見出し画像

息子の運動会を見に行った話。

先週の土曜は、息子の運動会だった。

最近『星のカービィ』ブームで、家では常に語尾に「ポヨ」をつけて喋る息子は、前日の夜「てるてる坊主を作るんだポヨ!」と言い出した。
「そうかそうか、運動会を楽しみに出来るなんて偉いなぁ、私と違って」と思ったのだが、完成したてるてる坊主は謎のキャラクターを模した柄になっており、本人曰く「これは○○っていう奴で、雨を降らせるパワーがあるんだポヨ!このてるてる坊主なら、明日は絶対雨になるポヨ!」ということだったので、やっぱり蛙の子は蛙であった。
分かるけどね、運動会が中止になって欲しい気持ち。私もずっとそうだった。

でも息子よ。土曜が雨の場合、運動会は日曜に順延。日曜も雨なら(振替休日の)月曜に順延。更に雨なら金曜に延期・・・と三段構えになってるらしいよ。最近の小学校ってみんなこうなのかな、リスクヘッジが凄まじいね。

そんなこんなで迎えた土曜。息子の願いである「運動会の中止」は叶わず、「本日運動会を実施します」のメールが届いたが、てるてる坊主の効果だけ発動したのか、小雨が降っていて……これ一番最悪のパターンでは?
ひとまず長袖ジャージ上下を着こみ、現地へ向かう。

運動会を見に行く母親がジャージを着ることの是非について、議論の余地はあるかもしれないが、私は「運動会および奉仕作業における正装はジャージである」と固く信じている。
だって学校の先生たちが、ジャージ着てるじゃんそういう時。学校イベントの服装で参考にすべきは、「他の保護者」ではなく「先生」が正しい。授業参観ならビジネスカジュアル寄り、入学式や卒業式はフォーマル寄り。これが正解なのである。そのはずだ。多分それで大丈夫、文句言われたことはないし。
わざわざイベントの度に服を買う必要がない、というのが私にとって最も重要な事なので、私は息子の幼稚園時代からこの信仰を採用している。いつも素敵なファッションのママさん、なんてどうせ目指しようがないので、先生に目をつけられるような悪目立ちさえしなけりゃいいのだ。媚びるべきは他の保護者ではなく、先生。コロナ禍における人見知り保護者の処世術としては、多分きっと、それでいい。

実際、小学校に到着すると、学校の先生たち+パパさんたちの4割ほどがジャージを着用しており、ジャージというのは実に無難に風景に溶け込める、良い選択だったことが証明された。まぁ、ママさんでジャージ着てた人は見かけなかったんだけどね、ドンキにたむろするギャルっぽいド派手ジャージのママさん以外。いいんだ、私は白黒ジャージだから、見た目はパパさんたちの方に寄っている。目立ってない目立ってない、せーふせーふ。

妻を思いやる機能は搭載されていないが、子供と猫への思いやり機能は私より高性能な夫が、せっせとビデオ撮影をしてくれているので、私は身軽に息子の出番を待つ。寒い。パラパラと降る小雨、吹き付ける強風。今どき流行りの軽量アルミっぽい骨組みのテントが風にうっかり浮き上がり、周りの保護者が慌ててテントの足を抑えている。昔ながらのクソ重いタイプのテントの方がこういう時には便利なのね……。
そんなことを考えながら、少しでも風の当たらない場所で待つことしばし、ようやく息子の出番が来た。まずは徒競走。おー、頑張って走ってる、えらいなビリじゃないぞ。他の保護者が邪魔で、ゴールの瞬間は見られなかったが、あの接戦なら例えビリでも目立たないはずである。よしよし、えらい。
(結局6人中4位だったらしい。本人は微妙そうだったが、私は万年ビリだったので、手放しで誉めておいた)

しばらく間が空いて、ダンス。息子が持っているのが青いポンポンなのは確認できていたので、行進ルートから初期配置を予想して滑り込み、ちょうどよく息子の正面を確保。息子は私に似て背が低く、大抵こういう時は一番前なので、こういうシーンでは非常に助かる。
息子と目があった気がしたので小さく手を振ると、ダンス開始に備えて構えた姿勢のまま、ニコニコと笑顔になった。流石に小4、幼稚園の頃のようにぴょんぴょん飛び跳ねるのは自重しているようだ。私は運動会に母親が来るのはひたすら苦行でしかなかったので、息子のこういう「親が見に来てくれて嬉しい」というリアクションを見ると、ほえぇ、子供って普通こうなんだなぁ・・・と毎回感心してしまう。

音楽が始まると、息子は意外にもキビキビと踊り始めた。運動が苦手なはずなのに、思いのほかキレがいい。周りの子と比較すると、気持ち大きめに腕を振ったり、左右にステップを踏んだりしていて、なんだかとても楽しそうである。
さて、応援としてはどういう挙動が正解なのだろうか。周囲のスマホを構えている親御さんと違って、ただ息子を見ているだけの私は両手両足フリーである。できれば息子に応援の気持ちを表現したい。迷った結果、私は「軽く足でリズムを取りつつ、サイレント手拍子を打つ」ことにした。ノリとしては、職場の飲み会の後のカラオケで、歌の苦手な同僚の順番が来たのを応援しているイメージである。「私もノッてるよ、いいねいいね、そのまま続けて!」という顔をなるべく作りながら息子を見守っていると、しばらくして隊列が変わり、息子はくるりと背を向けて、同じ列の子たちと一緒にグラウンドの反対方向へ走って行った。応援ミッションとしては、これにて完了。

