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眩暈の森


 僕と彼女は、とある体験教室で知り合った。
 最初に見た時は、同類だと思ったんだ。いや、少し違う。彼女より僕の方が馴染めている。そう勘違いした。
 体験教室と言っても、教室はない。
 運動できる訳でもなく、勉強もできない僕。成績も中の下。かと言って、音楽や絵画の才能がある訳でもない。ただ、アニメばかり観て、斜に構えて、親しい友達もなし。
 そんな僕を観かねた母親が、何かの切っ掛けにでも、と考えたのだろう。
 まさか、高校生にもなって、森林自然体験教室なんてものに無理矢理参加させられるとは思ってなかった。
 信じられない事に1週間ものあいだ、娯楽も何もない場所で、ガキどもと一緒にキャンプを体験しようと言うのだ。
 冗談じゃない。TVもPCもない空間で、1週間だ。
 幸いな事にスマホは取り上げられなかったが、基本的に使用は禁じられている。別に使っても罰則がある訳ではないけど、実質、使えないも同然だ。
 一に、ずっと子供の面倒を見るか、作業があるから、ゆっくり画面を見る時間さえない。
 二に、電波が届きにくい山の中。電波が弱過ぎる。
 三に、充電する機会が就寝時ぐらい。特に山の中で電波を拾おうとするせいだろう。電池の減りが速いのだ。
 そんな中、僕は仕方なく参加者たちと作業に勤しむ。参加者は20人ぐらいいたけど、僕と同じ高校生は6人。彼女もその1人だ。
 基本的に年長の方が年少の面倒を見る決まりだから、僕は否応なくガキどもの相手をしている。意味がわからない。けれど、僕にはそれを嫌だと撥ねつけるだけの度胸なんてなかった。要領よく仕事を回避するような器量もない。
 けれど、彼女は違った。
 子供達の前では、にこやかに優しく接してるけれど、何とも華麗に子供達を遠くへ引き離す。子供がいない前では薄昏い表情になって、最低限の仕事だけ済ませて、何処かに姿を消すのだ。
 似ている。僕は咄嗟にそう思った。熟せるかどうかでは彼女の方が一枚も二枚も上手だが、タイプは似ている、と。
 宮坂二葉。最初の自己紹介の時、つまらなさそうに、そう名乗った。
 伏し目がちで睫毛が驚くほど長い。とても白いけれど、健康的な肌。見るからに、美少女って奴だ。凛々しさと気怠さが同居して、掴み所がない。よく言えば、神秘的って言葉が似合う。
 だから、僕は彼女にシンパシーを感じ、接触を試みた。
 僕みたいな内向的な人間が度胸を持てたのは、大自然に囲まれているからって訳じゃない。知ってる奴が誰もいないからだ。それに、旅の恥はかき捨て。嫌われたところで、後腐れもない。そんな打算があったからだろう。
 ついでに、昼間に散々、見知らぬ小中学生のガキどもの相手をしていたからだろう。僕の人見知りや、女子と話す苦手が麻痺していたんだ。
 小学生たちが寝静まり、中学生たちが布団の中で密談をしている頃、寝所を抜け出した。
 彼女はきっと、あの場所にいる。そんな確信があったんだ。
 僕は、炊事場の裏を目指した。彼女は時折、姿を消す。その際に向かう方向をチェックしていた甲斐があった。
 「あっ…」
 宮坂二葉は不意に現れた僕に、ほんの少しだけ驚いた声を漏らす。灯りもろくにない山の中なのに、彼女の白い肌が浮き上がって見えた。
 「やあ、宮坂さん」
 なるべく、ぎこちなくならないように声を掛ける。
 「カズヒサくん、だよね?」
 僕は不意に名前を呼ばれて動揺した。
 「なん、名前、知っ…、みんなヤスヒコって…」
 「ん? ああ、自己紹介の時にアビコカズヒサって」

