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真実は二つ、嘘は一つ

 俺は警官の言葉が信じられなかった。

「真美子が存在しない?」
「事実です。来亜誠さん、あなたは電脳をハックされ、偽の記憶を植え付けられました」
「そんな馬鹿な。現に彼女と撮った写真がスマホに……」

 真美子の写真はなかった。一枚も。
 着信履歴やメッセージログなど、彼女を示すものは一切ない。

「真美子なる女性はあらゆる記録に存在しません」

 警官は残酷な真実を告げる。
 真美子との思い出が全て偽物? あの輝かしい日々が全て嘘……
 ポタポタと涙が落ちる。泣くのは何年ぶりだろうか。

「偽の記憶は消せるのか?」
「現在の技術では不可能です……残念ながら」

 警官は心から同情した様子で告げる。
 気がついたら自宅のソファに座っていた。どうやって帰ってきたのか、ショックのあまり覚えていない。
 玄関のチャイムが鳴る。一体誰だ? 今は一人になりたいのに。

「誠! 今すぐここから離れるわよ」

 訪ねてきたのは流暢な日本語を話す金髪の美女だ。
 女は俺の腕を掴んで連れ出そうとする。

「待て待て。あんたは一体誰だ?」
「私はトゥルース。記憶を操作されて覚えてないだろうけど、私は誠の……!」

 その時、突然トゥルースは銃を抜く。
 銃口が狙う人物を見て俺は驚愕する。

「真美子!?」

 彼女もまた銃を構え、トゥルースをにらみつける。

「誠を離しなさい!」

 状況はさっぱりわからないが、今はいい。
 真美子は実在していた!

「良かった、思い出は嘘じゃなかった……」

 真美子に近づこうとすると、トゥルースは俺の腕を掴む力を強めた。

「騙されないで。真美子はあなたを利用するために、自分が恋人だなんて偽の記憶を植え付けたの」
「私を信じて、思い出は本物よ! トゥルースこそが誠を利用しようとしているわ。この女は全ての記録から私の情報を消し、私とあなたを引き離そうとしているのよ」

 俺は銃を突きつけ合う二人を見比べる。
 どちらが真実で、どちらが嘘なんだ?

【続く】

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