『愛その他の悪霊について』 ガブリエル ガルシア=マルケス (著), 旦 敬介 (訳) なんでだか「もののけ姫」のサンとアシタカを思い出してしまいました。話が進むほどに、神話のようなおとぎ話のようになっていく、美しくも壮絶な愛の物語でした。すごくよかった。
『愛その他の悪霊について』 2007/8/30
ガブリエル ガルシア=マルケス (著), 旦 敬介 (翻訳)
Amazon内容紹介
これだとどういう話なんだか分からんなあ。じゃあ、帯の裏側のほうに書かれていることをどうぞ。これはよくまとまっているぞ。
うん。こういう話だった。ここから僕の感想。
この「侯爵の一人娘」っていうのが、もうほとんど、狂犬に咬まれる前から、母親にも父親にも家の中で見捨てられて、黒人奴隷たちと一緒に自由に育っていて、雰囲気、もののけ姫なんだわ。アフリカの言葉を話して、ヤギだのなんだのを裁いては目玉や睾丸を煮込んで食べて、素晴らしい声で歌って、音もなく歩き回る。そういう娘が「狂犬病疑いのような、悪魔憑きのような」兆候が表れたというか、そういう「もののけ姫」的振る舞いがひどくなっただけなんだが、娘への愛に目覚めた父親・侯爵がなんとか助けようと修道院に預けて悪魔祓いを受けることになるわけだ。
父親はどちらかというと無気力無能な人なのに対し、母親はもう若い時は美貌と欲望の塊のような人で、侯爵夫人におさまってからは、美貌の奴隷男との愛欲まみれ生活にふけって、夫も娘も省みない、しかし商売上手で当初は金を稼ぎまくってはやりたい放題。というすごい女だったのが、その美貌の愛人を失ってから、もう奴隷男をかたっぱしから並べてはやりまくる乱交生活、商売も傾く、太るし一日中、うんことおならしまくる、人間の形をとどめない、もう怪物のようになっているわけ。ここらへんはガルシア・マルケス的にはよくあることだけれど、他の小説ではほとんど出てこないものすごい存在なわけ。
そういう父と母に見捨てられて家の中でもののけ姫みたいに育って、狂犬病悪魔憑き疑いで修道院に入れられた娘(このとき12歳)と、悪魔祓いを命じられた、若き、といってもこのとき36歳のなので若くないのだが、学識豊かで詩人の孫で、信仰と文学の間に揺れる神父が、もうアシタカとサンのような劇的な愛に飲み込まれていく、という話なわけなのである。
わかんないよね。わからないよ、ガルシア・マルケスの小説は。読んでいると、その世界にひたっていると、もう面白くてやめられない止まらないになるのだが、全く合理的ではないし、登場人物一人一人が、脇役ひとりひとりに至るまで個性強烈で。キャラの立ち方と一人一人のエピソードが、もうすごい。
父や母の人生の末路まで含めて、どんどん現実離れした神話のような、童話寓話のような様相になっていくなかで、劇的に唐突に、物語は終わる。いやたしかにそうだろうな。
話はちょいと変わって
序文で、ガルシアマルケスは、この小説を書いた、考えたエピソードを書いている。
ガルシア・マルケスが駆け出しの新聞記者だったときに、ある修道院の地下納骨堂の工事をしていて遺骸の発掘整理をしているのの取材に行ったところ、以下抜粋引用。
というわけで、祖母の話(ガルシア・マルケスの創造力の源)と、取材体験から紡ぎ出された、全く独特で美しい愛の物語でした。
本文は190ページほどで、短いのですぐ読めると思います。実は他の長い本を読んでいてなかなか進まないので、浮気してひょいと手に取ったら、あんまりおもしろくてこちらをどんどん読んでしまったのでした。
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