 安彦主久。多くの人は「ヤスヒコ」と呼ぶ。特に僕の場合はカズヒサという名前と合わせるのか、ヤスヒコと呼ぶ人が多い。この体験教室でもあっという間にヤスヒコで定着した。
 「そ、そっか」
 「嫌だった? 名前呼び」
 「い、いや、驚いただけ」

 意を決していたつもりだが、思ったよりも自分が動揺して、吃りが止まらない。
 「そ。座ったら?」
 彼女が僕を隣に促す。暗闇でも、彼女の黒い瞳が濡れて、夜空を凝縮したように輝いていた。
 「じゃ、邪魔。邪魔してない?」
 「してるけど、キャンプを抜けてきたんでしょ?」

 まあ、と答えながら、彼女の隣に座る。何センチぐらい空けて座るのが妥当なのかわからない。電車のシートよりは空けた方がいいだろう。
 「お、思ったよりさ、寒くて」
 本当なら寝苦しくて、と言いたかったが、山の空気は冷たいぐらいだ。寝付けないにしても出歩く理由しては苦しかったが、彼女を探しに来たとは言えない。まして、会える予感があったなんて。
 「そそ、それより、宮坂さんは?」
 「二葉でいいよ」

 感情がこもっているのかいないのか、読みにくい声色。
 「いや、でも」
 「ルール」
 「下の名前か、ニックネームで呼び合う、ね」

 この体験学習でのルールの1つだ。どれほどの効果があるのかは知らないが、1週間という長いような短い時間で、手早く仲良くなり、協力体制を取るには、苗字で呼ばない事が大事なんだそうだ。くだらない。くだらないが、彼女に名前で呼ばれるのは擽ったくて悪くない。
 「別にどっちでもいいけど。寒いなら近くに座りなよ」
 自分の心臓の音が聞こえてしまいそうなのが恥ずかしくて、僕の心臓はさらに高鳴った。
 僕は、彼女に促されるようにして、僕という人間がいかにつまらないか、という身の上話を熱弁していた。
 「カズヒサくんさ、なんか宗教って入ってる?」
 唐突に、彼女が聞いた。僕が何かの変な宗教に入ってるような素振りをしていたのだろうか。いささか戸惑い気味に答える。
 「え? いや、家は何か仏教の何宗だか何派だかって話は聞いた事あるけど、誰も敬虔な仏教徒じゃないと思う」
 その言葉に、彼女は小さく息を吸い込んで、突拍子もない事を口にした。
 「ウチの宗教に入ってくれない?」
 「え、いや、それはさすがに」

 咄嗟に答えてしまったが、多分正解の回答じゃないと思う。
 「だよね。ごめんね。変なこと言って」
 乾いた笑いをしながら、視線を外す。この時に、暗闇とは言え、彼女と顔を向き合わせて喋っていた事に気付く。
 「えーと、何? 勧誘しなきゃ駄目なの? なんかコクエーホーソーみたいに家を回って行くヤツ? シンコー宗教的な?」
 何度か見た事がある。だいたい母親と子供のセットでやって来る。多分、その方が門前払いを喰らいにくいんだろう。
 「別に、団体的にノルマがあったりする訳じゃないんだけど。親がね、熱心なのよ」
 「ああ、なるほど。このキャンプもそれが目的で来たとか?」

 彼女のミステリアスな雰囲気は宗教由来だったのか。いや、宗教とアウトドアの組み合わせはイマイチな気がする。だが、彼女の返事は違った。
 「まあね。と言うか、このキャンプ自体が、そーゆー目的で開催されてるし」
 「え、いや、マジで?」

 どうやら、適当に言った事が、思いも寄らず当たっていたらしい。宗教や思想にとって、外界から隔離された空間と言うのは相性が良いのだ、と彼女は語った。
 「やたら団結とか協調性とか、自然保護とか、共存とか言ってるでしょ?」
 「た、確かに」

 やたらと青臭い事を吹聴して来るとは思っていたが、それが緩やかな洗脳の一種だと考えた事はなかった。
 「主催してる幾つかの運営の1つが、ウチの団体なのよ。聞いたコトない? NCUって」
 「知らないけど、パンフに載ってたね」

