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贖命のダイヤモンド

河南省開封市

 十六歳の傅小琛フー・シャオチェンは、人もまばらな路上に竹籠を並べて西瓜を売っていた。色褪せた西瓜の売れ足は鈍く、茣蓙に座って地面の小石を数えていると、熊のような体格の中年男がフーの前で立ち止まった。
「你是傅小琛吗?」
 男は拙い発音でフーの名を口にした。
「ヤクザは日本に帰れ」
 日本語であしらうと、男は一瞬呆けた顔をしてから勝気な笑みを浮かべた。
「日本語うまいね。私がヤクザ?」
「見ればすぐわかる。むかし父がたくさん相手にしていた」
 工場の経営が悪くなって仕方なくだ、と言いかけて、フーは目を伏せた。
「まあ聞いてくれフー少年。ヤクザも黒社会も関係ない、私の頼みだ」
 男はドスンと座り込むとリュックをまさぐり、革の小箱を取り出した。
「君の技が見たい」
 男が蓋を開くと、六つに仕切られた布地の筐底にダイヤモンドが一粒ずつ。いずれも無色透明の宝石品質、〇・五カラット。
「二万元出す。現金? QR?」
「断る」
 分不相応の富は災いを招く。
「なら復讐でどうだろう。君の父、母、宝石工場、ぜんぶの仇だ。私と組めば故郷に帰れるよ。噂の技が本物なら、だが」
 フーは男を睨んだ。ヤクザは獲物の弱みを調べ上げ、絶対に引き下がらない。
「わかった。けど金も復讐も要らない」
 仕方なく手のひらを差し出すと、男は嬉しそうに小箱を乗せた。フーは一粒を摘まみ上げて口に含み、じっくりと舐める。集中。吐き出して小箱に戻す。次の一粒を含み、戻す。
 すべて確かめてから、フーは一粒を指し示した。
「これは天然。あとは合成」
 男は巨体を震わせながら唸った。
「最新の鑑別機器でも五分五分の石だ。フー少年、いや兄弟。兄弟には私の名と舌技も明かさねば――」
「アレもおまえの兄弟か?」
 フーは男に目配せした。柳葉刀を持った三人組がこちらに近づいてくる。
 男は「あれはただの人間。借りるよ」と西瓜に突き刺してあった菜刀を引き抜き、虎のようにしなやかに立ち上がった。

(続く)

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