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歳を重ねるほどに革新的「マチス展」

東京都美術館で開催されている「マチス展 2023年4月27日~8月20日」に行ってきた。

ちょっと不思議な雰囲気の作品。何か言いたげ。

マチス展は、初期の試行錯誤の時代からフォービズム、装飾性の高い鮮やかな色彩の絵画と続く。
私が「マチス」と聞いて想起するのはだいたいこの辺りの絵画のイメージだ。



装飾的、赤色、室内、平面的、黒の太い輪郭。私が今まで思っていたマチスの典型だ。


マチス展はこれでは終わらない。この後に「切り絵」「ロザリオ礼拝堂の資料」が展示されているのだがこれが素晴らしい!

黒い太い線でダイナミックに描かれた顔のないのっぺらぼうの人物画など、まるでジュリアン・オピーのようにクールだ。また切り絵作品は完全にポップアート。80歳前後のおじいさんが作ったとはとうてい思えない若々しさに満ちたモダンな作品だった。

ほとんどのアーティストは30歳~60歳くらいにピークを迎え、加齢と共に技術がついていかなくなり表現も甘くなっていくが、稀にその年齢に合わせた技術をうまく使いこなし、歳をとればとるほど、より革新的になっていく人がいる。マチスがそうだ



切り絵が展示されている部屋は残念ながら撮影できず。
その部屋の前に少しあったのがこの切り絵。

ここでまたアーティストの寿命のことを考えてしまう。
もしマチスが30歳前に亡くなっていたら、フォービズムの運動を起こすこともなく、ただのモローの影響を受けた画家だね、くらいで終わっていただろう。現代アートの世界も今のようにはなってはいまい。

逆にもし、エゴン・シーレやモディリアーニが80歳近くまで生きていたとしたら。。。考え出すとキリがないのでやめておこう。
ただアーティストにとって何歳まで創作できるかは非常に重要なことだと思った。

マチスと共に近代絵画の巨匠のもう一人、ピカソと比べると、マチスの清廉な生き方がより際立つ。

マチスの最晩年は「ロザリオ礼拝堂」の創作に力を注いだ。自分のためではなく、誰かのために、何かのために。
肖像写真を見ても知的な紳士の印象だ。
それに比べピカソの最晩年は欲望のままに春画のようなエロチックな絵を描きまくった。キュビズムの作家だったのに、人としては野獣派(フォービズム)だ。

ネットのニュースで読んだのだが、ここ最近ピカソの評価が下がってきているという。その理由は、ピカソの女性蔑視的な思想と行動だ。いかにすごい作品を作ったとしても、現在のモラル、価値観に照らし合わせ、その人間性がダメであれば、作品の評価にも影響を与えてしまうことになる。私はどちらかというと、作品は作品として評価すべきと考えている。作者の人間性で作品を評価すれば、人殺しの犯罪者であるカラヴァッジオの作品はどう評価されるべきだろうか?

人としてはクズだが作品は素晴らしい、ということでいいんじゃないだろうか。作品については、結局は時間が正当な評価をしてくれるのだと思う。

より大きな時間の中での裁定が下るまで、良いことどうかわからないが、
これからしばらくは、ピカソではなく、マチスの時代になりそうな予感がする。

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