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第17話 本選クエスト攻略②

 白桃とグラントが向かった動力区画は灼熱地帯と化していた。とはいえプレイヤーに苦痛を与えるわけには行かないので、身を焼くほどの熱さを継続ダメージとして表現されている。

 白桃は即座に適応の魔法を自分とグラントに使用した。

「行きましょう」
「ああ」

 二人は動力区画を進む。道中では予選同様にソードマン亜種が登場した。
 たった二人ではあるが、道中のザコ敵に遅れを取りはしない。
 急所を付けば一撃で倒せる仕様というのもあるが、二人は全てのステータスを大きく上昇させるアクセサリーを装備しているからだ。
 愛の指輪というそのアクセサリーは、装備者の全ステータスを30%もアップさせる。通常であればゲームバランスを崩壊させるほどの効果であるが、引き換えに厳しい条件を満たさなければならない。

 まず、愛の指輪は『愛の試練』という二人一組で挑戦しなければならないクエストをクリアしなければ入手できない。
 さらには一緒にクエストをクリアしたプレイヤーが近くにいないと愛の指輪は効果を発揮しないのだ。
 だから白桃とグラントは戦力を分散するという状況においても、常に行動をともにする。
 やがて二人はこの灼熱地帯の熱源にたどり着く。
 広い空間だ。目測で10メートル以上はあるだろう。その中央に飛行軍艦のメイン動力があった。大量の魔力エンジンを一つにまとめたものが全力運転で赤熱するさまは、まるで機械じかけの太陽のように見えた。

「あれが邪法の媒介だな」
「いかにもって感じね」

 二人の視線の先には天井から吊るされた水晶塊があった。汚濁したその結晶はいかにも穢らわしいものであるとわかる。

「中ボスの姿は……ないみたい」

 白桃は周囲を見渡すが、それらしき敵キャラはいない。

「多分、近づいたら出てくるんだろう」

 水晶塊の下にはいかにも敵と戦うためにあつらえたかのような、円形で広めの足場が用意されている。

「白き衣をまといし癒し手よ。苦悩する誰かのために戦う真《まこと》の天使よ。我とその同胞に、害あるものへ立ち向かう力を授け給え」

 白桃はボス戦に備える。周囲に敵がいないので呪文ブースト込みで守りの魔法を使用する。
 グラントが盾を構えながら慎重に進む。白桃は彼の背中に隠れつつ警戒を怠らない。
 二人が足場に踏み入れた直後、人型の炎が現れて飛び蹴りを放ってきた。
 グラントはとっさに盾で防御する。
 人型の炎の蹴りが命中した瞬間、小爆破が生じる。グラントはその衝撃で危うく体勢を崩してしまいそうだったが、既のところでこらえた。

 白桃とグラントの視界にはエンジン・スピリット:レベル85と表示されている。それが人型の炎の名前にして、動力区画の媒介を守る中ボスの名だった。
 エンジン・スピリットは小刻みにジャンプしながら両の拳を頭の高さまで持ち上げる構えを取る。
 鋭い炎のパンチが二連続で繰り出される。パンチ自体に重さはないが、命中した瞬間に発生する小爆発こそが攻撃の要であった。
 グラントは盾で防御したが、連続して打ち込まれた爆発の衝撃にのけぞってしまった。
 がら空きになった脇腹にエンジン・スピリットの回し蹴りが叩き込まれる!
 ふっとばされたグラントは足場の手すり叩きつけられる。

「グラントさん!」

 白桃の視界に映るグラントのHPはさほど減っていない。まだ回復する必要すらないだろう。
 ダメージの大小よりも、盾役の防御が崩されるほどの攻撃がなされたほうが問題だ。どれほどダメージが小さくとも、それが致命的弱点に当たればそこで勝負は決まってしまう。
 白桃は即座に念動の魔法:不動の型をグラントに使用する。これで敵の攻撃を受けてものけぞりにくくなるはずだ。

 本当なら呪文ブースト込みでより効果を上げたかったところだが、即座に使用することを優先したのは正解だった。
 エンジン・スピリットは足元を踏みつけ、そこで生じた小爆破の衝撃を利用して一気に間合いを積めてきたのだ。敵とグラントが離れているからと悠長に呪文を唱えていたら間に合わなかっただろう。
 先ほどと同じようにエンジン・スピリットはワン・ツーパンチで防御崩しからの回し蹴りを繰り出すが、グラントは体勢を崩さずに全ての攻撃を完璧に防御した。

「よし!」

 回し蹴りという大振りな攻撃の直後で、エンジン・スピリットには一瞬の硬直があった。グラントはそれを見逃さずにどす黒い剣を振るう!

