映画と車が紡ぐ世界chapter147
コクーン:ニッサン フェアレディZ S30型 1969年式
Cocoon:Nissan Fairlady Z S30 1969
僕の家には 真っ白な砂浜のプライベートビーチがあった
と・・・
カッコよく言っても 実のところは
小さな入り江にある 純和風の我が家の隣に
突如 キラキラ輝く オレンジ色の屋根の洋館が建ったため
この2軒の敷地を通り抜けないと
海岸にたどり着けないエリアが できただけのことだ
いつも太陽のように輝いている洋館は 桜の咲くころ完成したが
7月になっても だれも 引っ越してくる様子はなく
プライベートビーチは 永遠に僕専用になるのではないかと思った
ところが
僕の人生で一番気温が高くなった日
洋館の駐車場に車が停まった
屋根の色と同じ オレンジ色の 1969年製 フェアレディ―Z S30
憧れの車だった
フワリと S30が僕を引き寄せる・・・
あと一歩で 触れることができる距離まで到達したとき
!!
S30のオレンジが パチリと破裂!
波打ち際に 同色の発光体が キラリと輝きながら 飛び出した
僕の瞳を焦がした その物体は 水着の女の子だった
「こんにちわ」
日焼けしてない真っ白な肌のカノジョの
水着姿を直視することは 悪だと直感した僕は
ロボットのように 極力無感情を装った
「コ・ン・チ・ワ」
真夏の太陽より・・・ 洋館の屋根より・・・
オレンジ色が似合う 眩しい子だった
次の日から
カノジョは 毎日ビーチにやってきた
「私 人混みが苦手なの・・・
だから 夏の間は ここでのんびりと過ごすわ」
同い年のカノジョは そう言った
「この場所は 二人だけの 秘密の遊び場よ ” 約束ね ”!」
やくそく・・・
そのフレーズに 鼻の奥がツンっとした
カノジョは オレンジ色の太陽の季節が終わるころ
S30と共に 都会へ帰っていった
翌年も
その次の夏も S30とともに カノジョは やってきた
そのころの僕は
学校の友達とプールに行くことはなくなっていた
カノジョがいる間 僕は カノジョと一緒にいた
とても楽しかった夏の思い出
しかし・・・
高校2年の初夏
我が家にプライベートビーチがあることを
学校の友達に話してしまった
S30が来る前だったから問題ないだろうと思った僕は
友達を自宅に招いて ビーチで遊んだ
その年 オレンジ悪露の太陽の季節を迎えても
S30とカノジョは 現れなかった
ある日・・・
ビーチの砂浜に 文字が 書かれているのに気付いた
「約束だったのに・・・さようなら」
僕の胸に 大きな穴が開いた 塞ぎようのない大きな穴が・・・
そして・・・
二度と洋館に S30とカノジョが 来ることはなかった
あれから20年・・・
祖父の他界を機に 無人になっていた生家に 僕は戻ってきた
当時から古民家のようだった 我が家は
20年前と同じ姿
一方 隣の家は キラキラした輝きを失っていた
人生で最も暑い日を更新した今日・・・
久しぶりに
真っ白なプライベートビーチから 僕は 海に飛び込んだ
FUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU
気持ちイイ・・・
海上から見た洋館は 新築だったころと同じように見えた
全てが 20年前に戻った・・・
そんな気がした
甘酸っぱい記憶の中のカノジョに向かって 僕は呟いた
「映画『コクーン』では 約束を破った老人たちに対して
最後まで 暖かく接したじゃないか・・・
そうか・・・ 彼らは・・・地球人じゃなかった・・・」
夕日が沈むまで 砂浜で横になっていると
Kirariiiiiiiii
!!
洋館の駐車場に オレンジ色のS30が 夕陽に照らされて輝いていた
「はい どうぞ」
♪ Blue Moon - Cybill Shepherd ♪
ふいに僕の肩に
コクーンのように柔らかい タオルがかけられた
!!
ふと見上げると
そこには 20年前の面影をのこした 女性が立っていた
「私・・・人混みは 苦手なの」
今宵はブルームーン
月に2度目の満月は 幸せの奇跡を起こす・・・
「約束やぶって・・・ ごめん・・・」
20年前の一言が やっと カノジョの耳に届いた
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