 主催の団体の名前やロゴが記載されているパンフレットを貰ったが、割と普通の地元企業も協賛していた。それらも息が掛かっていたりするのだろうか。
 「ウチの団体、名前が沢山あってさ。直接名前を出したら、みんな胡散臭がるから、色んな方面からこっそり勧誘してるの」
 「いいのかよ、バラしちゃって」

 信者ってのは、信じているからこそ、純粋に勧誘しているのだと思っていた僕には、意外で衝撃的な話だ。騙されて片棒を担がされている人ばかりではないし、幹部的な人物以外でも、わかっている人は少なくないらしい。
 「嫌いだもん。団体も、親も」
 「そっか。そうだよな」

 彼女の親がどちらかはわからないが、その皺寄せを喰らってるのは彼女なのだから。
 「新興宗教なんて皆嫌いでしょ? だから、ずっと友達なんかいなかった。友達らしいのは、団体か、こーゆーイベントで出会う子たちだけ」
 幾つかの団体が協賛しているのは、お互いに新規客を「囲い込み」するためだと教えてくれた。団体の中だけで活動していれば、先細りが見えている。だからこそ、イベントを開催して新規客を掴む。
 「団体の子は皆、洗脳されてるみたいで気持ち悪いし、こーゆーイベントで会う子は、勧誘の対象にしか見えない」
 「ぼ、僕も?」
 「カズヒサくんは、そーゆーの興味なさそうだから」
 「まあ、ないね。僕より、石田…イッシーとか、タクミくんとかの方が騙せそうじゃない? モモちゃんだっけ? とか、村瀬…ナントカちゃんとか」

 いかにもガリ勉堅物って感じの石田はカモに見えるし、宗教には興味なさそうだけど、見るからにチャラ男のタクミは、頭が悪そうだから騙せそうな気がする。
 「残念ね。タクミは団体側の人間なの。モモコも」
 「マジかよ」
 「で。石田くんと村瀬さんは違うんだけど、勧誘って、異性にやらせた方が成功率高いのよ」

 見た目も喋り方も「ゆるふわ」なモモコちゃんは、女に免疫がなさそうな石田を担当。逆に素朴な感じの村瀬さんは、いかにもモテ男なタクミが担当らしい。となると、
 「なるほど。じゃあ、僕も宮坂さんに色仕掛けされてる訳か」
 何だか納得ではある。しかし、騙された悔しさはない。
 「自分から声掛けて来たくせに」
 「や、ごめん。そーゆーつもりじゃ」

 彼女の拗ねた声に、慌てて取り繕う僕。
 「色仕掛けしたら、入ってくれる?」
 少し巫山戯た声で、彼女が笑う。
 「宮坂さん、可愛いからな。入信でも何でもしちゃいそうだよ」
 宗教なんかに興味はないし、返しは我ながら完璧だったと思う。すると、彼女が声のトーンをわずかに落とし、囁くように言った。
 「キス、したら?」
 艶を含んだ声に、僕の心臓が大きく鼓動した。
 「いやいや、いや、そーゆーのは、その、ちょっと」
 「イヤ?」
 「イヤじゃないイヤじゃない」

 動揺して、それ以上どう答えていいかわからない僕に、彼女が続けた。
 「親から、最低1人連れて来る事を義務付けられてるんだけど、同世代が無理なら、下の子を勧誘する事になるのよね。何もわからない中学生や小学生を。それは、イヤなんだよね。本当に洗脳しちゃう事になるから」
 吐き捨てるように言う彼女の言葉に偽りはないのだろう。何しろ自分が体験者なのだから。
 「なるほど。フリだけでいい、と」
 何だかわからないけど、要するに名前と住所と電話番号を書けばいいだけだ。ただ、それだけなら、この教室に参加している時点で全て把握済みのはず。少なくとも、高校生のお布施に期待されている訳でもないだろう。
 「ウチの親は特殊な方だと思うんだけど、団体自体は特にお布施とか献金は緩い方だと思う。信者を何人連れてこい、ってノルマもないし」
 要するに彼女の場合は、彼女の親が問題で、信徒を連れてくれば連れて来るほどに「徳が積める」のだ。確かに、団体はともかく、彼女の親が大幹部でもない限り、お布施が懐に入って来る訳でもないだろう。単純に貢献して、徳とやらを積みたいのだ。
 「まったく気が進まないけど、名前書けばいいってコト?」
 「キスしてあげるって言ってるのに、気が進まないんだ?」

