じいちゃんの左手 その41
学校から帰ってくると
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた
右手にワンカップ 左手には “わかば”
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・
きっとこんな 会話になっただろう・・・
『 いい湯だな 』
「寒くなって来たなぁ」
「ほんとだね・・・」
「こんな日は 温泉に限るなぁ」
「ほんとだね・・・」
「なんだ! お主! 今日は乗りが悪いのぉ」
と じいちゃん
だって ホントに寒いし 冬休みも まだまだ だし・・・
「ふん! それじゃ 景気づけに 一曲唄ってやろう」
そう言うと じいちゃん ワンカップをマイク代わりに唄い始めた
♪ ばばんば ばん ばん ばん! いい湯だな! は は はーん ♪
ドリフだね! じいちゃん!
♪ ココは北国! 登別の湯! ハー ビバ ドン ドン ♪
あっ・・・
「じいちゃん そこは ”ビバ ノン ノ” だよ」
注意する 僕・・・
「なに言っとる 景気づけの太鼓の音! ドンドンじゃろ!」
じいちゃん マイク(ワンカップ)をぐいと空けた
「でも 音楽の先生が
”ビバ ノン ノ”は イタリア語で
それそれ!っていう掛け声なんだ! って言ってたもん!」
「お主のう・・・ そんな ワンちゃんみたいなことでいいのか!」
ワンちゃん・・・?
じいちゃん また 訳わからないこと言い出した
「ふぅ~ そこからかい・・・
いいか ワンちゃん つまり王選手!
王選手と言えば 一本足打法!
ほれっ! こうやって右足 上げるじゃろ!
だっ!かっ!らっ! 揚げ足取るな! ということじゃ!」
なるほど そういうこと・・・ って
じいちゃん ビバ ノン ノはどうしたの・・・
「いいか 言葉なんてもんは
世の中の人 みんなが 正しいと思えば それがさ正解なの!!」
「そんな・・・ 横暴な・・・」
「なんじゃ! 疑ってるなぁ・・・
それじゃお主! 素晴らしい人って 言われたら どう思う・・・」
「そりゃ うれしいよっ!」
「じゃろう・・・ だがな昔は ”ひどい人” っていう意味だったんじゃ」
えっ・・・
「貴様! と言われたらどうじゃ!」
「なんか 喧嘩するみたいで やだね!」
「そうじゃな・・・
しかし昔は 相手を敬う言葉だった
ほれ! 漢字で書けば 『貴 様』じゃ!」
なるほど・・・ 感心する僕
「だ か ら ! ビバ ドン ドン で正解なの!」
そう・・・ な の か な・ ・ ・
なんだか そんな気がしてきた
じいちゃん 今日も 面白いお話! ありがとう!
「そういえば今日・・・ 11/26は 1126で お風呂の日なんだって!」
そう言って 蘊蓄を披露する僕に
じいちゃんが言った
おい!おい!
風呂と言えば 違うじゃろ! 1126じゃなくて・・・
ほれ イトーに行くなら・・・ ハトヤ!
キラリと閃いた僕!
「4・1・2・6・ だね!」
ハトヤに決めた!! じいちゃんと大合唱!
風神も あきれてしまったのだろう・・・
いつしか
縁側に 吹きつけていた北風は やんでいた
Pufaaaaaaaaaaaaa
と煙を吐く じいちゃん
わかばの煙が 天高く どこまでも まっすぐに伸びていた
心(ハート)が 3℃ 上がってくれたら うれしいです! そんなとき 気が向きましたら お願いいたします 励みになります!