瑞木理央 〜水の領域(短歌と詩)〜

瑞木理央(みずき・りお)です。ここでは自作の短歌を発表しています。2009年から「月ノ…

瑞木理央 〜水の領域(短歌と詩)〜

瑞木理央(みずき・りお)です。ここでは自作の短歌を発表しています。2009年から「月ノヒカリ」名義でブログを書いてます。より詳しいプロフィールはそちらで→ http://newmoon555.jugem.jp/

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最近の記事

【連作短歌】 旅立ち

生き終えた樹木が朽ちてゆくようにわたしの湖(うみ)も乾きはじめる なつかしい匂いの部屋に包まれて時計の音に別れを告げて にんげんのかたちを解いて生命のはじまりの夜を迎えにいこう ひび割れた記憶の束はぜんぶぜんぶベッドの上に置いて、わたしは ひかる窓ひかる天井ひかる扉(ドア)ひらいてひかる道がうまれる 澄みきった青い空へとつづく道 眩しくてそう、なにも見えない なにもかもひかってるからもうわたし光らなくてもだいじょうぶだね やすらかに眠れわたしが呼吸する機能を終え

    • 【短歌】月に寄せて

      目を閉じて息を澄ましてこの夜と一つになってゆく闇の肌 メランコリアの月はお菓子を食べ過ぎてほろんほろんと降る粉砂糖 魔女の肌色の今夜の月だからケチャップまみれにするオムライス 銀の屑しゅらしゅら砕け降る夜の銀の欠片でみずうみを買う 木枯らしが月の鏡を磨くからぼくら仄かに光っているね 棄てられたピアノが(りるら)唄いだす月のひかりが流れ着く岸 太陽の光を月は吸いこんで吐きだす息がメロディになる 素裸でふるえる月のたましいは両性具有(アンドロギュノス) とおい瘢痕

      • 【連作短歌】蟹のいる生活

        青痣が消えない点滴針の痕 終末前夜をどこまでも行く 血のにじむ絆創膏を剥がすとき無音の白い空間が来る 肝臓に棲む黒蟹の消息をきくたびに潮騒がうまれる 遺伝子の捩(よじ)れた蟹にぴったりと寄り添うような波をください 両肺に水玉模様の火を宿し浅瀬で泳ぐように息して 黒蝶ひらり万緑をゆく病む肺のようにひろがる翅ひややかに 天上の糧はこの世で食べたいね雪の香りのアイスクリーム 生きるとは別のいのちを奪うこと呼ばれた順に旅立つキウイ わたしより前(さき)に薬を試されて逝

        • 【連作短歌】青葉のコード

          紫陽花の珠がほどけてきらきらの蕊が地球を芯から照らす 鶯がまた口ずさむ六月のアリアに森の声が重なる 龍の庭にプラスチックの遺物あり ヒトは何処でもピクニックする QRコードが埋め込まれた青葉たまに雀も読み込んでゆく ウイルスの生きのびかたを称えつつ新たなランナーとすれちがう 世界がずっとくだりだったらいいのにね 坂道を降りきって夕風 青梅雨の死が近づいてくるようなやさしい音に触れつつ、前へ

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        • 自作短歌一覧
          42本
        • 詩のようなもの
          6本
        • 【連作短歌】サイバースペース5部作
          5本

        記事

          【短歌】この世へと

           題詠〈雛〉 この世へと生(あ)れ来る前の雛の棲む卵の中のちいさな宇宙 転生を繰りかえすたび草臥れてゆくたましいを滌(すす)いで翠雨 こころの生ぶ毛をそっとなぞって火のようなあなたの深みに触れる 言葉で

          【連作短歌】踏まれた薔薇

          殺意閃くさくらばな殺す側にわたしはきっとなれないでしょう      * 心臓が裂かれる音をきいていた箱庭の薔薇踏みしだかれて 花には花の痛みがあってこの夜も誰かが水の包帯を巻く 花の文字、薔薇の言葉を解さないヒトらの靴の裏で花片は どの薔薇も怯えたように目を伏せて内なる空を吸い込んでいる 怒りには土を かなしみには海を 溶けない痛みには月の瞳(め)を 知りすぎたたましいはもうぼろぼろで焼けたベンチに凭れて祈る 薔薇を踏むヒトのこころは歌えない踏まれた痛みしかう

          【短歌】むらさきの

          むらさきの屍体散らばるように花あえなく果てて桐の樹の夏

          【連作短歌】春の回廊

          春が来る 眠れる土に高らかなボレロを響かせて春が来る アーモンド、杏、さくらに似た花をあつめて春の回廊とする 三月の風の針先つついたら染井吉野のけはいが覗く 四月にはいろとりどりのキャンディーが空からこぼれおちてはひらく 冬鳥の消えた池には龍が来てみどりの声を意訳している 乱視の眼、貸してあげるね。木洩れ陽がイルミネーションみたいにずっと 昨日より淡いさくらのまなざしを風のデータに閉じ込めてゆく 騒ごうよ サービス精神旺盛な孔雀に羽根を分けてもらって 春暮れて

