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人材選抜におけるジレンマ(人材選抜の効果とジレンマ)(3)

「人材選抜におけるジレンマ」をテーマにとりあげて、3回に分けて考察します。
今回はその3回目です。「人材選抜の効果とジレンマ」をテーマに考えていきたいと思います。(Mr.モグ)

人材選抜の前提条件

人材選抜を行うときに、まず私たちが考えるべきことは、「受験者層の確保」が挙げられます。
いくら難しい「試験(テスト)」や手間暇かけた「選抜方法」を考えたとしても、それを受ける受験者数が一定数確保することができないと、効果的な人材選抜を行うことができません。

さらに、その集めた受験者層の潜在的な能力レベルが、一定以上であることが重要になります。人数だけは集まったとしても、その受験者層のレベルが、採用目的や試験の目的に合致した、レベルに合っていることも必要になります。
加えて、試験(テスト)の結果と求める人材の能力との相関が高いことが必要になります。いくら求める能力レベルに合致した受験者が多数集まっても、それらの受験者を選抜する方法が間違っていたら、効果的な人材選抜はできないのです。

採用選抜の効果

Taylor and Russell※は、採用選抜の効果は 次の三つの変数によって規定されるとしています。

※Taylor, H. C., & Russell, J. T. (1939),The relationship of validity coefficients to the practical effectiveness of tests in selection : Discussion and tables.Journal of Applied Psychology, 23, 565 578


①受験者の中で(採用後に)その仕事を十分に行う能力を持っている者の比率「ベースレート」
(どんな人でもこなせる仕事の場合は、ベースレートは高くなり、誰を採用してもかまわない。逆に、専門性が高く、慎重な選抜により適任者を選ばなければ、その仕事をこなせない場合は、ベースレートは低くなる。)

②受験者の中から実際に採用された人材の比率「選抜率」これは前述の競争率に相当します)
(厳しい選抜を行えば、上位のごく少数の(優秀な)人材だけを採用することになる。逆に、選抜が緩く(競争率が低く)なるにつれて、受験者の多くが(下位の者も含めて)採用されることになる。)

③選抜テストの方法と仕事の成果との相関の程度「妥当性」
(仕事の成果に関連した妥当性の高い選抜方法を用いた場合、妥当性係数は高くなり、それにより選抜された人材は、採用後に高い成果を発揮する可能性が高くなる。逆に、仕事の成果との関連性が低い選抜方法を用いた場合には、妥当性係数は低くなり、採用した人材からはあまり高い成果を期待できない。)

さらに、Taylor and Russellは、「選抜率」と「妥当性」の効果について、次表のような関係性を示しています。
なお、「ベースレート」は、受験者全体に占める「求める人材」の比率を示し、ここでは0.50 のケースを用いて説明します。

※ベースレートは、組織が直面している労働市場の要件であり、個別の組織(企業)にとっては所与の値とされています。ここで掲載した表では受験者(応募者)の中に適格者は50%含まれていることを示しています。

ベースレートと採用率の表

表頭(横行)は「選抜率」が、表側(縦列)は「妥当性係数」の大小が示されています。
この表からも明らかなように、

選抜率が小さくなれば(選抜が厳しくなり競争率の高い選抜になるので)より優秀な人材が採用できる可能性は高くなり

②選抜方法の妥当性係数が高くなればより優秀な人材が採用できる可能性も高くなる
ことがわかります。

これらのことを具体的に表からみていくと、次のようになります。
前回説明したように、Ghiselli※のテスト成績と職務成績との相関研究から、その多くが0.2~0.4前後であったことを踏まえ、「妥当性係数」は0.20「選抜率」は0.10(受験者1000人で10人の採用)とすると、「採用の成否確率」は、64%(0.64)であることがわかります。

(逆に37%は選抜テストで見分けられない可能性を示しています。(すなわち、採用した10人中、4人は求める人材水準に達していないかもしれないのです。))

※Ghiselli,E.E,The validity of occupational aptitude teste,John Wiley,1966,
Ghiselliは、数多くのテスト成績と職務成績との相関研究を行った結果、「実際の能力」と「試験の成績」との相関係数は、多くが0.2~0.4前後であり、0.6を超えるものは知能と訓練成績のように特殊な場合に限られていると報告しています。

他方、選抜テストの精度を高め、「妥当性係数」0.40に改善した場合は(他の条件が同じなら)、「採用の成否確率」は、78%(0.78)まで高められる可能性があることがわかります。

このことは、募集PR費用をたくさんかけて多くの受験者1000人を集め、何人もの試験官による面接を行って10人を採用するという(手間暇かけた)厳選採用※(「選抜率」は0.10)をしなくても、選抜試験の精度(妥当性)を高め「妥当性係数」0.40まで高めることができれば、募集PR費用をそれほどかけずに集まった受験者20人から10人を採用する(「選抜率」は0.50)ことにしても、「採用の成否確率」は、63%(0.63)となり、同じ効果になることを意味します。

※厳選採用:
募集PR費用をかけ、多くの受験者を集めて、それらの多くの受験者から、手間暇かけて選び出すことになるので、当然、採用コストが多くかかります。

すなわち、「選抜試験の妥当性」が高まれば「採用の成否確率」が高くなるのです。

このように、「選抜試験の妥当性」を高めることは、非常に重要なことです。しかし、仕事内容にもよりますが「採用後の(実際の)能力を的確に予測することは難しいのが現状です。
人材選抜を行う私たちは、少しでも選抜テストの精度を高め「妥当性係数」を高める努力を行うことが求められるのです。
このことは、採用選抜コストを抑えつつ効率的に人材を選抜することに直結することなのです。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございます。(Mr.モグ)

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