【小説ワンシーン集】パーフェクト・コントロール・ウィザード②
「ホーク、まったく君ってやつはしつこいねぇ。どうしてお姉ちゃんにそこまで執着するんだい?」
ピジョンはため息まじりに言った。
「君は十分勝ち組じゃぁないか。裕福な家に生まれ、両親から愛情をたっぷりそそがれ、おまけにとびっきり可愛い許嫁までいる。一体何が不満なんだい?」
「姉さんは何も分かっちゃいない!」
傷だらけのホークは痛みを堪えながら立ち上がる。
「勝ち組というのは! いいか、本当の勝利ってやつは自分の力で手に入れるものだ。俺の手元にあるものは、全部他人から与えられたものだ。俺はまだ、何も勝ち取っていない!」
「それでお姉ちゃんより強い魔法使いだって証明しようと? ねえ、ホーク、確かにお姉ちゃんは冒険者としてはそれなりに信用されてるけど、魔法使い業界ではなんと言われているのか知ってるかい?」
「……出涸らし」
「そう、出涸らしだ。お姉ちゃんは〈魔力微量〉の呪いのせいで、出涸らしみたいな魔力しか持たない。魔法使いにとって魔力量がどれだけ大事か分かってるだろう。ホークがお姉ちゃんに勝っても、名誉の足しにはならないと思うけどねぇ」
「それでも、俺は姉さんに勝たないといけないんだ!」
ホークが声を絞り出すように叫んだ。
「他人の価値観で決まる名誉なんてただの金メッキだ! 俺は、俺が輝かしいと思う名誉だけを身につける!」
ホークが魔力を練り上げる。すると炎の鳥が現れた。炎属性の奥義、炎の魔法・鳳の型だ。
「この世全ての魔法使いに勝ったとしても! 姉さんを超えなければ、俺は負け犬のままだ!」
ホークが魔法を放つ。
対してピジョンが放ったのは極小さな風の魔法だ。
炎の魔法・鳳の型には魔法の核のなる部分がある。そこに風の魔法で真空空間を作った。
核を消された炎の鳥が霧散する。
奥義をまるで児戯のように相殺されたホークは今度こそ気力を失って膝から崩れ落ちる。
「そんな……こんなに頑張っても勝てないんなんて」
「ごめんよ、ホーク。君の努力を無駄にして」
「謝らないでくれ! 情けをかけるくらいなら、せめて褒めてくれよ。姉さんの二番手にしかなれない人生なら、せめて姉さんに褒めてもらえなきゃ、あまりに惨めすぎるよ」
ホークはその場にうずくまりながらすすり泣く。
ピジョンは弟に掛けてやる言葉が見つからなかった。
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