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逆噴射小説大賞2023投稿作の感想

 投稿期間が終わったので今まで読んだ他の人の投稿作で気になった作品の感想を読んだ順に書く。


遺灰被りのコフィン・ポーター

 スペースオペラに魔法使いが出てきたりとか、ファンタジーにロボットが出てきたりとか、そういった”サイエンス・ファンタジー”が私は大好き。
 最近はアーマード・コア6を遊び倒したのもあって、ロボ物接種したい欲が高まってたので印象に残った。
 遺跡のあった山が空を飛んでるけど、山がまるごと飛行物体なのかな? 主人公が遺跡の秘密を解き明かしたり、あるいは脱出するのか。気になるところ。

ドラゴンアンドデートドラッグ

 騒々しさが楽しい。
 ボンクラ共が犯したミスが不運と重なってしっちゃかめっちゃかになったこの状況。これからもっと酷いことになるのは容易に想像できる。
 どんな目にあってもなんだかんだ切り抜ける運の良さと、何度同じような目にあっても懲りない神経の図太さをこの3人から感じる。
 このドラゴン騒動の最後には「今日はひどい目にあったな」といってゲラゲラ笑う姿が脳裏に思い浮かぶ。そして何日かしたらまた似たようなトラブルに巻き着込まれるんだろうな。

トマーラ

 トンチキなものを真剣に書いているタイプの作品。
 私はトマトは大好きだけど、それでも少女のように「うわぁ」と思ってしまった。
 単純にモンスター化したトマトを食べてるのもそうなんだけど、踏み潰した残骸を食べたり、ジーンズに付いたやつを舐めたりするあたりが「うわぁ」となる。ばっちいよ、腹壊しても知らんぞ。
 たぶん少女もその意味でも「うわぁ」と言ってると思う。

進藤さんちの柴コーン

 最初はトンチキながらもファンシーな少女と動物の友情物かと思いきや、「硬くて鋭利だ」あたりから様子がおかしくなる。いや柴犬がユニコーン化した時点で十分様子がおかしいけど。
 柴犬はとっても可愛いが、柴コーンを可愛いと呼ぶのは違和感を持つ。自分の可愛さを自覚して相手を油断させるあたり、まあまあ悪質な性根なヤツだと思う。ミキちゃんにボーイフレンド出来たら、こいつ絶対殺すでしょ。
 あとサムネイル画像を見た時点で、この作品を読む時の解像度がなんとなくわかった。審査の上でサムネイル画像は評価対象にならないけど、私は好き。

スペルバウンド

 英単語を聞いてその綴を正確に答えるスペリング・ビーという競技が題材の作品。
 この人が書いた他の作品もそうだけど、競技中のピリッとした緊張感を書くのが上手いと思う。
 この作品を読むまでスペリング・ビーを全く知らなかったけど、それでも1回だけ許されている質問でどう質問するかがこの競技の勝敗を分けるということた伝わってきた。
 短い文字数の中で、読者にとって馴染みの薄い競技のどこが見どころかを上手く伝えてると思う。

『ジグジグ』

 作中に登場するレプリカントは、葬式は開いてもらえるし会社の正社員にだってなれるが本物の人間としては扱われないことがうかがえる。
 「首筋の排熱板が赤熱し煙を吐く」の文からレプリカントたちの静かな怒りを感じる。
 作品の雰囲気がそうさせるのか、文章を読んで脳裏に思いうかぶ映像に色が少なくてモノクロかそれに近いイメージ。

サイバーゾンビ

 これは人間がAIに肉体を乗っ取られるというアイデアにとても感心した作品。電脳化によってハッカーに偽の記憶や人格を植え付けられるというのはサイバーパンクではよくある設定だけど、そこから一歩進んだ設定だと思う。
 主人公はAIで人類は愚かだと思ってるけど、その人類から生まれた自分たちも愚かだと自覚してる。人工知能はあくまで”人工に生み出された知能”であって、一切の誤謬のない完璧な知性ではないという考えが下敷きにあるのかもしれない。
 今はAIがフィクションの産物ではなくなりつつある時代で、そういった時代に生まれた作品という感じがする。

もしもプラズマキャノンがあったなら

 プラズマキャノンという物騒極まりない代物が、まるでメルヘンチックで素敵な物のように扱われているギャップがとても良い。
 プラズマキャノンを、まるで道端で良い感じの棒が落ちてたような感覚で拾う主人公ののんきさに、何かとんでもない騒動が起きるのではないかという予感がする。
 肉を焼くために「ひとまず」でプラズマキャノンをぶっ放すんじゃない。

平成十五年・ガンスリンガーズ

 偶然手に入れてしまった拳銃という殺人道具。主人公はそれを警察に届け出るどころか、予備校に持ち込んでこっそり教師に向けている始末。絶対なにかの不幸が起きると思いきや、「拳銃は、今じゃもう僕のペニスと完全に同化している」で突然真逆の方向へ急カーブした。
 こっちが情緒の交通事故を起こしている中、主人公の隣に座る女の子がエッチなイタズラをしようとしている。
 完全に置いてけぼりにされているけど、不思議とこの先はどうなるのか気になってしまう。

贖命のダイヤモンド

 武侠小説のような雰囲気の作品。
 主人公のフーは宝石を口に含んだだけで偽物を見抜いた。最新の鑑定機を超える精度だけど、これは技術なのか能力なのか。
 謎の男は「私の名と舌技」と言ったから他にも舌に関係する技術なり能力を持っている人がいるのだろう。
 男は友好的な態度を見せているけれど、フーが感じているように他人を利用するためにそうしているだけのように見える。フーの協力を必要としているけど、どこかで裏切ってきそうだ。

陰膳

 出だしだけを見れば、田舎で一人暮らしをする老婆だが、突然異常な光景が現れる。
 人間の手足が畑に転がってるのに、おカツばあさんはいつもの日課のように手足からアクセサリーや衣服を外していく。
 明らかにこの場所は普通の場所ではないし、おカツばあさんも普通の人間ではない。出だしで感じた葱と鰹節の匂いが吹き飛んですごい不気味だ。
 鳥居が2回描写されてるけど、ここは我々が住むこちら側ではなく、鳥居の向こう側の世界の出来事なのかも。

終わりに

 特に印象に残ったやつだけをピックアップするつもりだから、5、6作品くらいかな? と思っていたけどいざやってみたら11作品になった。

 逆噴射小説大賞は第1回から参加してるけど、こういうピックアップ記事は初めて書く。私は小説を書くくせに、感想文に苦手意識を持ってたりする。良いと思っているのに、情緒豊かに良いと感じたことを書けない。

 情熱的な感想文を書ける人はすごいと思う。

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