見出し画像

今しかできないことを

本日1月29日(金)より、YEBISU GRADEN CINEMA、アップリンク吉祥寺にて上映が始まった『わたしの叔父さん』(全国順次公開)。
大好評を頂いているさわひろあやさんのエッセイ、待望の後編をお届けします。今回は「今しかない」という思いと、「今の自分を大切にする」ことについて。
※映画の核心部分に触れている箇所もございます。気になる方は映画をご覧になったあとにお読みください。

画像1

デンマークの人々にとって、太陽の光は貴重だ。暗くて長い冬を過ごし、春に温かな光が差すと、人々は光を求めて外に出る。明るい光の下で過ごせる時間は限られている。それがわかっているからこそ、人々はその時を何よりも大切にする。今、その瞬間を楽しむ。この北の国へきて、その意味がやっとわかった気がしている。
クリスが、叔父との暮らしを、まるで心に固く誓ったかのように守ろうとするのも、もしかすると、「今しかない」 という思いがあるからかもしれない。家族を失った自分を育ててくれた叔父との時間。それは永遠ではない。終わりがあるとわかっているから、できる選択もあるのかもしれない。
今しかないという思いは、「今の自分を大切にする」 ことでもある。今の気持ちに正直になってみる。そうして、仕事や人生の方向転換をする人もいる。
わたしの周りの40代には、キャリアチェンジをする人たちが多い。転職、しかも全く未知な世界を目指す人も珍しくない。
学校の教員を辞めて、建築設計技術者になるために大学に入学した人。家庭保育の仕事をしていたけれど、障がいをもつ人々に関わる仕事をしたいと資格を取り始めた人。会社の人事部で働いていたけれど、小学校教諭を目指し教員養成課程に入った人。デンマークでは、40代でも新たなチャレンジをする人は意外と多い。もちろん、経済的な影響はあるけれど、少なくとも学費は無料なのだから、少し無理をすればやれないこともない。働きながら学ぶ人もいる。

画像2

映画『わたしの叔父さん』のクリスは、20代後半。今は、叔父さんとの暮らしを第一優先し、大学へ行くことも、獣医の助手業に専念することもない。でも、それは彼女のキャリアの可能性が断たれたことを意味しない。まだまだ、デンマークでは彼女の可能性の扉は開いている 。むしろ、農家での経験を活かし、大学で獣医学を学んだあとすぐに仕事に就ける可能性だってあるだろう。
大学入学を一度断ってしまったクリスだが、彼女の好奇心はそれで途絶えることはなかったようだ。獣医師から借りた本をベッドで読む姿からは、自分の関心を抑えることができない、ワクワクした様子が伝わってくる。
いつか、自分の生きる道を選ぶ準備ができたなら、彼女はその道を、迷うことなく歩んでいくだろう。それがあと5年、10年後であったとしても。その道はきっと、ずっと待っていてくれる。
クリスの未来は明るい。

さわひろあや
2003年よりデンマーク・コペンハーゲン在住。ライター。デンマークで図書館司書として公共・学校図書館で勤務。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?