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じいちゃんの左手 その53

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『 母の日 in 2024 』

「じいちゃん 大変だ!
 母の日なのに まだ何にも用意してないよ どうしよう (;'∀')」

「なにを慌てとる 男なら もっと どっしりせんか!」
縁側で ドシンとあぐらをかく じいちゃん ワンカップを ゴクリ!

「そういう じいちゃんは 準備できてるの?」

「ふん! わしの母さんは とっくの昔に墓の中じゃ Gahahahaha」

豪快に笑いながら 
Pufaaaaaaaaaaaaaと煙を吐く じいちゃん
となりで ごほっ・・・ と咳き込む僕
そんなこと言ったら 罰が当たるよ と思いながら

「それじゃ ばあちゃんに 何かプレゼントしたら?」

すると じいちゃん 
去年を思い出したのか
それもそうじゃな!と 言いながら 大声で ばあちゃんを呼んだ

忙しいのにと ぼやきながら やって来た ばあちゃんに 
突然 縁側から地べたに飛び降りた じいちゃん
北町奉行の桜吹雪を見た 下手人の様に
両手と頭を 地面にペタリとつけると 大声で叫んだ!

『Ha! Haaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』

「何やっとるの! くだらんことで 呼ぶんじゃないよ!」

じいちゃんの頭をポカリと叩いて 
そそくさと台所に戻る ばあちゃんの後ろ姿を見ながら 
じいちゃんが一言・・・

「はい! これで ははーっの日 終了!」 

夏日のはずなのに・・・ 
僕とじいちゃんの間を すきま風が吹いた

♪ すきま風 杉良太郎 ♪

そのとき・・・

「ばあさん! ありがとよ!」

じいちゃんが 遠くを見ながら 小声で呟くのが聴こえた
目線の先にあるのは じいちゃんのお母さんのお墓・・・ 
その花立には 
真新しい カーネーションが 供えられていた
みんなの 優しさに触れた僕は
母さんと ばあちゃんに 桜色の折り紙で お手伝い券を 作ることにした


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