【ショートショート】 映画と車が紡ぐ世界 chapter24
陰謀のセオリー ~ ダッジチャージャー SXT 2009年式 ~
Conspiracy Theory ~ Dodge Dodge Charger 2009 ~
僕の部屋の対面にある
赤煉瓦のマンション
その2階の左角部屋に
最近 ショートボブのカノジョが入居した
以前の住民は
セミロングでモデルスタイルの女性だった
僕は その女性を”アリス”と呼んでいた
なぜ アリスなのか・・・というと
陰謀のセオリー”のヒロイン
アリス・サットン（Julia Roberts）に似ていたからだ
アリスは 僕と同じ電車で通勤していた
ルイヴィトンのネヴァーフルを肩にかけ 颯爽と歩く
田舎の男子校育ちの僕は
倍速で進む 都会人の彼女に 追いつくことはできなかった
オリオン座がいつにも増して
輝いてい見える夜・・・
ベランダで 春の大三角を探していた僕は
カーテンがふわりとそよぐ 彼女の部屋に
なにげなく視線を向けた
真っ白に統一された室内で
真っ赤なカーデガンを羽織ったアリスが見えた
「明日 ドライブしませんか」
階下に停まる ダッジチャージャーを見ながら
今日こそ 声をかけよう・・・
そう思ったが
ボンネットのラム・エンブレムが 心配そうにこちらを見つめている
やっぱり明日にしよう・・・
いつものように退散して 自室に戻ろうとした僕は
ふと 違和感を覚えた
改めて 彼女の部屋を見た僕は
その原因が 影だと悟った
影が・・・彼女の動きと連動してない・・・
！！
とその時・・・ 黒い塊の一部が 鈍く光った
覆面強盗だ・・・
最近 この界隈でニュースになっていた
警察に通報しながら僕は 彼女の部屋に向かった
鼓動が
レッドゾーンに突入しても 焦りから脚は一向に進まない
「お前はジェリー・フレッチャー（Mel Gibson）だ！
アリスを守る男だ！」
そう自分を奮い立たせた
ようやく 部屋に到着した僕は
扉をたたいて 大声で彼女を呼んだ
「大丈夫ですか！」
DoccccaN！
突然 扉が開き 刃物を持った男が飛びかかってきた
咄嗟に男の右手を払う！
さらに 宙を舞う刃物が床に落ちる前に
僕は 一本背負いで男を床に叩きつけた！！
ぐぅと唸る男・・・
そこに タイミングよく警官が到着した
「ありがとう・・・」
部屋の中から 僕の胸に飛び込んできた彼女が言った
幸せをかみしめながら 目を瞑ると
ハッピーエンドの字幕が降りてきた・・・
AlicexJerry - Can't Take My Eyes Off Of You
その昔 向かいの部屋に
住んでいた女性はモデルのように美しかった
しかし 彼女とは 時間の流れが合わなかった
だから僕は・・・
空想の世界で 彼女と付き合っていた
冒険活劇・・・
ホラー・・・
ラブロマンス・・・
特に 陰謀のセオリーを背景としたシチュエーションは最高だった・・・
でも・・・ 虚しかった・・・
いつまでたっても この街は僕を受け入れてくれない
空洞の身体の中で 隙間風が 啼いていた
そんなとき・・・
向かいの部屋に やってきた新しい住民・・・
北国から上京してきたカノジョは
胡蝶蘭のような圧倒的な美を振りまくアリスとは違い
野原に咲く ひなげしのようで
僕と同じ空気を纏っていた
都会に不慣れな僕たちの
ベランダ越しに始まった会話は
冒険もサスペンスもない 平凡な日常だった・・・
しかし それが
空想世界に引きこもっていた僕を 現実に引き戻し
都会に押しつぶされそうだった カノジョに笑顔を与えた
階下に停まる
ダッジチャージャーを見ながら僕は言った
「明日 ドライブしませんか」
モノトーンのカノジョが天然色に変わった
二人を見つめる
ラム・エンブレムが
助手席の主が見つかったことを 喜んでいた
・・・ その時 ・・・
カノジョの後ろの 影が・・・ 動いた・・・
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