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実山椒

プチッと噛むと、シュワっと香りが広がる、実山椒。
祖母がちりめん山椒をよく作っていたので、幼い頃からすっかり山椒の虜になっていた。

子供の頃は実山椒=山椒と思っていたけれど、歳を重ねるにつれて色々な形の山椒があることを知っていく。

うな重に振る粉山椒、
ハイボールに沈める葉山椒、
辛さに奥行きを加える坦々麺の花椒、、

どれもみんな、大好き。

近隣を散歩していると空き地の茂みの中に時々葉山椒を見かけるので、葉っぱをちぎって鼻に当て、深く吸っては口から息を吐き出すのを惜しみながら、深呼吸を繰り返す。
側から見ると少し変態に映っているかもしれないが、そう思われても構わないくらい魅了されてしまっているのだ。

先日、久しぶりに旅行へ出かけた。
旅行の楽しみの1つに、道の駅へ寄って産直コーナーを物色することがある。
今回も目ぼしいものがあるかなと期待して見てみると、冷蔵庫の端に実山椒がずらっと並べられているのを見つけた。
しかも時期的に熟してきており、真緑ではなくほんのり赤く色付いてきているもの。
使い道も考えずその色合いの美しさに惹かれ、思わず手に取るなりレジへ向かっていた。

黒胡椒の様な粒であるけれど、干して使う胡椒とは違い山椒は下処理する必要がある。
下処理とはいえ、軽く茹でて冷水に当てておくだけの簡単な作業で、しかもその最中に山椒の瑞々しい香りに包まれる幸せを一度知ってしまえば、まったく面倒に感じないのである。

ややキツめの香りが好みなので、今回もサッと茹であげて、あまり長いこと冷やしすぎない様に処理をした。
お湯に入れた途端、蒸気に溶けてアロマが部屋中にジュワ〜っと広がる。
刺激の強いグレープフルーツのような、スパイシーと言うにはちょっと足りない、とっても濃い香り。

数秒前は平凡ないつもの台所だったのに、この瞬間から山椒好きにはたまらない空間に一変する。

茹でると色のトーンが落ち着く

茹で上げるとしなっとするのだけれど、これを冷水で冷やすと、また文字通りキリッと絞まるかわいい小枝と粒々たち。

冷え上がったらもう夜も遅かったので、ひとまず丁寧に水滴を拭って冷凍庫でおやすみなさいとすることにした。

山椒自体なかなか滅多に買うものでは無いので、勢いで買ったはいいものの何を作ろうか考えて止まらない。
でも何にせよ、しばらくは我が家の食卓にパンチを効かせてくれる存在が現れて、また1つ料理に向かう楽しみが増えたのである。


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