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映画と車が紡ぐ世界chapter96

戦場にかける橋 ミツビシ アウトランダー PHEV G 2013年式
The Bridge on The River Kwai Mitsubishi Outlander G 2013

8月15日終戦記念日 
世界中で繰り返された 大量殺戮の6年間が終焉を迎え
人々はそれぞれの立場で 人とは何かを問うた
また・・・
遠い未来 宇宙世紀0069 ジオン公国が誕生するのも 8月15日
地球の重力から解放され
新しいアイデンティティを 手に入れたスペースノイドたちも 
その時点では 宇宙での長き戦いが 始まるとは夢にも思わなかっただろう

人類にとって宿命の日 それが8月15日
そして 僕にとっても・・・

カーステレオから響く サイレンの音 
戦争を知らない僕も この瞬間だけは 少しだけ心を静め 目を瞑る
祖父から父へ 
そして自分へと引き継がれてきた我が家の習慣を 
きっと僕も子供に伝承するだろう 

Kon Kon

運転席の窓ガラスをノックする音で 僕はユルリと目を開けた
ブルーのボーダーワンピース 
毛先をカールさせたミッディアムヘアーのカノジョが 
アウトランダーPHEVを覗き込んでいた

「遅いぞ!」

ごめん ごめん!と言いながら助手席に乗り込むカノジョは
いつもより 少しだけ眩しく見えた 

アクセルを踏んでも エンジンが稼働しないため 
殆ど無音発進のアウトランダーPHEVは
モーツァルトのレイクイエムに響く
バセットホルンのような モーター音だけを 仄かに残して 走り出した

明らかにダークサイドにいる僕に気付かず 
山間にかかる鉄橋を渡るときには クワイ川マーチを口遊さむカノジョは
今日も RV車のハイビームのように 明るかった

君の心の中は 今日もアイツのことで いっぱいなのだ・・・
 
それでもいい
いつの日か 僕との思い出が アイツとの時間を超える日が来る 
そう信じていた

♪Mitch Miller - The River Kwai March♪

しかし・・・
それは幻想だった

アイツが死んだあと
5年かけて カノジョとの間に作った心の橋
本当の想いを伝えるための橋
この橋を渡って カノジョにプロポーズをしようとしたとき
カノジョのスマホに保存された アイツを見つけてしまった・・・
人生を退場したアイツとは 
どう足掻いても 再戦も終戦も できない・・・

君と一緒に行ったドライブは 
全て 君とアイツとの思い出の場所だった・・・

今日の目的地・・・
潮の香り いっぱいの砂浜は
アウトランダーPHEVのヘッドライトを消すと
既に 月明りだけの モノトーンの世界

「別れよう・・・」
ニコルソン大佐(Alec Guinness)と 彼が築いたクワイ川鉄橋のように 
自ら築いたカノジョとの心の橋を 

僕は・・・ 爆破した

星屑で一杯の空を見上げるため 
いや・・・
星屑のような涙がこぼれ落ちないように
車を降りると カノジョをおいて 砂浜に寝そべった

「これで いいんだ・・・」

暫くすると 
右手側の砂が沈みこんだ 
ジャスミンの香りが それがカノジョだと言うことを知らせた

「橋は落ちた・・・ 僕には もう君を 
 安全に家に送り届けるという義務しか存在しない・・・」
夜空を見たまま 呟いた

その時 ツウと流れ星が 夜空に白い橋を架けた

「地上の橋は無くなっても 空には 架かるのね」
僕と同じように 空を見上げたまま カノジョが続けた

「彼との思い出の場所に行くことで 彼に別れを告げていたの・・・
 そして・・・ 貴方と一緒に生きていくことも・・・ 
 ここ・・・ 波崎海岸が最後の場所・・・」

カノジョは スマホにいた アイツを消した

その瞬間 
闇夜を切り裂くように 星屑たちが一斉に流れ 
天に大きな橋が架けられた・・・ペルセウス座流星群・・・

「Hoshino いや Mika・・・ プロポーズは 男にさせるもんだ」

上半身を起こした僕は
永遠に封印しようとしていた 
エンゲージリングをポケットから取り出すと
流星たちが消える前に 手探りでカノジョの薬指にはめた
 
月明りで輝く カノジョの瞳からは
流星群に負けないほど 無数の大粒の涙が こぼれていた

こうして 僕は 終戦を 迎えた


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