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今さら聞けないRobinhood①:手数料無料のからくり、PFOFについて説明

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今年は米国フィンテック企業のExitが目白押しですが、その中でも最も関心を集めているのがRobinhoodでしょう。米国時間7/1(木)に開示されたS1や、いち利用者としての私の視点を交えながら、Robinhoodがなぜ注目を集めているかを紐解いていきます。

掘り下げ甲斐のあるプロダクトなので、数回にわたって投稿したいと思います。今回はビジネスモデルのコアとなっているエンドユーザーからの手数料無料ながら大きな収益源になっているPFOF(Payment for Order Flow)について説明します。

この記事はフィンテック関係者、特に証券ビジネスに関心のある方におすすめです。

*この記事は米国プロダクトを紹介することを目的にしたもので、投資の勧誘をするものではありません。

Robinhoodとは

米国で最もメジャーな証券アプリです。Comission Free(売買手数料なし)に、$1からFractional Shares(端株)を買うことができます。本社はメンロパークというfacebookも本社を構えるシリコンバレーの一画にあります。

Robinhood(ロビンフッド)という名前は映画やアニメにもなっているイギリス発祥の伝記のタイトルで、悪政を働く王様に国民とともに立ち向かう義賊の主人公の名前でもあります。S1の資料で「We are all investors」と大きくうたっているように、これまで一部の資産家にしかアクセスできなかった投資をすべての人に機会として与えることが彼らの思想として掲げられています。売買手数料のない端株は、その思想を最も裏付けるものと言えます。

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主な数字を見ていくと、いかに彼らが投資の裾の尾を広げたかがわかります。2021年3月末時点で、Net Cumulative Funded Accounts(累積稼働口座数)が1,800万口座、そして全ユーザーのうちRobinhoodをきっかけに投資をはじめた人が50%以上となっています。日本の個人の証券口座の総数が2,700万口座程度であることと比較すると、いかにいち企業が大量の顧客を抱えているかを想像できるのではないでしょうか。Robinhooder(ロビンフッダー)というRobinhoodを利用しているユーザーを指す言葉があるぐらいに、人気のあるサービスです。

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特にコロナ禍に入ってからの成長は目覚ましいものでした。2019年末時点でのNet Cumulative Funded Accountsは510万口座、そして2020年末で1,250万口座、そこからわずか3ヶ月で1,800万口座と、この1年と3ヶ月の間で急激な成長を遂げたことがわかります。成長の理由はコロナ禍による不景気に応じた投資機会に対して、若年層の投資初心者同士のネットワーク効果が働いたことが大きいでしょう。

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端株取引はRobinhoodのビジネスモデルの観点でも大変重要な役割を果たしています。彼らの2021年1~3月の収益総額$522million($1=110円換算で約574億円)のうち$420million(同換算で約462億円)、つまり約80%がTransaction-based revenues(取引による収益)となっています。エンドユーザーからはお金をとらず、なぜこれほどのTransaction-based revenuesを生んでいるかのからくりについては後述しますが、ビジネスの根幹であることは紛れもない事実でしょう。

この端株での取引は、資産の少ない人に限らず、あらゆる人にとって便利な投資体験を提供します。例えばあなたが1万円で投資をしたいと思ったときに、候補となる各銘柄がそれぞれ株価がいくらかなど考える必要なく、1万円をどのように配分して増やすのかだけに焦点を当てることができるためです。

日本では端株どころか100株などの単元単位でしか取引できないケースが多いですが、どのようにこの$1からも投資可能な端株取引を無料で提供し、それで収益を生んでいるのかをこれからみていきます。

PFOF(Payment For Order Flow)というからくり

エンドユーザーから手数料をとらないのに、Transaction-based Revenuesが$420millionあると述べましたが、そのほとんどの$311million(約342億円)がPFOFによるものです。

