今さら聞けないRobinhood②:他の証券会社とは一線を画する体験設計
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今さら聞けないRobinhood②:他の証券会社とは一線を画する体験設計

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昨日IPOしたRobinhoodについて、前回は主な収益源となっているPFOF (Payment for Order Flow) の仕組みについて説明しました。この仕組みはコミッションフリーの株取引を実現してRobinhoodは一躍株初心者にとってのモバイル証券のスタンダードと言える程に成長した訳ですが、今や他の証券会社でも普及したビジネスモデルであることにも触れました。この記事では、このようにビジネスモデル自体がユニークでない中、なぜRobinhoodが引き続き多くの個人投資家を惹き続けるのか、つまり体験設計についていくつか事例を取り上げたいと思います。

株初心者の成功体験を助けるフリーストック

日本でも新しい証券サービスで見られるようになった手法ですが、口座開設時に特定の銘柄の株が一株ランダムでもらえるサービスをRobinhoodは行っています。この銘柄の選択がどのような仕組みが取らているのかはわかりませんが、かなり筋の良い銘柄が配られている印象です。

例えば、私は一年前にCleveland-Cliffsという北米の鉄鋼業系の企業の株をもらったのですが、当時$6程だったのがわずかこの一年で4倍以上(+334%)の$25近くになっています。同じ期間のS&P500のETF(+36%)と比較しても如何に優れた銘柄だったかがわかります。何もしていないのにさも個人投資家として成功体験をしたかのような錯覚を得ますし、もしこの株をもっと買っていれば...と夢も湧いてきます。

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S1曰く、このフリーストックは元々口座開設後のすべてのユーザーに付与していたのですが、2020年に銀行口座連携をしたユーザーにのみ配るように変更して、獲得コストの収益回収期間を13ヶ月から5ヶ月へと劇的に短くできたとのことです。

前回の記事でPFOFがビジネスモデルと述べましたが、数ドルのフリーストックを配った後に、どれだけその金額以上の収益を得る程の取引回数がされるのかがRobinhoodのビジネスにおいては重要になってきます。面倒な手続きでもある口座連携を乗り越えた後に、持っている株が成長すれば、より投資をしてみようという気にもなることは想像に易いでしょう。

「今買いたい」を止めないInstant Deposit

アメリカのお金の流れは実は結構遅いことが多く、一般的な銀行間送金の仕組みであるACH Transferを使ってRobinhoodに入金しようと思うと最大5営業日かかってしまいます。(個人の小さな金額の移動は遅いか高い、という資本主義の米国らしい問題があり、いつか別の機会にそのトピックについても書くかもしれません。)今すぐ買いたい株があるのに、デポジットしている金額が少ないばっかりに買うを見送ってしまうことが起きてしまえば、Robinhoodとしては塵も積もって大きな機会損失になります。

そのような機会損失を防ぐために、RobinhoodはInstant Depositという、最大$1,000までなら着金が完了する前でも取引ができる仕組みを提供しています。例えば、$100を銀行口座からRobinhoodに入金する手続きをすると、その瞬間から$100分は株をすぐ買うことができるのです。感覚としてはクレカのお金の流れに近いと言えるかもしれません。一回の取引金額の平均は$8~10とS1の資料にも書かれているので、$1,000は十分な金額であることがわかります。

また2019年よりCash Managementというほぼ銀行口座と変わらない機能(ATMからの出金、デビットカードでの支払い、記事執筆時点での利子0.30%など)を提供しているので、多くのお金をデポジットしていても損をしないと思わせる仕組みを作っています。

とにかくシンプルな購買体験を実現するBuy in Dollars

前回の記事で端株は便利な投資体験である旨を以下のように説明していました。

“この端株での取引は、資産の少ない人に限らず、あらゆる人にとって便利な投資体験を提供します。例えばあなたが1万円で投資をしたいと思ったときに、候補となる各銘柄がそれぞれ株価がいくらかなど考える必要なく、1万円をどのように配分して増やすのかだけに焦点を当てることができるためです。”