 彼女がまた、拗ねた声を出した。可愛い。暗闇の中で良かったと思う思うぐらいに、僕の口許は緩んでいた事だろう。僕は精一杯の見栄を張って答える。
 「別に、キ、キスなんかして欲しくない」
 「ひどーい」

 より一層、芝居染みた声で拗ねて笑う彼女。今このタイミングを逃せば、僕に勇気が湧く瞬間はない気がした。
 「キ、キスは、したい。ぼく、僕の方から」
 吃りが酷いけれど、僕は生きてきた中で最大の勇気を出した気がする。ドン引きされたかも知れない。けれど、言えた事で、僕の心は途轍もない自信に溢れていた。
 しばらくの沈黙の後、彼女が呆れたような、少し声のトーンを外した声で呟く。
 「うわ。っずい」
 それは僕もだ。それに、その返事の意味をどう解釈していいかわからない。
 さっきよりも長い沈黙の後、彼女が自分の顔を両手でパタパタと仰ぐと、急に僕の方に顔を向けた。
 その瞬間に、返事の意味を理解する。
 僕が彼女に目を合わせるを向けると、彼女の顔が、唇が、ゆっくり、おずおずと近付いて来た。
 自分からキスしたいと言ったけれど、顔を近付けたのは9割以上彼女だったろう。
 僕は、最後の数センチ、いや、数ミリかも知れない距離をなくしただけだ。
 彼女の唇は柔らかく、髪からはシャンプーか何かの甘い匂いがした。僕はただ、心臓の音が聞かれないかだけが気になって。いや、何も考えられなかったかも知れない。
 長い時間、ただ唇を押し付けるだけのキスが終わり、僕らはただ、黙って俯いた。
 心臓の音が聞かれなかったか。自分の息は臭くなかったか。僕のキスは下手だったか。そんな事ばかりが脳裏を埋め尽くす。
 そうやって頭の中がぐるぐるして、愛おしさの中から、どす黒い嫉妬の感情が渦を巻き始めた。
 「…今まで、そーゆー風に勧誘して来たの?」
 言うべきじゃない事はわかっていたけれど、変な自信がついた事もあって、止められなかった。
 「聞きたい?」
 彼女がつまらなさそうに問う。やっぱり言うべきじゃなかった。だが、もう遅い。今さら修正などできないのだ。
 「聞きたいし、聞きたくない」
 僕は本音をぶちまけた。どっちも本音だ。
 「してきたよ。もっと色々した。軽蔑した? もうキスしたくなくなった?」
 短く溜息を吐き、少しだけ早口気味に言う。言うべきじゃなかった。答える言葉も見つからない。
 「タクミとは2年前にヤったわ。勧誘のためにしただけ。しばりく遠距離恋愛のフリをした。とっくに別れたのに、今日だって、舐め回すように見てきて、悔しかった」
 曰く、タクミと出会ったのは2年前のこのキャンプ。そして、タクミは信者ではなかった。それどころか、チャラ男でさえなかったのだ。
 遠方から参加したタクミは、このキャンプ場で彼女で童貞を捨て、恋人となり、遠距離恋愛した。
 付き合うのが近場の相手だと、別の勧誘行為がしづらくなるから、と親に指示されているらしい。
 一方のタクミは童貞を捨てた事で自信が付き、途端に軟派男へと転身した。遠距離恋愛である事を利用し、浮気三昧だったらしい。タクミは信徒ではあるものの、キャンプでの成功体験に酔い痴れているだけ。
 こう言った泊まり込みイベントに参加するのも、単にヤリ目って訳だ。
 多分、彼女はタクミの事が好きだったのだろう。だが、彼女とて、タクミを裏切っていない訳ではないのだ。例えそれが勧誘目的であったとしても。
