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薄暮

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#エッセイ

夏の蝉として

夏の蝉として

早くに起きてヨタヨタ窓まで近付く。
薄いカーテン越しに東の空がほんのり白んでいて、よし、と一息吐く。服を着替え上着を羽織り、10分後には原付に跨っていた。きっと誰にも遭遇しないので化粧はしない。

今日である理由は特にない。例の如く私の習性だ。この放浪癖(友人がそう呼んでいた)には従ったほうがいいという持論がある。幸いにも今日は一日休みなので気を急く必要もなく、のんびりとまだ薄暗く冷え込む道路を走

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今となっては些細なこと

今となっては些細なこと

夜になると涙がぼろぼろと出る。三月に入ってからずっとだ。自分のどこにこんな水分があったのか不思議な程に。

まるで幼い頃に戻ったようだなと思う。小学校低学年のときはよく泣いて周りを困らせていた。本当にいつも泣いていた。今よりも臆病で、些細なことがとても怖かった。

それも中学に入ってからは減っていったが、その代わり人のいないところで泣くようになった。当時の私は家のことでかなり気を病んでいて、ずっと

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移ろいの一部分

移ろいの一部分

生活のふとした瞬間に、私は死を思う。
朝靄に霞む山の光に目を細めるとき、公園のベンチでコーヒーを飲んでいるとき、寝転がってスマホをいじる休日の昼下がり、くたくたに疲れて乗る帰りの電車、夕日を浴びて自転車を漕いでいるとき、毛布を抱き締めて呼吸をする深夜。そういう日常の中でふと、あ、今死んでもいいなと思う。年を取る度に生きることへの執着が無くなっていく。私は一体どこに向かっているのだろう。

高校生

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