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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter51

トランスポーター ~ BMW 735i E38 2001年式 ~
Transporter  ~ BMW 735i E38 2001 ~

104年前 ピケット工場で 
T型フォードの第1号車が製造された 9月27日の今日
僕は TakashiとCafebar Casablancaにいた

「少し遠いけど 荷物を届けてもらおう」

ブラックジャックで負けた僕は 男らしくTakashiの要求を受け入れた

週末 僕は 
BMW 735i E38を駆って
ススキの穂波が銀色に揺れる道を 西に向かった

助手席には W400mm D200mm H100mmの段ボールが一つ
重さはほとんど感じない・・・

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Takashiの家の前で
Amazonの宅配用の段ボールのような荷物を 
片手で 受け取った僕は  

「これなら オレの車より郵便局に頼んだ方が 速いし安全じゃないか?
 片道150kmもかけて 手渡しするほど 大切なものなのか?・・・」

ポンポンと 荷物を軽く叩きながら 愚痴をこぼした

「おい! 大切に扱えよ!
 お前は 子供の頃から 第一印象だけで判断しすぎなんだ!
 食器棚の奥で 埃をかぶってた食器が 数百万円することもあるんだぞ!
 昔遊んだ ソフビ人形だって いまじゃお宝アイテムだ!
 この箱の中身がどんなに貴重な物かは 行けばわかる!」

Takashiのたとえ話が適切なのか 疑問符を感じながらも

「悪かった・・・  約束(依頼)は必ず守る・・・」
 
フランク・マーティン(Jason Statham)の決め台詞で 
Takashiに詫びた

灰皿の場所に隠された暗証番号を解除!
・・・と 
これも トランスポーターになった脳内イメージ

アクセルを 踏み込んだ
 
735i E38の 水冷V8 32バルブ 3497ccのエンジンは
スムーズなクルージングカーとして 
ジェントルな雰囲気を醸し出しつつも
ドライバーのアクセルワークに感応して 
瞬時に獰猛なネコ科の猛獣に変貌する 

「安全運転で行けよ!」
背後から叫ぶ Takashiの音声データは 
735i E38の加速に追いつくことは無った

トラップなど あるはずもなく
ぎりぎりの届け出時間を設定されているわけでもないが
フランクになりきった僕は 
しきりにバックミラーと 時計を意識した 

5時間後 
敵の銃弾を浴びることも Peugeotのパトカーに
追われることもなく
車(735i E38)は 
太平洋に突き出だ丘に建てられた 白亜の建物に到着した

「病院か・・・」

指定された住所の最後に書かれた 
333という数字は 病室番号だった

長い間 陽にあたらないことで手に入れた 
透き通るほどに白い肌に
純白のワンピースを着た女性がベッドに座り
窓の外から海を見ていた
その部屋は 患者を含めて モノトーンの世界だった

Mika?・・・ 
 
後ろ姿ではあったが
その雰囲気で僕は悟った
モノトーンの住人は 
行方知れずになっていたカノジョだった
 
必死に捜したが カノジョの消息を知ることはできなかった・・・

カノジョは 
まだ 僕に気付いていない・・・
声をかけようとしたとき
カノジョが 振り向いた・・・ あっ・・・

鳶色でいつも艶やかだった瞳も・・・ 真っ白だった・・・
目が見えないのだ・・・

僕と一緒に 病室に入っていた看護師が 
箱を受け取り カノジョに手渡した

箱の中身は・・・ ビニール袋が一つ
カノジョが 不思議そうに 
ビニール袋を撫でていると それは 簡単に破れた

部屋中が BALM MINTの香りで 一杯になった

と同時に・・・
カノジョは 布団の中にもぐりこんだ

モノトーンの部屋が 時を忘れたようにフォトグラフと化した

♪ Nadia Life Of A Stranger

何日も経過したように思える 
体感時間を再び動かしたのは カノジョだった

「この香り・・・ Hiroクンなんでしょう?・・・」

布団をかぶったまま カノジョは語り始めた 

「ごめんね・・・私・・・ 交通事故にあってしまったの・・・ 
 もう目が見えないの・・・
 自分の足で立つこともできない・・・
 こんな身体になってしまった私は 
 あなたと一緒に生きていけない・・・ だから・・・
 だから 私は この世から消えてしまいたかった・・・
  
 でも・・・ 逢いたかった・・・
 いつも 暖かい太陽のような貴方に・・・
 時がたつほど その思いが強くなって・・・
 抑えきれない思いを 私は看護師さんに打ち明けてしまったの・・・

 後で知ったことだけど
 私の看護師さんは 貴方の友人のTakashiくんの妹さんだったの・・・」
 
Takashiの手配した届け物は 香りと記憶だった  

僕はカノジョを 布団の上から きつく抱きしめた

「やっぱり Hiroクンには シーブリーズの香りが似合う」

布団から顔を出したカノジョの涙でぬれた頬を 
僕は 両手で優しくぬぐった 
冷たかった頬が 暖かくなるのを感じた・・・

白一色の部屋に 赤い花が咲いた

※Nadia Life Of A Strangerは 
映画トランスポーターのエンディングで使われました
貴方は
命を救ってくれた 魂を救ってくれた 心を救ってくれた
夢を救ってくれた ・・・いい曲です・・・



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