「だめ、すぐに回復されてる!」

 知覚精度を高めている白桃はエンジン・スピリットのHPが見ており、先程のグラントの一撃で3割も減じたが、一瞬で回復していた。

「僕が抑えている間に攻略法を見つけてくれ!」
「わかったわ!」

 強力な攻撃を大量に叩きつければエンジン・スピリットの回復力を上回って倒すことは出来るかもしれない。しかしこのゲームでは、よほどのことがない限り、考えなしの力技は通用しない。
 エンジン・スピリットの倒し方を見つけなければならない。
 敵は強力な支援効果を受けているのかと考え、白桃は看破の魔法を使う。HP以外の詳細なステータスの他、対象が現在受けている支援効果も表示される。

 支援効果は2つあった。魔力供給というのをエンジン・スピリットは受けている。これがあの瞬間的な回復の正体だろう。
 もう一つは解呪耐性。こちらは敵の支援効果を除去する解呪の魔法が通用しなくなる効果だ。
 エンジン・スピリットから魔力供給の効果を剥がすことは出来ない。なら、敵に魔力を注ぎ込んでいる供給元をどうにかするのがこの敵に対する攻略法だろう。
 供給元はどこか? 探すまでもない。それははじめからここにある。

 白桃はストラップで方にかけていた短機関銃を手に取る。予選クエストでも使っていたものだ。
 ストロングワークスSDMP7は特別に強力というわけではないが、連射型の銃にしては反動が少なく、片手でも使えるのが特徴だ。
 ヒーラーである以上、魔法を使うためにロングロッドは手放せないが、今のようにどうしても攻撃する必要がある時は、ロングロッドと短機関銃の二刀流で回復も攻撃も両方できるようにする。
 銃が向く先には飛行軍艦のメイン動力があった。
 白桃が引き金を引く。飛び放たれた弾丸はメイン動力を構成する魔力エンジンの一つを砕いた。
 直後、今までグラントを攻撃してきたエンジン・スピリットが突然標的を白桃に変えてきた。白桃が直接敵を攻撃したわけでもなければ、味方を回復したわけでもない。にもかかわらずヘイトが移ってきた。

「させるか!」

 グラントが素早く回り込んで立ちはだかり、敵を白桃に行かせないようにする。

「思ったとおり、メイン動力からの魔力で回復していたのね」

 メイン動力を攻撃し、回復のために注ぎ込まれている魔力を絶つ。それが内燃機関の精《エンジン・スピリット》を倒す攻略法だったのだ。敵のヘイトがグラントから白桃に移ったのも、生命線を攻撃されたからだ。
 白桃がメイン動力を撃ちつつ、グラントは敵を引きつける。しかしそれだけ倒せるほどエンジン・スピリットは甘い敵ではなかった。

「キィィィィィィィイ!」

 エンジン・スピリットはジェット機のエンジン音のような金切り声とともに床を殴る。直後、そこを中心点とした戦場全体を覆うほどの大爆発が巻き起こった。

「あうっ」

 念動の魔法:不動の型による衝撃耐性の補助を受け、なおかつ盾で防御したグラントはその場で耐えられたが、白桃はもろに爆風を受ける形になってしまった。凄まじい攻撃であった。もし戦闘前に呪文ブースト込みの守りの魔法を使っていなかったのなら、今の攻撃で倒されていただろう。
 エンジン・スピリットがジャンプし、白桃めがけて落下しながらも蹴りを繰り出す。

 白桃は回復の魔法を使うと同時に体を転がして直撃を避ける。攻撃時の小爆発ダメージまでは避けきれなかったが、一瞬早く間に合った回復魔法のおかげで戦闘不能とならずに済んだ。
 素早く立ち上がりつつもう一度、回復の魔法を使うが、エンジン・スピリットが放つボディーブローが直撃する!
 小爆発でふっとばされる白桃! 最悪なことにこの攻撃で彼女はロングロッドを落としてしまった。これでは回復ができない!
 エンジン・スピリットがとどめを刺すべく襲いかかる。白桃はロングロッドに手をのばすが、敵のほうが僅かに早い。
 これまでか!?

