。さらにはこのような取り組みの中で、木村石鹸と同じ地元の別会社の商品をレターと共に送るなども行っており、自社商品の売り込みのための施策とは大きく異なっている。


(2)お客様の声の社内掲示
これは顧客への直接的な働きかけではなく社内啓発活動になるが、「ちょっとレター」を始めてからお客からも手書きの手紙が届くようになり、いただいた手紙を社員みんなが見れる状態にしている。


(3)サブスク契約者へのブランド体験特典の付与
木村石鹸ではヘアケア商品のサブスク販売を行っているが、そのメリットとして一般的によくある値引きではなく、例えば、発売前商品のサンプル提供や商品開発者へのインタビュー動画、開発段階の商品に関するアンケートなど、木村石鹸をもっと深く知れたり体験できるような特典を付けている。
木村石鹸好きの顧客からすれば、他の消費者より木村石鹸のことをよく知っていると特別感を得られるものになっている。

このような取り組みの他にも、顧客から「会社見学をできないか」と問い合わせがあり、木村石鹸のファンつながりで集まった顧客に、会社見学を実施したこともあったそうです。



木村石鹸流CRMは1つの理想形


2つのCRM ー 「モーメントプログラム」と「ロイヤリティプログラム」


木村石鹸さんのこのような取り組みは本当に素晴らしく、CRMの本質を得ているなぁというのが率直な感想です。CRMの本質とは「顧客が関係を継続するに足る価値の提供」ということです。

例えばCRMといえば、ポイントプログラムやクーポンなどがよく用いられます。これらも継続購買に効果的ではありますが、このような施策のみでつながる関係性は長続きしないことも多いです。例えばある航空会社では、自社のマイレージを精算した顧客の1/3はリピートしない、ということがわかっています。まさに金の切れ目は縁の切れ目、なのです。

CRMではこのような施策をモーメントPGM(プログラム)と呼んでいます。

モーメントPGMには他にこんなものがあります。

  • ECサイトである商品をみている時に、「他の人はこんな商品も・・・」といったレコメンドが出てくる。

  • 購入商品に応じて、親和性の高い別の商品が購入完了画面やメールで推奨される。

  • カート放棄した顧客に対して「ご購入をお忘れでないですか?」と出てくる。

  • WEBサイト来訪時に、サイトを閉じようとするとPOPUP画面が立ち上がって、特定のコンテンツの閲覧を勧められる

  • など

いわゆる「MA(マーケティング・オートメーション)」で実施される施策群です。



その一方で、ロイヤリティPGMというものもCRMには存在します。

ロイヤリティPGMは、モーメントPGMにように購買心を煽ったり、タイミングの良い営業行為(レコメンドなど)を行うものとは異なり、顧客の「好き」という心理に働きかける施策になります。

*ロイヤリティPGMに関する事例は、こちら(CRMで目指すべき「ロイヤリティ醸成」②)でも紹介しています。

木村石鹸さんのCRMはまさにこの種の施策になるのですが、このような施策の特徴としてそのブランド性が強く反映されてきます。
木村石鹸さんのケースもブランドとしての理念や価値観というものがしっかりあって、その理念に基づいて行動(=施策)が伴っています。
だからこそ、そこに「個性」が現れその個性に対して「好き」が生じる訳です。

ロイヤリティPGMは顧客との中長期的な関係性を築きたい場合、特に重要な施策になりますが、企業側としてブランドというものの自己認識がクリアになっていないと、企画立案自体が難しいかも知れません。

その意味では、MAによるCRMはどんな企業であっても取り組みやすい、という利点もあるかと思います。


ここで改めて、木村石鹸さんのCRMが優れている点を整理します。

まず1つ目は、自社のブランド理念を認識し、その理念に沿ってブランド性を伝えたり、価値提供しようとしている点にあります。
つまり、「好き」がベースにあるブランドファンの育成に取り組んでいるということです。
それは上記で述べたとおりです。

そしてもう1つが、顧客に「自分はそのブランドにとって大事な存在である」という特別感を伝えることに力を入れている点です。

サブスク契約者へのさまざまな対応や「会社見学をしたい」という個別の要望に応えてあげるなどもそれにあたります。

他社事例では、YouTubeが一定の成果(フォロワーや視聴回数など)を上げたYouTuberに記念盾を送っていますが、それもこうした施策の1つですし、
メルセデスベンツは以前、木村石鹸さんと全く同じような取り組みとして、工場長が優良顧客に対して直筆のメッセージで感謝の意を示したり、工場見学に招いたり、などを行っています。

このような施策を「プライドメンテナンス」と言いますが、ブランドからの価値提供だけでなく、相手(顧客)を認めたり、大事にしているという姿勢を伝えることもとても大事なロイヤリティPGMになります。



木村石鹸流CRMをさらに強化していくとしたら

これまでのところで、木村石鹸流CRMの良さを筆者なりに解説してきましたが、ここからはもし筆者が同社のマーケテイング責任者なら行うであろうことを2つほど提案させていただきたいと思います。

(1)モーメントPGMの導入

上記では2つのCRMのうち、ロイヤリティPGMの良さを中心にお伝えしてきました。中長期的な事業安定のためには優良な顧客基盤を持つことがとても重要ですし、ブランドの自己認識とそこを基点とした価値提供によりブランドの支援者を増やすようなロイヤリティPGMが非常に重要です。

ですが、ポイント施策やクーポン提供、またはMAによるタイミングの良い営業行為なども直接的な行動喚起としてやはり重要です。
木村石鹸さんのブランド価値の中心はそこにはないと思うので、やりすぎは禁物ですが、大事なのはバランスであり、両者をうまく融合して施策全体を設計できると、さらに同社の事業はより成長していけると思います。


(2)有料会員サービスの開発と導入

木村石鹸さんのとても素晴らしい点として本当の意味での「顧客起点」があると思います。そしてその結果として一定のブランドファンがいる場合、その2つを掛け合わせた方向として、新たな事業として有料サービスを立ち上げ、顧客起点をベースに自社商品に限らない様々な商品・サービス提供を行なっていく、というものです。

  • 例えば、定期的に髪質診断と専門家によるへアケアアドバイスを提供したり

  • 例えば、そのヘアケアアドバイスに基づき、同業他社とアライアンスの上、お客様の髪質に合ったヘアケア商品サンプルを無償提供したり

  • 例えば、同社の洗剤を使って安価もしくは無償でお客様のご自宅のお風呂や台所のクリーニングを提供したり

  • 例えば、悩み事の多い方には、心の美しさをサポートとして、心理カウンセラーへの無料相談ができたり

などなど、「美」や「清潔」に関連して様々な事業やサービスがすでに存在していますので、それらをうまく活用して、お客様ニーズに沿いながら事業拡張していきます。

つまり、メーカーからソリューション会社へと変わっていくということです。同時にそれらのサービスを通じてお客様との関係もより強固にしていく、ということです。

少しハードルが高いアイデアだとは思いますが、チャレンジする価値のある大きな取り組みとなるはずです。


木村石鹸さんのECサイトはまだ使ったことがありませんが、今度試しに何か購入してみようかと思います。


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