じいちゃんの左手 その61
学校から帰ってくると
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた
右手にワンカップ 左手には “わかば”
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・
きっとこんな 会話になっただろう・・・
『8月も終わり』
「夏休み最後の今日は 何の日でしょう?」
今年の自由研究を 記念日日記にした僕
初日7月21日は 日本三景の日でスタートした
そして42日目の今日も しっかり調べた!
記念日について 詳しくなった僕は
茄子の収穫に向かう畦道で じいちゃんに質問した
僕も はじめて聞いた遠い国の独立記念日
有線も繋がらない畑で
意地悪だったかなと思いきや
「お主! 百姓が今日を 忘れるわけないじゃろ!
今日は 8月最後の日で 野菜(8/31)の日じゃないか!」
あぁ そうだった
あまりにも ベタすぎて 記念日日記に書かなかったので
すっかり忘れてた
「まぁ ワシの育てたナスやキュウリたちは
野原で育ったわけじゃないから 畑菜(バタサイ)か!」
Ga ha ha とじいちゃん
なるほど 感心する僕・・・
いや! そうじゃなくて
僕が聞きたいのは ある国の独立記念日なんだけど・・・ まぁいいか!
やっぱり じいちゃん 農家の鏡!と思ったとき
「おい! さっきお願いしたヤツ くれ!」
じいちゃん 左手を出した
あっ・・・
「ごめんね じいちゃん
わかば 忘れちゃった! ちょっと取ってくるよ!」
すると じいちゃん
「これから・・・ これから トリニダト タバコを!」
えぇ!!!!!! トリニダード・トバゴ!!(って言った!?)
やっぱり じいちゃん 大天才だった の巻!
※1962年8月31日
カリブ海の島国トリニダード・トバゴは イギリスから独立しました