「津音子!」

 思わず白桃の本名を叫びながら、グラントが割って入ってきた。このチャンスを逃さず、白桃は素早くロングロッドを拾って回復の魔法を使用し、自分とグラントのHPを回復させた。

「僕から離れないで!」
「はい!」

 白桃は半ば密着するようにグラントの背に隠れながらメイン動力への射撃を再開した。この状態ならば、先程の大爆発もグラントが盾になってくれる。
 撃ち続けていると短機関銃が弾切れになった。だがメイン動力は稼働し続けている。
 両手に武器を盛っている白桃は手がふさがっているので、腰に装着しているオートリローダーという小さなロボットアームに弾倉を交換させる。
 白桃は射撃を再開する。メイン動力へのダメージが蓄積するに比例し、追い詰められたエンジン・スピリットの攻撃はより苛烈になっていくが、グラントはその全てを防御する。

「キィィィィィィィイ!」

 エンジン・スピリットが再び金切り声を上げる、あの大爆発の予兆だ!

「させるか!」

 グラントが振り上げた敵の腕を切り飛ばす。腕は一瞬で再生するが、大爆発のキャンセルには成功した。
 その直後、メイン動力は唐突に熱を失う。

『メイン動力の損傷を確認。予備動力起動。本艦は省力モードへ移行します』

 電子音声のアナウンスの後、エンジン・スピリットの体がみすぼらしくやせ細る。メイン動力の機能が停止し、魔力を節約するために供給が立たれたのだ。

「止めだ!」

 グラントの黒剣がエンジン・スピリットの胸を貫く。
 断末魔の悲鳴はなかった。魔力供給を絶たれたことで、そうする力すらも失われていたのだろう。
 エンジン・スピリットは絶命し、跡形もなく消えていった。

「やったね、グラントさん」
「ああ、後は邪法の媒介を壊すだけだ」

 媒介は遠くに会ったので、白桃が短機関銃でそれを破壊する。

「これでよし。さ、グラントさん、早くピジョンブラッドのところに行きましょう」

 二人は駆け足で艦橋へと向かった。

 艦載機格納庫は艦の腹部分にある。スティールフィストとステンレスは下へ下へと進んでいった。
 道中、ソードマン亜種が襲いかかってくるが、些細な足止め程度にしかならない。スティールフィストが前衛を務め、ステンレスは後ろから短機関銃で援護射撃する。
 武器がマジックセーバーに変わって攻撃力が大幅に上昇しているが、攻撃モーション自体は原種と全く同じ。原種で技能無しで戦う練習をしていたスティールフィストにとっては対処しやすい相手だった。
 スティールフィストとステンレスはノーダメージで格納庫への直通エレベーターにたどり着く。この先に邪法の媒介を守る中ボスが待ち構えているだろう。
 エレベーターに乗り込んだ後、不意にステンレスが話しかけてくる。

「ピジョンブラッドについて行きたがると思っていたのに、意外ね」
「そうか?」

 階層表示をにらみながらスティールフィストは答える。

「最近のあなた、なにかとピジョンブラッドと一緒にいるじゃない。今回もそうかなって思ったんだけど」

「ゲームとはいえみんなで勝ちに行こうとしてんだ、分別くらいつけるさ。それに、俺がピジョンブラッドと一緒にボスのところへ行ったら、一人で邪法の媒介を破壊しなきゃいけないやつが出てくるじゃないか」
「それを言うなら一人でボスと戦う彼女はどうなのよ?」
「大丈夫さ。新しいパワードスーツの試運転で、レベル100の敵をあっさり倒したのはお前も見てただろ?」
「まあ、そりゃそうだけど……」

 それに、とスティールフィストは心のなかでつぶやく。クロスポイント最高のボスキラーであるピジョンブラッドに暗黒の父を任せるのは理にかなっているが、できれば彼女にはボスと一対一で戦わせてあげたかった。
 暗黒の父が剣士タイプのボスであるのは明らかだ。そして、ピジョンブラッドもまた剣士だ。ゲーム上の役割《ロール》だけでなく現実でも剣士である彼女は、たとえゲームの中であったとしても、強い剣士がいるのならば正々堂々と真剣勝負したいのではないか? スティールフィストはそう考えていた。

