【ショートショート】 映画と車が紡ぐ世界 chapter11
オーロラの彼方へ ~ ランサーエボリューションV 1998年式
Frequency ~ Lancer EvolutionV 1998 ~
僕の勤めるフラワーショップのむかいに
猛る牛（ランボルギーニ）のショールームがある
そこは 通りすがりの車好きが入れるような場所ではない
東京タワーのメインデッキと 同じ高さのマイルームで
ロシアンブルーを膝に乗せて
夜景を見ながら ワインで晩酌するような人たちが集う場所だ
いまこのショールームで最も輝いているのは
向日葵のように あざやかなイエローガヤルドLP560
ローマ皇帝のような気品と力強さを魅せる
ここに毎日通う少年がいる
雨の日も風の日も夏の暑さにも負けない宮沢賢次のような少年は
ウィンドウの外から ガヤルドを眺めていた
「ランボルギーニが好きなのかい」
ある日 僕は少年に声をかけた
オレンジのベストを着たKENJIという名の少年は
一枚の写真を見せてくれた
そこには幼稚園児と ヒュージャクマンに似た整備士
そして黒のカウンタックLP500が写っていた
KENJIの瞳は こぼれんばかりの涙で潤んでいる
必死にこみあげる 思いを押さえながら 無言で写真を見つめていた
父親はいないのか・・・
「よし わかった 今度の日曜日
僕が一緒に ショールームに行ってやろう」
僕は KENJIと約束した
♪Garth Brooks - When you come back to me again♪
約束の日～
「いらっしゃいませ」
受付嬢は 僕とゴーシュ少年に 満面の笑顔を見せてくれた
しかし カノジョの笑顔は アフロディーテのような優しいそれではなく
ゴルゴン３姉妹の末娘 メデューサのような冷たい笑みであった
一張羅のアクアスキュータムを着て
ホワイトカラーを装った僕の努力は あっけなく石化された
しかし 僕らには あきらめられない目標がある
Do-dodo Dodo－do Dodo－do Dodou!
僕とゴーシュ・・・いや又三郎になっていた少年は
青いクルミも 酸っぱい花梨も ふき飛ばす勢いで ガヤルドに到達した
スーパーカーの持つ威風堂々とした姿が
又三郎を興奮させる 彼は何度もガヤルドの周りを廻った
又三郎は 父親の面影を探しているのだろう
しかし そこに父親を感じられるものが あるはずはなかった
僕は 俯く又三郎の背中を押しながら
受付嬢の冷めた視線を回避しつつ ショールームを後にした
僕は 又三郎・・・今度はジョバンニとなった少年を
家まで送ることにした
フラワーショップの駐車場に停まる僕の愛車
白のランエボV GF-CP9A
ランエボシリーズ初の3ナンバーワイドボディーをまとうコイツは
4G63型2.0Lターボ280psエンジンを存分に回すことができる
助手席のレカロシートに ジョバンニを乗せると
僕はエンジンを廻した
Bahooooooooooooooooooｎ！
「うわ！ パパの車みたいだ！」
彼の父親もランエボ乗りだったのだろうか・・・
僕の父さんと同じように・・・
外は いつしか トワイライトタイム
いつから眠っていたのだろう
助手席に少年の姿は・・・ない
ただ写真が一枚
この車を見る前に逝ってしまった父さん・・・
そして僕とLP500・・・
オーロラが起こす奇跡のように ランエボが 銀河鉄道になった
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