【ショートショート】 映画と車が紡ぐ世界 chapter13
12人の怒れる男 ~ マツダ RX-8 typeRS 2012年式
12 Angry Men ~ Mazda RX-8 typeRS 2012 ~
部下のミスをカバーするため 残業を余儀なくされた僕が
自宅に電話を入れたのは かぼちゃの馬車が元の姿に戻る時間だった
「すまない 遅くなって・・・」
僕の弁解は カノジョ言葉でターミネートされた
「私が今朝言ったことを覚えている?
今日は あなたに初めて手料理を御馳走した記念日よ
だから早く帰ってきてねって」
「そんなこと・・・」
軽く口にした言葉は とても重いボディブローになって帰ってきた
「そう・・・そんなこと・・・」
携帯電話が不通になった瞬間 僕とカノジョの赤い糸もプツリと切れた
結婚5年目 カノジョは家を出て行った
一日目
僕は 自分の中に宿る12人の裁判員に問うた
「僕は アイツの誕生日を忘れたことは一度も無い
Christmasも ホワイトデーも 結婚記念日だって完璧にこなしてきた
それなのに 僕はアイツの我儘に いつも振り回されてきた
アイツを幸せにさせるために
遅くまで働いてきたのに!僕こそ被害者だろう?」
この問いに 真っ先に呼応したのは 小太りのNO3だった
「そとうも!
誰が見てもカノジョが悪い 記念日ばかり作って君を拘束した
この5年間 君に自由など何もなかった!」
「そうだ! そうだ!」
裁判員の総意で 僕はアイツが謝らない限り 別れようと心に誓おうとした
そのとき・・・
「ほんとにそうかな?」
真っ赤なネクタイの老紳士NO8が呟いた
「君は最近 カノジョの顔をしっかりと見た記憶があるかい?
夜 一人寂しいカノジョは
いつも泣いていたよ 眼はいつも真っ赤だった
気付かなかったのかい?」
裁判員一同は静かになった
二日目
僕は 改めて12人に問うた
「悪いのはカノジョで!僕は被害者だろ?」
この問いに賛同する者は 10名になっていた
再び NO8が呟いた
「君は 最近カノジョに触れたかい?
君においしい料理を出そうと 一生懸命だったカノジョの手は
絆創膏でいっぱいだったよ 知ってたかい?」
三日目
僕の問いに賛同するものは半数になった
NO3は カノジョが僕を 束縛したことが全ての原因だったと力説した
しかし・・・NO8が言った
「カノジョは 一日中家にいるんだよ ただ愛する君の帰りを待ちつづけて
カノジョにとって 君こそが世界そのものだった
君は がんじがらめと言うが 本当に縛られていたのはだれだい?
君はカノジョの話を真剣に聞いていたかい?
手料理記念日の話も 本当は上の空だったんじゃないかい?」
僕の気持ちは揺れた
四日目には 僕の賛同者はNO3だけになっっていた
NO3は言った
「みんな NO8の口車に乗せられているんだ!
どう考えても悪いのはカノジョじゃないか!」
NO8は寂しそうに言った
「君は いつからカノジョの名前を呼ばなくなったんだい・・・」
Justin Bieber - Sorry
週末 いつもは勇ましいサウンドを奏でる
13B-MSPロータリーエンジンのRX-8は
港が見える丘にある
ヴィクトリアンブルーの家の前に止まっていた
僕は 1週間ぶりにカノジョへメールを入れた
「MIKAへ 今日 何の日か覚えてますか?」
カノジョからの返信は 僕の鼓動10回分で戻ってきた
「もちろんです 私たちのドライブ記念日よ・・・」
僕は再びメールを打った
「あの時のように 海岸線をどこまでも走ろうと思う
助手席に乗ってくれるかい?」
10分後 RX-8の前に現れたカノジョは 当時の姿を思い出させた
僕は カノジョの手をとる
カサカサの指を感じながら カノジョを引き寄せ そっと口づけをした
僕らの運命の糸は RX-8と同じベロシティレッドで紡がれた
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