          【短歌】千の眼を

          千の眼を瞠(みひら)くように羽ひろげ異界の春を告げる孔雀よ 艶やかな求愛なんぞ目もくれず姉妹孔雀の午後の長閑(のど)けさ

          【連作短歌】沈みゆく春に

          花びらにひらりひらりとウイルスを宿しいのちを削る桜よ 恋じゃない恋じゃないけどこんなにも掻き乱される見えない君に 綻びてゆくシステムは日常の息の根をゆるやかに縛って 春の陽を感じていよう咳をしただけで独りになる車両でも 祈るように手を洗いつつ沈みゆく春のひと日をひそやかに抱く 週末は超カラフルなマスクして知らないひとと接触したい カフェオレを手に純粋な死について語り合えた日を奇跡と憶う

          【連作短歌】 午前27時のLove Letter

          目が合った瞬間(とき)をぼくらは忘れてる波打ち際で鳴るファンファーレ 誤字すらも可愛い君のmailから感染したい どうせ飛ぶなら ぼくたちの痛さ苦さも溶けてゆき溢れて海は永遠になる 吊り橋の上でぼくらは遥かなる波に呑まれぬように離れた 百億年のちの宇宙へ歌を産もう このまま君を滅ぼす前に 詩歌とは、媚薬。あなたのたましいの翼となって虚空に果てる 太陽系焼き尽くすほど恋してた惑星ぜんぶ道連れにして いつまでもそのままでいて双子星(ポルックス)あなたの息が光跡になる

          【連作短歌】 午前27時のLove Letter

          【断章】美醜について

          私は あなたという存在の根源から放たれる美しさ を知っている 私は あなたという存在の深淵に蠢く醜さ を知っている かつて 私は あなたの教室の12列目で あなたが声を発する瞬間を待っていた 一分の隙もなく鎧われた あなたの言葉の尖りが 私には心地よかった 私はあなたの美しさに魅せられた いつからだろう あなたの内に 小さな洞(うろ)を見かけるようになったのは その洞は 私の内に巣食うそれと とてもよく似ていた 私はそれをも好もしく迎え入れた そして あの日 あなたのハ

          【連作短歌】見えない戦争の時間です

          言の葉の渦巻く海よ水中で目には見えない戦争がある 奪うより与えることを選んだら今しも骨になりそうな月 バーチャル鬼ごっこの鬼たちは月の裏で朽ち葉をかぞえていたが 欲望がせめぎあう夜この惑星(ほし)の芯をふるわすほどの痛みを 水晶を愛したことは罪じゃない(忘れないのは水晶の罪) 降臨を待ちのぞむ日を 液晶の窓の向こうの気が荒れる日を 冬天の感極まって潤んでる星があなたの歌を奏でる 暗黒の宇宙ひろがりひと筋の白い吐息の抵抗のあと じゃんけんをしようかぼくの聖域とき

          【連作短歌】見えない戦争の時間です

          【断章】因果関係の創造

          (1)サラダにかけるドレッシングを作ろうとしたら、ハーブソルトが切れていて、食卓塩を使った。サラダはいつもより塩っぱかった。 (2)マスクを家に忘れて、そのまま満員電車に乗ってしまった。その夜、喉が炎症を起こした。風邪をひいたようだ。 (3)地獄坂を後ろ向きで歩いていたら、目の前を黒猫が横切った。帰り道で転んだ。 [問] (1)〜(3)の中から、因果関係が科学的に説明できるものを選びなさい。 もしくは、あなた自身のあらたな因果関係を創造しなさい。 [解答] わたしのし

          【連作短歌】エレベーターで上がったり下がったりした日

          透明な種として過ごしたい街で個体識別されて冬空 高層ビルの窓に映った青空と雲と高層ビルがまぶしい シースルーエレベーターに運ばれてこのまま一人で昇天したい あすの朝ゴジラに変身していたら私がビルを踏みつぶす番 二〇〇メートル下りれば歩道を人類があるいていたので私もあるく いつの日か廃墟となって堕天使がはしゃぐ駅前バベルの塔よ ビル風に殴られながらシャッターを押すゆびさきが無言のままだ ◎初出: http://newmoon55

          【連作短歌】エレベーターで上がったり下がったりした日

          【断章】 ◯ と私のあたらしい関係

          あなたは優しいひとだ 私が犯した罪を知っても 私を責めなかった あなたは冷たいひとだ 私が苦しみ悶えていても 手を差し伸べてくれなかった なにも言わない なにもしてくれない あなた たとえそうであっても あなたを知って あなたのもとに辿り着いたこと そのことが 大粒の花びらの渦となって 私を満たし そこから 私を巡るあらゆる粒子が やわらかな光を纏いながら耀きはじめたのだ あなたは 生まれて間もない子どもみたいに なんでも欲しがって 手に入らないと 嵐のように泣き叫び

          【断章】 ◯ と私のあたらしい関係