真珠とダイヤモンド / 桐野夏生 バブル世代の危ない生き方


真珠とダイヤモンド / 桐野夏生

私は氷河期世代のため、バブルを知らずに今まで生きてきた。
経済はもちろんのこと、その頃流行っていた音楽もグランジの時代となり、我々は非常に暗く自虐的なものを愛する世代である。

10歳くらい上の世代の人たちと遊んでいると、私より元気だなと思うことがよくある。
バブルを生きた人たちは熱量が高くパワフルだ。

桐野夏生の作品は大半は読んでいると思う。
「真珠とダイヤモンド」は2023年に出た作品であるが、内容はバブル時代の株で人生が狂った人たちの物語である。

現代の日本人とは違い、みんな若くても勢いがあり、痛々しいほどやる気に満ちている。
20代でも億という金を手にして贅沢三昧、感覚が麻痺しているので品格はなく、人間らしい情緒というものが全くなくなっている。

社会人になりたての頃はあんなにピュアだったのに、ここまで人は変われるものかと、お金の魔力にドン引きするほどである。

お金で全てを解決できるようになると、心がどんどん荒んでいき、癒しを求めなくては人間は生きてはいけない。
「人に優しくされたい」という思いでホストクラブに通うのだ。
しかし、それもまたかりそめの優しさであり、負のスパイラルに陥っていく。

病んでしまった時に助けを求める先を誤って、さらに傷を深くしてしまうのはいつの時代も同じである。

はっきり言って、この作品に出てくる登場人物は後戻りができないところまで行ってしまっている。
だからといって、どこかで気がつけば良い人生になったのか。
気づいてはいたが、彼らはそうしなかった。
人生どう生きるかはそれぞれだが、バブル世代の花火のようにパッと散った人生も、たった一度きりの人生かと思うと悔いはないのだろう。

現在、不動産熱は加熱しており、億のタワマンに住むことはある界隈ではステイタスの一つになっている。
今まで世帯年収2000万円のパワーカップルが到達するようなそれらも、高騰は続き、現在ではそれ以上稼ぐスーパーパワーカップルでないと手が届かないという情報まで出てきた。

また、FIREを目指すがために人間らしい生活、愛情に欠ける人もいる。
あれも見ていて危なっかしいなと思うのだが、当の本人は必死なので周りが見えていないのだ。

一度でも片足を突っ込むともう抜け出せないのだろう。
ギッチギチの競争社会。終わりの見えない戦いを人はいつまで続けるのだろうか。

波風のない人生よりは面白いのかもしれないな。



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