見出し画像

『日没』桐野 夏生 (著) 圧倒的絶望感のディストピア小説ですが、エンターテイメント小説としても超一流。一気に、一晩で読んじゃいました。怖い、つらい、面白い。

『日没』桐野 夏生 (著)


翻訳家の鴻巣友季子氏ツイッター「作家を主人公・語り手にしたディストピア小説傑作3作。小川洋子『密やかな結晶』いとうせいこう『小説禁止令に賛同する』桐野夏生『日没』
『日没』と『小説禁止令に賛同する』はどちらも体制の意に沿う文章を書かされる。」

この前の、小川洋子さんの『密やかな結晶』に続いて、二冊目は桐野夏生さん。読みました。一気に。一晩で読んだ。

Amazon内容紹介
「あなたの書いたものは、良い小説ですか、悪い小説ですか。小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は―。」

ここから、僕の感想。
 いやー、ディストピア小説、古今東西の、いろいろ読んできたけれど、これは、死ぬほど怖い。基本、ディストピア小説は絶望的気分になるからディストピア小説なんだけど、

 これほど読んでいて、死にたくなった小説はないというくらいつらい。というか、こうやってFacebookやnoteにいろいろ書いていること自体が怖くなる。いや別に僕作家じゃないから大丈夫って思えるかと言うと思えない。現代に生きていること自体が怖くなる。

 ものすごく普通の日常から、地獄みたいな状況への連続性、避けられない感と、そうなったら人間そうだよね弱いよね、と「おいおいそこでなんで主人公はおーい」という展開と、桐野さん、小説が上手。いやほんとうにあまりに小説が上手なので一気に一晩でノンストップで死ぬほど息もできないくらい怖くて苦しいのに読んじゃいました。

 入院経験×警察の方とちょいと関わってしまうような経験が、小説家的想像力を経由すると、こんな恐ろしい世界が出来上がっちゃうんだろうなあ。僕の人生の中でそう多くない、そういう経験の際に感じた漠然とした恐怖感が、何百倍の恐怖体験に増幅される感じ。小説家ってすごいもんだと思います。

 小川洋子さんのと同様、小説中で、主人公が小説というか、作文を書く、小説中小説が出てくる。小川洋子さんの方は、いろいろなものが失われていく世界で、小説そのものすら失われていくことに抵抗しつつ小説を書く。この小説の場合、当局国家権力の気に入るようなものを書かされる。小川さん、桐野さん、それぞれの小説創作の方法とか特徴が、この小説内小説の創作の中で、(あくまでこれは主人公の小説創作作法であり、私の創作方法ではない、と作者は言うだろうけれど)、それでも、小川さんらしさ、桐野さんらしさがにじみ出ていて、そこはなかなか興味深い。そういう「小説家小説」としての面白さもあります。

 僕の読む小説、普段はかなり純文学ばかりで、読みにくいとっつきにくいのが多いのですが、これは、問題意識、テーマは深く深刻ですが、小説の作りとしては、流石に桐野さん、エンターテイメント小説として読みやすい。(この、純文学とエンターテイメント小説、というサブテーマも、結構入っています。) 小説にエンターテイメント性も求める方にも、そうそう、ディストピア映画、荒木 伸二​さんの映画「人数の町」観た方、面白かったーという方にも、お薦めです。あの映画との比較も、面白いと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?