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千葉篤胤の転生記_13~治承・寿永の乱

頼朝は館近くの小高い丘から広々とした海辺を見渡していた。丘には心地よい風が吹いていた。

頼朝は幼少から今までを振り返っていた。都では源氏の棟梁として雄々しく振舞っていた父義朝や、強さだけならすでに父に並ぶだけの畏怖を放っていた兄義平と共にしていたが、10代前半で母を亡くし10代半ばで平治の乱にて父も兄も亡くして頼朝の取り巻く世界が一瞬にして変貌した。

しばらくは自身も殺されてしまうという恐れに包み込まれていたが、平清盛は哀れと思うたのか命までは取られることなく伊豆へと流された。

伊豆には頼朝の乳母の娘婿である安達盛長も同行し、今に至るまで頼朝の身の回りのことなどを献身的に努めてくれている。

伊豆で世話になっている北条一族の娘である政子は頼朝と10違いであるが、小さい頃より頼朝を慕い、時には頼朝を叱咤もすれば褒めもし、気づけば二人の想いが積み重なり、夫婦となった。

頼朝にとって10代半ばで一度失くしてしまった家族が伊豆にはある。妻である政子、今では頼朝のよき理解者で義父である北条時宗、政子の弟である義時。

ただその暮らしも以仁王の令旨でまたもや急変することになるやもという事態になる。

自身の根幹である源氏としての20年前の惨劇への憤りも変わりはなく、平氏の横暴さは目に余るものがある。自分に世が求めている立場も分かる。それでも頼朝は本当に挙兵して打倒平氏へ突き進むべきなのかまだ踏ん切りがつかない。自分には父や兄のように堂々と自分の元へ集う者たちを導くことなどできるのだろうか。

しばらく海を見つめたまま思慮していた頼朝であるが、政子が近づいてきていかがされてるかと声をかけてきた。頼朝は政子に自分が悩んでる様を打ち明けた。

「御父上は御父上、兄様は兄様。貴方は貴方として振舞えばいいのです。そこに着飾るものはありません」

政子の言葉が頼朝の迷いを救ってくれた気がした。

頼朝は進むべき道を決意した。

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