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ちいさなちいさな、ヒュッゲの物語

『わたしの叔父さん』公式サイトにて、北欧ジャーナリスト森百合子さんによるコラム「ちいさなちいさな、ヒュッゲの物語」を掲載しました。
映画にでてくる日々のごはんや、主人公たちの暮らすデンマークの伝統的農家のインテリアなど、北欧の食や暮らしに詳しい森さんならではの視点で、
たっぷりと解説してもらっています。

デンマーク語で心地よい時間や空間を表す「ヒュッゲ」という言葉は日本でも大きく注目を集め、北欧といえばヒュッゲ、と合言葉のように語られるようになった。書店にはヒュッゲ関連本がずらりと並び、手にとって読んでみると「ヒュッゲにかかせないものは暖炉に揺れる炎、ロウソクに灯る明かり……リビングには家族の笑い声が響き、キッチンのオーブンからは焼き上がる肉料理の香りが漂い……」などと若干、大げさとも言いたくなるしあわせの風景が書かれている。それももちろんヒュッゲなのだが、本作でクリスと叔父さんが夕食後にリビングでコーヒーを飲みながらボードゲームをしたり、ソファで寝転んで他愛のない会話をしたりしなかったりしている、あれもヒュッゲなのだ。

クリスは14歳の時から叔父さんとふたり暮らし。朝早く起きて、叔父さんを起こして朝ごはんを食べて、牛の搾乳や餌やりをこなして、お昼ごはんを簡単にすませ、また仕事に戻る。夕方には仕事を終わらせてごはんの支度、晩ごはんのあとはソファでくつろいでテレビを見たり、ボードゲームを楽しんだり。そんなささやかな暮らしぶりから、彼女たちが何を大切にして日々を過ごしているのか、だんだんと見えてくる気がします。

クリスは毎日、叔父さんと自分のために食事を作る。朝はモルゴンブロー(朝のパンの意味)とよばれる小麦のパン、昼はライ麦の黒パンにレバーペーストやコールドカットをのせたオープンサンド。レバーペーストの上にはきゅうりがのっている(デンマーク人的には譲れない要素らしい)。夕食に並ぶのはソーセージ、ハム、キャベツの煮込み、ミートボール。添えてあるのはたっぷりのじゃがいも。どれもデンマーク伝統の味といったラインナップだ。

『わたしの叔父さん』に出てくるごはんは、ごくシンプルで飾らない日々のごはん。手はかかってないけど、作りたててほかほか湯気の立つごはんがとても美味しそう!二泊三日でコペンハーゲンに行くことになったクリスが、留守番をする叔父さんのために山のようにごはんを作って「食べきれないよ、2週間留守にするのか?」と呆れられるシーンも。
作るのは主にクリスの担当、足の不自由な叔父さんはテーブルセッティングや洗い物など、自分のできる範囲の家事をこなす。ふたりがごく自然に家事を分担している姿も素敵です。

クリスの部屋

生活道具のデザインやインテリアに興味があれば、キッチンの佇まいやリビングの照明、白や木目に調和するセージグリーンやブルーグレーの壁色に目を引き付けられるのではないだろうか。デンマークはデザインの国とよばれ、世界的に著名な建築家やデザイナーを多数輩出しているが、この国のデザインの底力はこうした普通の人々の暮らしの中にあると私は思う。都会からはるか遠く離れ、周囲にほぼ人家の見あたらないような寂れた土地の農家に、ああしたキッチンがあることに私はこの国のデザインのあり方を見る。

そう、この映画の見どころのひとつはインテリア。それも都会的なオシャレなデザインではなく、デンマークの田舎の、ごく普通の家の佇まいがなんと素敵なことか。『わたしの叔父さん』の舞台になった家は、叔父さん役のペーダ・ハンセン・テューセンさんが若い時からずっと暮らしてきた家。映画のためのセットではなく、本物のデンマークの伝統的農家の暮らしがそこにあるのです。

詳しい解説は『わたしの叔父さん』公式サイト、森百合子さんのコラムをぜひご覧ください。映画を観る前に読んでおくと、何倍にも楽しめますよ!

●映画『わたしの叔父さん』
2021年1月29日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー!
公式サイト:https://www.magichour.co.jp/ojisan

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