その後行われた大玉転がしでは、カラーコーンを回る所で息子が転倒したのを皮切りにズルズルと差が広がって、結局息子の白組が負ける、という若干気の毒な展開が発生した。
が、息子一人が戦犯というほどでもなかろう。そのはずだ。相手チームにだって転んだ子はいたんだし、元々戦力に差があったのだろう。きっとそうに違いない。
ということで、息子の責任はないものと判断することにする。いいのいいの、誰もそんなこと覚えてないよきっと!


・・・という運動会の顛末を、帰宅後かいつまんでゲーム内の友人に話すと、「ママが見てるからってダンスを張り切っちゃう息子君が可愛い」という感想を頂いた。

え、そうなんだ!?
漫画とかでしか見たことがない、「親の前で張り切っていつもより頑張っちゃった」結果があの息子のキレの良いダンスだったのか。てっきり息子がダンスが好きなんだと思った。雨祈願のてるてる坊主作ってた割に、意外だなとは確かに思ったけれども。

「多分ママが誉めてくれるからじゃない?変に叱ったりしてないでしょ?」

それはまぁ、確かにそうかもしれない。
そもそも運動と名の付くものはすべからく苦手な私からすれば、運動会なんてやる前から苦行に決まっているので、息子が幼稚園の頃から「逃亡せずに最後まで参加した時点で偉い」「競技の進行に迷惑かけなかったら、十分すぎるほど偉い」「楽しそうだったら、もう最高に偉い、凄い」という所で評価の軸が決まってしまっている。期待値のレベルが低すぎて、逆に申し訳ない気すらする。
だって、徒競走で1番を取るとか、どんなに励まされたって無理なものは無理だもの。実際私も無理だったし。

・・・あ。

そこで気付いた。
私は運動会のたびに、母に散々「アドバイスという名の、大量のダメ出し」を食らっていたのだ。

「周りの様子を見ていないから、徒競走のスタートが遅れる」とか。
「腕が大きく振れていないから、早く走れないんだ」とか。
「ダンスでもっとキビキビ動かないと、カッコ悪い」とか。
場合によっては「靴下が片方下がっていた」「体操服の裾がはみ出していた」みたいなことまで、いつもいつも必ず、「もっと良い成績を取って、皆よりカッコ良く振舞うための注意事項」を、ウンザリするほど聞かされていた。

そうか、だから私はずっと、母が運動会を見に来るのが嫌で。
息子は、私が運動会を見に来たのが嬉しいのか。
目から鱗だ。


そもそも運動会なんて、1位を取ったからと言って体育の成績が爆上がりする訳でもないし、学校側の「自分たちはこんな感じで子供たちを指導してます!」という成果発表会なのだ。大きなイベントだから本人たちの思い出にはなるだろうが、私からすれば、「息子の姿を発見し、様子を見届ける」のが精一杯で、「息子が他の保護者から見てどんな評価を受けるか」なんて気にできない。そもそも私には、クラスの他の子を個体識別することができないし、同じ登校班で見慣れているはずのA君&保護者でさえも、運動会にいたのかどうかすら分からない。
それに、息子が1位だろうがビリだろうが、ダンスが上手くても下手くそでも、ぶっちゃけどうでも良いのである。転んだことについては、怪我をしてないかは気にするし、体操服は洗濯しなきゃなと思うけれど、それで終わりだ。

しかし、母にとってはそうでなかった。
私がいつもビリなのは恐らく母にとって物凄く悔しいことで、やる気のないダンスを見るたび、一挙手一投足にヤキモキしていたのだろう。私の靴下が下がっているのも、許しがたい醜態を晒していると感じていたのだ。
その熱量は、ある意味では称賛に値するようにも思うけれど、私にとっては「毒」だった。もっと無関心でいて欲しかった。見に来てくれないぐらいの方が、100倍ありがたかった。
需要と供給のミスマッチ。ただその一言に尽きるだろう。

私に似てしまったのか、息子は運動が好きでも得意でもない。
でも、私が息子をいい加減に応援し、雑な感想で誉めて、そうでなくても無闇なダメ出しをしないでいることで、息子が運動会を少しでも「楽しかった」「嫌じゃなかった」と記憶できるなら、熱意のある「毒」よりもずっといい。そう思う。

「今日のダンス、凄いキレが良くてカッコ良かったよ!」と無責任に息子を誉めつつ、来年・再来年の運動会も、できるだけ息子から見えやすい位置に陣取ろうと思った。
息子がやがて大きくなって、私が運動会に来るのを嫌がるようになるまでは。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?