PFOFを非常に簡単に説明すると、誰が何を買う/売るのかという「情報」自体を売る、という収益の生み方です。直訳すると「オーダーフローへの支払い」となりますが、「オーダーフロー」とはまさに誰が何を買う/売るのか、ということを指します。情報の買い手はMarket Maker(マーケットメイカー)と呼ばれる投資家です。PFOFは電話で証券が売買されていた時代から存在するものらしいですが、それをインターネットの時代に、端株の売買に適応したのがRobinhoodのイノベーションといえるでしょう。

もう少し踏み込みこんで説明しますと、Robinhoodでの株の売買は直接証券取引所と行っているのではなく、間にMarket Makerが挟まれており、Robinhoodからのオーダーと証券取引所の情報をみて、取引の差額でMarket Makerは儲けています。例えばApple株を$141で買いたいRobinhoodのユーザーと、$140で売りたい人をMarket Makerは見つけ出し、その取引を成立させ、差額の$1でMarket Makerは儲ける、みたいな仕組みです。その取引は機械的に行われ、ものの1秒にも満たない間に完了するので、HFT(High Frequent Trading)と呼ばれます。実際にRobinhoodのユーザーの体感としては一瞬で売買が完了するスピードです。

Robinhood以前の株の売買は、取引の度に手数料を払う仕組みが米国でも一般的でした。しかし端株のような場合によっては数ドル程度の取引に毎回手数料など払っていると、期待するキャピタルゲインに対して手数料の方が高くつき過ぎて取引などする気にもならないでしょう。実際にRobinhoodで多く取引されているのは$8~10/取引の範囲とのことです。

PFOFへの批判

このPFOFによるエンドユーザーへの取引手数料無料化はRobinhoodをきっかけに様々な企業が提供し始めました。今や大手証券会社のTD AmeritradeやE*TRADE、Charles Schwabなども提供しています。しかしRobinhoodのPFOFが最も高い手数料であることがしばし批判の対象にもなったりします。Market Makerの観点からすると、投資経験のない投資家の情報ほど欲しいものはない、ということのようです。言い方を変えれば、RobinhooderはMarket Makerからすると高値づかみをしがちなので、他の証券会社より高めのPFOFを払っても十分ペイできる、ということでしょう。名前の由来が貴族に立ち向かう義賊と述べましたが、結局儲けているのは機関投資家などのMarket Makerという点は皮肉かもしれません。

またRobinhoodは度々悪い取り上げ方もされます。最も批判が高まった出来事としては、2021年2月に起こったGameStop事件でしょう。これについては日本語でも様々な既存の記事があるかと思いますので、本記事では多くのスペースを割かないですが、要はインターネット掲示板などで人を募って潰れる見込みの企業の株を大量に買い、株価を不当に上げて機関投資家を打ち負かそうとした取り組みです。(上手に逃げ切って短期間でミリオネアになった人もいるとのことですが...

個人の未熟な投資家が束になってマーケットを歪ませたこの事件は、PFOFによって実現された無料(に見える)取引なしには起こり得なかった出来事でしょう。

なぜRobinhoodは若手投資家を惹きつけ続けるのか

ある種、PFOFによる儲け方はGoogleやfacebookのようなプラットフォーマーの儲け方に近いものがあります。彼らは無料でサービスを提供して多くのユーザーを獲得し、ユーザーの情報で儲ける、という仕組みです。Robinhoodでは広告を見ることはないので、見えない形で情報が取引されている違いはありますが。

そして多くのユーザーをプラットフォームに惹きつけ続ける、つまりアプリのエンゲージメントを高める仕組みという点でも、プラットフォーマーで確立されたベストプラクティスがRobinhoodにはふんだんに盛り込まれています。これは伝統的な証券や銀行のアプリと比較すると顕著で、なぜRobinhoodが端株ビジネスが普及した今でも特別に若年層に受けているのかが見えてきます。

ということで、次の記事では、もう少しアプリの体験に踏み込んだ内容を書こうと思っています。


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