 「汚いでしょ? 信じられる? 初めてヤったの、幾つだと思う? 小学校6年よ。親がね、使えるって気がついたのよ。自分の子供を差し出せば、団体に貢献できるってね」
 当時は、親に連れられ、訪問勧誘に付き合わされていたらしい。ある一人暮らしの男の部屋を訪ねた時だ。
 男が粘ついた視線をしている意味は、彼女にも彼女の母親にも理解できた。だが、入信をチラつかせる男の言葉に、何度も勧誘に行くことになる。
 男の目的はわかっていた。だからこそ彼女の母は、彼女を男に預けたのだ。「彼を更生させる為には入信が不可欠」なのだと理屈を付けて。
 そして、彼女が破瓜した事をすると、母親は彼女を「汚らわしい存在」として扱うようになった。まるで「男を誘惑した」のが彼女であるかのように。
 それ以来、彼女は男の「穢れ」を受ける事で、自らの「罪」を贖う事を義務付けられた。
 だが、悲しいかな。彼女が男を受け入れるたび、母親からの軽蔑の眼差しは強くなる一方だった。
 それでも唯一、信徒を増やした時だけは、褒めてもらえる。優しくしてもらえる。
 二人ともそこに、大きな両義背反が存在していると気付きながら。
 だから、彼女には信心などない。ただただ、親に愛されたいだけの子供でしかないのだ。
 「援助だのパパ活だのしてる方がまだ綺麗。詐欺師の方がずっとずっとマシ」
 何も答えられない僕に、吐き捨てるように言う彼女。
 「そーゆー風に言うの、やめろよ」
 精一杯ひり出した言葉はそれだけだった。
 「カズヒサくんも、入信するならヤらせてあげるよ。でもやっぱり、ビッチ相手だと嫌になっちゃったかなー?」
 自暴自棄気味に、自身を嘲笑する彼女。
 違う。嫌なのではない。ただ悔しいのだ。何に? いや、ほぼ全てに。彼女の存在を恣にした男ども。彼女を束縛している団体も。彼女と言う存在を作ってしまった母親。何も知らなかった自分も。何も出来ない自分にも。
 腹のなかで渦巻く嫉妬を抑え込み、答える。
 「嫌じゃない。なんて言うか、うまく説明できないけど。その、なんでその話を僕に? ロクに話してもいないのに」
 違う。本当に答えたいのはそんな事じゃない。本当に聞きたいのはそんな事じゃない。
 「さあ? 誰にも話す機会がなかったから、ロクに話してもいない相手の方が都合良かったんじゃない? わかんない」
 彼女の方もきっとそう思っているだろう。
 「ここに来たのが石田でも、話したと思う?」
 「わかんないよ。来たのはカズヒサくんだったんだし。ただ、タクミも石田くんも好きじゃない」

 少し甲高い声が夜の森に響いて消えた。
 「僕は?」
 「わかんない。なんか、話を聞いてくれると思った。なんか、話しやすそうで。なんか、話したいと思った」

 そう言った彼女の瞳が、夜の中で一層輝いて、光が伝って滴る。
 その言葉も、その雫も、多分嘘じゃない。
 「僕も」
 僕は力一杯、彼女を抱きしめた。さっきのキスの時と違う。迷いのない意思で。
 「勧誘、僕が入信して頑張れば、宮坂さんは嫌なコトをしなくて済む?」
 彼女の耳元で告げる。
 彼女の唇と吐息が、僕の耳元に触れる。
 彼女の腕が、僕を強く抱き締め返す。

 ようこそ、眩暈めまいの森へ。

 ※ この短編小説は全て無料で読めますが、お気に召した方は投げ銭(¥100)をお願いします。
 なお、この先にはあとがきのような、重要な何かが書かれています。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。