この内容についてもう少し具体的な画面を交えながら説明します。以下はAppleの株を買う画面の例です。このタイミングでは一株$146.25だったのですが、$100分のみ(約0.684株)買うことがRobinhoodではできます。このように欲しい金額分で買う機能をBuy in Dollarsというのですが、これは端株売買を提供している大手証券会社でも提供していない場合が多い機能です。提供されていない場合は、自分で0.684株という計算をせねばならず、またマーケットプライスでオーダーした際はきれいに$100にならないことも度々あります。

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端株とコミッションフリーとBuy in Dollarsの組合せはなかなか強力で、例えば毎月$100分Apple株を買う、みたいな貯金代わりの投資を好きな銘柄で無料でできます。また、$100のようにキリの良い数字で買えば、自分の投資のパフォーマンスの把握も非常に容易になります。一株辺りの株価を気にせず、欲しいときに欲しいだけ買うことは、株初心者には馴染みやすく、しかしこれまで当たり前ではなかった購買体験です。

アプリを開かない間のマインドシェアを得るRobinhood Snacks

RobinhoodはRobinhood SnacksというPodcastとニュースレターを運営していて、アプリを開いていない間もRobinhoodでの売買の関心を保つ取り組みを行っています。Podcastでは20分弱の間に3つのビジネストピックが取り上げられ、それが平日毎日配信されるわけですから、かなり力を入れていることがわかります。リスナーをSnackers(スナッカーズ)と呼ぶなど、証券会社の真面目そうな雰囲気とは大きく異なるカジュアルなノリも大きな特徴です。

このRobinhood Snacksは、MarketSnacksという若者向け投資情報のPodcastやニュースレターを運営していた会社を2019年5月に買収し、リブランディングしたものです。S1曰く、2020年末時点でニュースレターの登録者数は約3,200万人、Podcastは約4,000万回ダウンロード、更に2021年1~3月の間で追加で1,000万回ダウンロードがされたというので、メディアとして強力なパワーを持っていることがわかります。

テック企業がメディアを買収する事例はいくつかあるかと思われますが、その中でも最も成功している事例の一つなのではないでしょうか。

SNS的なインタラクションを演出するアプリ体験

SNSで見られるUIや施策がRobinhoodでは度々見ることができます。

その一つの例が通知です。チャットのようなレイアウトになっていて、各銘柄とコミュニケーションするようなインタラクションになっています。こちらからアクションをとる場合もスマートリプライ(Facebook Messengerなどでみられる、返信内容例の候補が表示されていてワンタップで返信できる機能)が採用されているなど、ほぼラーニングコストなく使える仕様になっています。

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また、一年の終わりには自分の投資活動を振り返るサマリーが送られてきます。これはFacebookやSpotifyなどでもとられている手法ですが、実際に弊社職場でも「自分が今年最も見た銘柄はxxxだった」みたいな会話が生まれるぐらいには楽しめたコンテンツではあります。イラストレーションが凝っていて印象にも残りやすかったです。

RobinhoodがRobinhoodたる理由

Robinhoodはこれまで大手証券会社が重要視しなかった資産の少ない若者に対して、SNSのような操作感でコミッションフリーの端株売買を提供することで投資の機会を与え、勉強の欲求をカジュアルな形で満たし、RobinhooderやSnackersなどの言葉が生まれる程の文化を築き上げました。非常にクリアなターゲットユーザーに対して、最適なビジネスモデルを構築し、包括的なカスタマージャーニーを描き、メディア買収や機能開発によって多くの顧客を獲得し成長した、プロダクト開発の教科書のような事例だと言えるでしょう。

Dentsu Innovation Studioでは、このような米国での先進事例を日本向けにチューニングし、ビジネス・デザイン・テクノロジーの観点でプロダクトを成功に導くサポートをしています。ご関心のある方はinfo@dentsu-innovations.comへご連絡下さい。


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サンフランシスコ在住のプロダクトマネージャー。Dentsu Innovation Studio立ち上げメンバー。南カリフォルニア大学MBA。元楽天。noteではシリコンバレー/アメリカのプロダクトの情報を発信していくつもりです。