椿2

【断章】美醜について

私は あなたという存在の根源から放たれる美しさ を知っている
私は あなたという存在の深淵に蠢く醜さ を知っている

かつて 私は
あなたの教室の12列目で
あなたが声を発する瞬間を待っていた
一分の隙もなく鎧われた あなたの言葉の尖りが
私には心地よかった
私はあなたの美しさに魅せられた

いつからだろう
あなたの内に 小さな洞(うろ)を見かけるようになったのは
その洞は
私の内に巣食うそれと とてもよく似ていた
私はそれをも好もしく迎え入れた

そして あの日
あなたのハイヒールの踵が
私の首もとに触れたとき
その硬く冷たい感触が 喉を食い破り
私の声は閉ざされた

あなたの口が引き裂かれ
不気味な嗤い声が 廊下を響もしたとき
私は凍えそうになりながら ただ震えていた

男に踏みにじられるように
女に踏みにじられた おんなの悲鳴が
私にはきこえた

あなたに踏みにじられたおんなは
あなたの足の その硬さと冷たさを 忘れまい

ひとは
美しく着飾ったもののうちに 醜悪な澱を覗き込み
醜悪なもののうちに 耀く石を見いだす

いつかふたたび 交わることがあれば
私はあなたに告げようとおもう
あなたの美しさと あなたの醜さについて


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