 ピジョンブラッドと肩を並べて戦いたいという欲がないわけではないが、スティールフィストは彼女の真剣勝負を邪魔したくない。
 エレベーターが止まって扉が開くと、スティールフィストは気持ちを改めて引き締めた。ここからの戦いでしくじればピジョンブラッドの足を引っ張る。
 兵器格納庫はパークティクスの戦いで輸送機を損耗したためか空きスペースが目立っているが、それでも戦闘機や戦車などの兵器は十分にあった。
 邪法の媒介は兵器格納庫のちょうど中央部分に浮遊していた。
 そして、それを守る大男の姿もあった。

「やはり来たか魔法使い共。貴様たちに邪法の媒介を破壊させてなるものか」

 スティールフィストとステンレスの視界には中ボスの名前が、暗黒の下僕:レベル85と表示されている。
 敵は身の丈ほどはある大剣を背負っていた。攻撃力の値を見ずとも、一撃が相当重いと分かる。

「頼りにしてるぞ、ステンレス」
「任せなさい」

 ステンレスは腰のホルダーから魔法カードを取る。

『フィジカルアップ』

 使用したのは自分と味方の運動能力の強化だ。

「ゆくぞ!」

 暗黒の下僕が大剣を担いで突進してきた。狙われているのはHPの低いステンレス

 すかさず、スティールフィストが間に入る。彼は全神経を集中して敵の太刀筋を捉え、大剣の横腹に裏拳を叩きつけて攻撃を弾き、そのまま攻撃につなげる。裏拳を放った拳を引きつつ、反対の拳に腰のひねりを加えて《暗黒の下僕》の下顎に叩きつける。
 確かな手応えがスティールフィストの拳に伝わる。暗黒の下僕はバランスを崩してのけぞる。
 すでに敵の側面へと回っているステンレスが短機関銃で攻撃する。

「ぬぅん!」

 素早くバランスを取り戻した暗黒の下僕が繰り出した攻撃は遠心力を利用した水平回転横切りだ。
 大剣の射程内にいるスティールフィストはあえて離れずにジャンプして剣を避けると、空中回し蹴りを相手の側頭部に叩きつける。
 着地後、スティールフィストはほとんど密着状態の間合いで連続攻撃する。拳を十分に加速させられないので一撃は軽いが手数でダメージを稼ぐ。ステンレスも味方を誤射しないよう注意しながら射撃する。

「目障りだ!」

 暗黒の下僕が床を踏みつけようとする。それを見た瞬間に、スティールフィストは後ろに跳び、空中で防御姿勢を取る。その直感は正しかった。暗黒の下僕が床を踏みつけると同時に衝撃波が生まれたのだ。
 防御しながら後ろに跳んだおかげで衝撃波のダメージは小さい。

「今どれくらいだ?」
「まだ2割よ。もっと攻撃してゲージを貯めないとあのカードは使えない」

 ステンレスは短機関銃の弾倉を交換しながら答える。彼女の視界にはあるゲージが表示されている。それを貯めることが二人にとっての勝機だ。

「焦るなよ。今はお前が切り札だ」
「わかってるわ」

 クラフターのステンレスが取得している技能と魔法は全てアイテム製造のためのものであり、戦闘力はクロスポイントの中で一番低い。魔法カードを使い、ステータスに関係なくダメージを与えられる銃を使っているとはいえ、戦闘系のプレイヤーには一歩劣る。
 しかし、ステンレスは極めて強力な、それこそピジョンブラッドと互角のボスキラーとなれる魔法カードを所持していた。それはあまりに強力であるため、準備時間が経過してからでないと使用できないのだ。
 その準備時間がステンレスの視界に表示されているゲージだ。時間経過で蓄積され、敵に攻撃を命中させると更に貯まる。
 暗黒の下僕は再び突進から大剣を振り下ろす攻撃を繰り出してきた。プレイヤーとの距離があるとこの攻撃を繰り出す思考パターンなのだろう。

