子どもが喜んだ親が楽しかった絵本 その5 何も事件は起きず、淡々と、アメリカ ニューイングランドの、昔の農家の一年の営みを描写する絵本、『にぐるまを ひいて』。なぜか心が落ち着いて、こどもも、しんとして聴いている。何も起きない系・絵本の傑作です。
にぐるまひいて 大型本 – 1980/10/15
ドナルド・ホール (著), バーバラ・クーニー (イラスト), もき かずこ (翻訳) ほるぶ出版
10月 とうさんは にぐるまに うしを つないだ。
それから うちじゅうで みんなで
いちねんかんに みんなが つくり そだてたものを
なにもかも にぐるまに つみこんだ。
という見開きから始まって、
荷物をいろいろ積み込む様子が、何見開きか描かれる。
4月に とうさんが かりとった
ひつじのけを つめた ふくろ
とうさんがかりとった ひつじの けをかあさんがつむいであんだショール
かあさんが つむいだ いとで
むすめが あんだ ゆびなしてぶくろ5くみ
ろうそくや、リンネルや、やねいたや、しらかばのほうきや
じゃがいもや、りんごや、はちみつや、はちのすや
がちょうのはねや、そういうものをにぐるまにつんで、
とうさんは、ひとりで、10月に、ポーツマスまで
10日がかりで、いろんなものを売りに行く。
ポーツマスでは、つんでいったものだけでなく
つくったものを入れていた袋や樽や
荷車や、ひいてきた牛まで売って、とうさんはお金だけを手にする
ここで読み手のぼくも、きいているこどもたちもちょっとびっくりする。
とうさんは そのお金で、なべと ししゅうばりと
バーロウナイフと はっかキャンディを買って
なべに買ったものを入れて、なべに ぼうをとおしてかたに かつぎ
のうじょうや むらを いくつもすぎ
おがわをたどり たにをぬけ おかをこえて
むすこと むすめと かあさんが
まちわびている いえに やっと もどった。
そして、10月からの、冬から5月までのくらしが描かれる
うしを売っちゃって大丈夫なのかなと思っていると
そして そのよる とうさんは だんろの まえに すわって
なやに いる わかうしの ために
あたらしい たづなを あんだ
あれだけ全部売ってしまっても、売ったものは冬の間に、
また新しく自分で作るんだな、ということがわかってくる。
とうさんは ふゆじゅう あたらしい くびきを けずり
あたらしい にぐるまの いたを ひき
そして やねいたを きりだした。
そして、5月に、りんごの花がさいて ちり
じゃがいもや きゃべつや かぶをうえ
みつばちがみつをつくりはじめ
そして うらにはでは
がちょうの むれが ガアガア なきながら
くものように かるい はねを まきちらす
で絵本は終わる。
家族が協力して、あらゆるものを自分たちで作って、それを年に一回、売りに行って、自分達では作れないものだけ、ちょっとだけ買ってくるけれど、
あとはまた、一家で協力して、いろんなものを作る一年が始まる。
そういう「暮らしと仕事」ということについての、大事件は起きない、淡々と続いていく生活が、きれいな絵とともに描かれている絵本。
毎日が無事に続いていく安心感、安定感のようなものが、絵本から伝わってくる。
ドラマチックなお話だと、たとえば「薔薇のお約束(美女と野獣の原作童話)」だと、商人のお父さんは商売の長旅の帰り、通りかかった屋敷の庭で、娘にと薔薇を摘んでしまったために大変な事件が起きるし。
あるいは、ある少年は、牛を売った大切なお金をつまらない豆と交換してしまったり(ジャックと豆の木)。そういう話をたくさん聞いているから、聞いている子供たちは、「何か事件が起きるのかな」と初めのうちは、ちょっと不安になります。特に、お父さんが出かけていお金を手にしたあたりで。
でも、この絵本では、そういう事件は起きません。
生活がたんたんと続いていく安心感。必要なものを、家族が協力して、作っていく安定感。現代人の生活からは失われてしまった、そういう「一年のリズムの中での、暮らし」というものが、伝わってきて、それは、夜、おとうさんやおかあさんに絵本を読み聞かせてもらう子供にも、なんとなく、伝わるみたいなんですね。
何もおきないのだけれど、聞いていると、こころが安心になって、だんだん眠くなってくる。そういう種類の絵本と言うのが、あるのですね。
読み聞かせ絵本として、この本、とてもいい。今読んでも、素敵だなあと思います。