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手間をかける

なんでも便利な世の中になった。
スーパーコンビニへ行けばいくらでも食べ物は手に入る。
親指のスクロール一つで商品が購入できる。
今やいつでもどこでも、一瞬で世界と繫がることができてしまうネット網が世界中に広がっている。

便利すぎて、かえってつまらない、と思う。

1番の変化は、時間軸であろう。
手間ひまかけず、なんでも「時短」「効率化」されたこと。
時間の軸が一気に短縮された。
それだけいろんなことに忙しくしているのであろう。
仕事も、娯楽も、あまたの選択肢がある分、たしかに
「あれもしたい」「これもせねば」と忙しくしたくなる。
手紙よりLINE
手作りより既製品
歩くよりも車
なんでも早いし、便利である。
が、
この歳になってからなのか、自分の手足で、五感を通じてじっくり時間をかけて味わうのが楽しいと思うのである。

「手間」=「面倒」ではない。

思うに
「手間をかける」ということは、
自分の「魂」を「時に刻む」ということ。
だからそれは、尊いものであるのだ。

例えば、手紙

いまだにメールよりも、手紙&葉書派です。

文字を書くことすら億劫になりがちな時代であるが、
手紙の良さは「何を書こうか」とゆるゆる過ごす時間。
いびつであろうがなんだろうが、一文字一文字に込められた想い。
気持ちと時間を閉じ込めたちょっとした『タイムカプセル』が手紙である。
届くまでの時間、読んでからまた返事がかえってくるのを「待つ」という
時の流れこそが、丸ごと豊かさなのだ。
こういう風に、わくわくしたり、じれたりしながら
待つというのは心にじんわりと楽しいものであると思う。

例えば、球根。

日々の変化が美しい。時間の不思議を感じる球根栽培

水と光を与えているだけなのに、ぐんぐんと根が伸び、葉が伸び、蕾を膨らませ、開花の時を今か今かと待ちわびる。
日をめくるごとに心湧き立つこの待ち時間が愛おしい。

例えば、発酵。

すぐには仕上がらない醸成する時間こそが「旨味」の秘訣なのかも。

最近のハマり事である発酵食品づくりは最たるものだ。
乾燥麹に水と塩を振りかけて、1日1日発酵が進む様を観察する。
水分がにじみ出て、粒がなめらかに合わさっていく様子がたまらなく楽しい。そのうちバナナのような甘い香りが鼻腔を抜ける。
舌にのせて甘みを感じる。・・・微生物の織り成す魔法のような化学変化に神秘を感じ、ほくそ笑む。

これは「生徒と授業でやらねばならぬ!」と思った。
手紙も、球根も、発酵も。
テーマは「時間をかける」ということ。


時間をかける=手間をかける。
手間をかける=愛着がわく。
愛着がわく=世界が好きになる
世界が好きになる=丁寧に生きる。
丁寧に生きる=時を刻む。(急がずじっくり”待つ”を知る)
時を刻む=自分の心の声に耳を傾ける、宇宙の歩みを大切にする。

なんでもすぐ手に入れたい。
すぐ結果を得たい。
とにかく「待てない」効率や迅速さを求めがちな現代っ子。

それこそ、
「待つことの意義や楽しみ」
「時間が紡ぐ変容の奥ゆかしさ」をも併せて伝えたい。

教科書の知識とは別の軸で、時間のめくりの中に見いだす
些細な変化(時間の流れを感じる)や
日常の美しさ(変化とは美しいものである)を
味わえる五感をもつことこそが、学びの真髄にあると思う。
頭でっかちにならず、当たり前のできごとの中に疑問を持ち、
?☞!に変わる瞬間の楽しみを味わってほしい。

便利な世の中になった。
これからさらに世界の形は変わっていくであろう。
そんな中でどこまで便利で豊かになるのだろうかだろうか、という小さな疑問も生じる。

そもそも、豊かさの定義とはなんだろう。
「お金がたくさんあること」
「楽できること」
「望みが叶うこと(科学が発展し続けること)」
そう口にする子供が多い。便利になればなるほど自分が楽できるから、ということらしい。それもたしかに大切な一面ではある。
しかし、楽するのが楽しいわけではないということは、体を通して経験していかねばわからない。

本当の豊かさとは、見た目やお金のかかり具合や、科学技術の高さという観点だけではなく、本当は「自身の心の在り方」であるということを、本気で伝えなければいけないと、切に思った。

自分で、時間をかけて何かを作るということの愛おしさ。
面倒くさいことでも、続けていればなんだか愛着がわいてくること。
時間がかけてじっくり待つこと(=熟成)。

「生きる力」とは知識や問題解決能力、実践力の”スキル”みならず、
自然の造形を美しいと感じる感性、
自身の命を尊いと愛でることのできる心持ち、
そして時間をかけて物事ひとつ一つを丁寧に見つめ、
味わえる余裕
これらをじっくり養うことで初めてなせるものであると思う。

なにかにつけ、”幸せ”(便利)を求めるがちではあるが、
幸せは、はじめから周りにたくさん溢れているものだ。
気付いていないだけで・・・

ご飯が食べられる。
帰るおうちがある。
あったかい布団で眠れる。
家族がいる。
学校に行ける。
友達とおしゃべりできる。
当たり前の中に潜む、小さな幸せを感じる心を手に入れたい。

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