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愛犬花子にみる盲目についての考察。

うちの花子は雑種だ。全長50cm、体重はおよそ15kg、毛色は茶色。母犬は、うちの田んぼの畦道で拾った元捨て犬ヨネである。父犬は野良犬で、発情期のたびにヨネを狙ってどこからともなく湧いては、散歩する私たちの後をつけていた。そして、我が家が油断した一瞬を狙われて、オーマイガ!な感じで誕生してしまった子犬の一匹が花子なので、いわば花子は雑種界のサラブレットである。

一流の雑種であるからして、見知らぬ人にはとにかく吠える。野山を我が物顔で駆け回るけど、ドッグランへ行くと尻尾を落としてそわそわし始める。その姿はまるで野犬がうっかり人里へ降りてきてしまったかのようで、目も当てられないような情けない姿だ。プードルにチワワ、柴犬、ゴールデンレトリバー、都会のスタイリッシュなワンコ達と横切るたびにオーバーリアクション全開の花子が哀れでたまらない。

このイモくさ花子、他人から見るとなんの価値もない雑種だろう。下手すれば、首輪を外してうろちょろしてたら、うっかり猟師のおっちゃんにキツネと間違えられて撃ち殺されそうだ。しかし、人はひとたび盲目になってしまうと、その対象物を全力で愛してしまうのである。

もう、うちの父はすごい。花子への愛がとどまるところを知らない。週に一度は入浴させて、夜は同じ布団で一緒に眠る。(雑種だけどもちろん室内でぬくぬくと暮らしていますよ。)十分に運動させて、カリカリじゃない上等なドッグフードと、適度なおやつ。子供が巣立った後に大きなワゴン車を買った理由は、花子とお出かけするため。うちの母は嗜好品を買うことすら許されないのに、花子のことに関しては財布の紐がめっぽうユルい。あ、そうそう、そんな父が一番許さないことは、「うちのかわいいハナちゃん」を花子と呼ぶことだった。盲目の父は大好きな花子を外へ連れ出したくして仕方ないのだ。みんなに「うちのかわいいハナちゃん」を見て欲しくてたまらないのだ。はたから見ると、花子は哀れなビビリの雑種でしかないというのに。

これほどまでに花子を愛する父をみて、盲目のパワーは強大だと実感する。まるで魔法のように、麻薬のように頑張る力をあたえてくれる。

だけど、ふと。盲目だった私の瞳が色んなものを冷静に捉えるようになった時。その視界がクリアにリセットされた時、あれほどまでに強大だったパワーの出力方法がすっかりわからなくなってしまう。大好きな人の締まりのないお腹すら愛おしく思えてしまったら、いくら目の前にシックスパックの素晴らしい腹筋が現れたとて、私の心は動いてくれない。

できれば人生、盲目であり続けたい。だけど、そうもいられない時だってある。そんな日は一体どうやって自分を喜ばせようかなんて、久しぶりに愛犬花子と会って考えた。

2018年05月28日

「サウダーヂな夜」という変わったカフェバーで創刊された「週刊私自身」がいつの間にか私の代名詞。岡山でひっそりといつも自分のことばかり書いてます。