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【第2回 勉】発展と進歩の象徴あべのハルカスから真っすぐ歩けば、僕たちはあいりん地区にたどり着く

 僕は京都に住んでいるので、長い休みの時は大阪に遊びに行くことがあります。中でも一番よく行くのは万博記念公園です。1970年の高度経済成長期に開催された大阪万博のテーマは「人類の進歩と調和」でした。万博記念公園はモノレールを使わないと行けないのですが(恐らく)、それもなんだか高度経済成長期らしいというか、「人類の進歩と調和」らしいというか、不気味に感じてしまうんですよね。当時はすごくきらびやかだったんでしょう、そんな中で岡本太郎がつくった「太陽の塔」のフォルムはすごく異質です。

「人類の進歩と調和」には正直あまり似つかわしくない風貌のこの太陽の塔は、「進歩と調和」を嘲笑っているようにも見えます。なんだか皮肉めいている、というか。
 同じ理由で、僕は大阪の「新世界」にすごく気持ち悪さを感じます。新世界は大阪の観光名所ともいえる場所です。

 画像の真ん中に立っている塔は通天閣です。一度は聞いたことがある方が多いと思います。僕はこの塔に書かれている「社会イノベーション」という言葉にすごく薄気味悪さを感じてしまいます。
 ただ「社会イノベーション」という言葉が書いてあるだけが薄気味悪いのではなくて、ここはいわゆる「あいりん地区」と呼ばれる(検索してみるとすぐわかります)ホームレスの方が多い地域のすぐ近くなんですよね。観光客向けの新世界のエリアを一歩抜ければ、地元の方が利用していそうな安い居酒屋がいくつかあったり、あまり綺麗ではないけれど安いネットカフェがいくつもあったりします。正直、地域の特性もあいまって、「ネットカフェ難民が多いのだろうか」と邪推してしまいます。ネットカフェを尻目に徒歩数分歩くと、新世界エリアの最寄駅である大阪メトロの動物園前駅にたどり着きます。駅前にはとても綺麗な広場があり、なんと星野リゾートもありますし、あべのハルカスを目視することができますが、駅前の広場ではよく男性の方が寝転んでいたり、ごみがあちこちに散らばっていたりします。動物園前駅から星野リゾートに沿って西の方に数分歩くと、JR新今宮駅にたどり着きます。ここが「あいりん地区」です。あいりん地区はホームレスの方がたくさんいらっしゃって、住み込みの土木関係の仕事の看板や、激安の飲み屋があります。僕は見たことがないのですが、かつては「ドヤ」と呼ばれる一泊500円?くらいの宿もあったそうです。いわゆる「治安が悪い街」といわれるあいりん地区が、都会の象徴のようなあべのハルカスや観光地の新世界のこんなに近くにあることが僕は少し恐ろしかったです。あべのハルカスがある天王寺駅からJR新今宮駅まで歩いてみるとそれがよく分かります。徒歩15分程度で景色がどんどん変わっていくんですよね。ショッピング街がビジネス街になって、少しずつチープなお店が増えていって、だんだん落書きが増えて、ビルが作業現場になって、綺麗な服を着ていた若い人が少し怪しげな風貌のおじさんに変化していく。

 今は「あいりん地区」も以前よりは綺麗になったようです。ホームレスの方への支援が進んだからなのか、どこかに追いやられたからなのか、ホームレスの方たちが高齢化してしまったからなのか、僕には分からないですが……。JR新今宮駅は本当に目と鼻の先がホームレス街なのですが、嫌味なくらいに内装が綺麗でそれもびっくりしました。何かの公共施設のように綺麗な駅で。

 僕は、かつてホームレスの方たちが暮らしていた宮下公園の事例を聞いたことがあります。現在は行政によりホームレスの方たちのテントなどが撤去され、今ではもう暮らしていないそうです。

 見えるところから排除してしまっただけで、ホームレスの方たちのように、生活に困窮している人が存在している事実は変わらないのに、見えなければ無かったことに出来るんでしょうか。

 京都駅の八条口のアバンティ前にも実はホームレスの方がちょくちょくいらっしゃいます。中学生の時からそれは知っていました。僕が綺麗な建物や娯楽を楽しんでいる本当にすぐ近くにいたのに、僕は大阪のあいりん地区や東京の宮下公園の話を聞くまで、ちゃんと考えていなかったと思います。うまく言えないのですが、この歪みが、すごく怖いと思いました。

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