ドラゴンアンドデートドラッグ

「ヤバい」

 わたしが復唱するとボスは首を振る。そうじゃねえ、今回ばかりはマジでヤバいんだ。何かに乗り上げて軽自動車が宙を跳んだ。がくん。着地の衝撃。車はガタガタの道をかっ飛んでいる。

「市街地にドラゴンが出た。それはいい。俺の責任じゃねえ。クスリ積んだトラックが検問に引っかかった。それもいい。織込み済みだ。ゲートのポリ公にいくらか握らせればいい。必要経費だ。全然ヤバくない。おいミンミン!行先変更だ、権田のトンネルに向かえ!」

 指示に合わせて三人を乗せたタイヤが鳴る。

「ヤバいのは、飛んできたドラゴンがそもそも発情期だったってこと、それから、車にあったのは俺が積めって言ったクスリじゃなくて、催淫剤だってことだ!それも、恐竜用のやつ!お前か、お前が間違えたのか!」
「言われた通りに手配しましたよ」
「まあいいよ、間違いは誰にでもある。これで七度目だがおれは許す。そんなことより本当の問題はな、ドラゴンが、トランクいっぱいのウチのクスリ喰ってブッ飛んでるってことだ!」

 酒場女の嬌声のような鳴き声が遠く、ここまで聞こえてきた。

「あのドラゴン、メスか?」
「火を吐くのはオスだって聞いたことあります」

 ガソリンスタンドがブレスで誘爆したのか、頭が痺れるような爆発音と、数拍遅れた衝撃波がわたしたちを襲う。軽は三度目、空を飛んだ。
急にミンミンが「定時だヨ!ワタシ仕事終わり!」と叫んでハンドルから手を離した。時計は4:58だった。

「まだ2分あるじゃねえか!」

後部座席からボスが彼女を押し退け、器用に入れ替わる。

「ナメやがって、どのみちこのままじゃ街は終わりだ。ドラゴンのキンタマは高値で売れるらしいじゃねえか。おれも鬼じゃねえ、片方だけ切り取って復興資金に充ててやる。夜はお前の時間だなマチェット、引き返すぞ!」
「わたしの時間」

復唱するとボスは笑った。この人が笑うということは、本当にヤバいってことだ。

(続く)

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