 スティールフィストとステンレスは、今度は左右に別れて大剣を回避した。そのまま敵を挟み撃ちにして攻撃する。
 与えたダメージ量の関係から暗黒の下僕はまずスティールフィストを狙った。剣速は鋭くも太刀筋は大雑把なので集中を絶やさなければ直撃は受けずに済む。
 そのすきにステンレスは背後から撃つ
 ステンレスが弾倉一本分の弾丸を叩き込むととヘイトが彼女に移った。
 暗黒の下僕が襲いかかってくるが、後退しながら射撃を継続する。
 その間にスティールフィストが背後から敵を攻撃する。挟み撃ち状態で一方がヘイトをひきつけ、もう一方が攻撃する定番の戦法だ。
 良い状況だ。二人はこのパターンを維持しつつ《暗黒の下僕》への攻撃を続ける。そうやって”切り札”が使用可能となるのを待てば《暗黒の下僕》を撃破できるだろう。

「ええい、鬱陶しい!」

 ボスキャラクターはHPが減ると行動パターンが変化する場合がある。暗黒の下僕もそれであった。
 暗黒の下僕は床を撫でるように剣を振り上げると、エネルギー波が床を走っていく。向かう先はステンレスだ。
 エネルギー波は速いがまだ距離はある。ステンレスは横に動いてして回避しようとしたが、エネルギー波は彼女を追尾する!

「あっ!」

 エネルギー波に被弾したステンレスは衝撃で転倒する。

「もらったぞ!」

 暗黒の下僕は飛び上がり、大剣をステンレスに叩きつける。
 即死するほどの大ダメージがステンレスを襲う! しかし『スーパーガッツ』を取得していたおかげで、HPは1ポイント残っている。
 倒れた姿勢のまま短機関銃を撃つ。大量の弾丸が暗黒の下僕の顔面に叩き込まれる。
 暗黒の下僕が怯んだ。顔面はほとんどの敵において防御力が低く設定されている。
 ステンレスは今のうちに素早く起き上がって敵から離れる。

「よし、来た!」

 視界では切り札の待機時間ゲージが溜まっていた。すかさず腰の魔法カードを引く。

『フリーズフォーム』

 カードを使用した瞬間、ステンレスの防具が青と白の魔法服に変化する!
 その魔法カードはプレイヤーのステータスを一時的に大幅強化し、ある特殊効果を付与する。
 ステンレスは短機関銃を構え引き金を引く。フリーズフォームの効果によって冷気の魔力が込められた弾丸が暗黒の下僕に襲いかかった!
 弾丸が命中した箇所が氷に覆われる。雨のように叩き込まれる弾丸によって、氷の面積はあっという間に広がり、暗黒の下僕の動きを封じた。
 今こそ、第二の切り札を使う瞬間だ。

『アイスブレイク”キック”スマッシュ』

 それはフリーズフォーム状態でのみ使用可能な攻撃用魔法カードだ。
 ステンレスは飛び蹴りを暗黒の下僕に叩きつけた!
 凄まじい衝撃が暗黒の下僕に襲いかかる。彼を封じ込めていた氷は粉砕され、巨体がサッカーボールのようにふっ飛ばされる。その先には電光雷鳴拳の構えをとったスティールフィストがいた。
 スティールフィストの拳が叩き込まれ、電撃の爆発が生じる!
 もはや暗黒の下僕のHPは残されていなかった。

「あ、危なかった……」
 必殺技を使用したことでフリーズフォームが解除されたステンレスはその場に思わず座り込んでしまう。
 スティールフィストもかなり肝を冷やしており、サイバースペースにいながら自分の心臓がバクバクと鼓動しているのを感じ取る。
 今回の戦いは薄氷を踏むような危ういものだった。ステンレスに大剣が叩きつけられた時、彼女があえて攻撃を選択しなければどうなっていただろうか? あの状況では敵から離れようとしても大剣の射程からは逃れられなかった。回復するまもなく次の攻撃を受けて戦闘不能になっていたかもしれない。
 とにかく中ボスは倒せた。後は邪法の媒介を破壊するのみ。スティールフィストは電撃の魔法:ジャベリンの型を放って濁った水晶を粉砕した。

「こちらスティールフィスト。こっちの媒介は破壊できた」

 スティールフィストはピジョンブラッドに告げる。


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