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2024年9月 燕三条旅7

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 割烹きくやをあとにして、酔い心地のまま二軒目へとなだれ込むかと思いきや、向かったのは先ほどのスーパー。ここで明朝の飲み物、缶のオレンジジュースを購入。これで明日の朝食セットは揃った。そんで行きに寄ったブックバーへ。書棚の間を奥へと進み、階上にのぼってこんばんはとバーの多分同年代のマスターにご挨拶。旅先でバーに入るなんて初めてじゃないかしらん。まずはスツールに腰掛ける。ここではラム酒を中心に提供しているバーとのことで、だいたい日本酒党なのでまずはラムとは何ぞやという問答から始める。サトウキビを原料とした蒸留酒とのこと(海賊のお酒というイメージがあります)。メニューは黒い封筒でポストカードで入っているというお洒落さん。ついでにお手ふきも黒いパッケージに入ってました。慣れていないのなら、ということでオススメいただいたのがモヒート。じゃあそれでという感じで注文。カクテルが仕上がっていく様を眺めます。小ぶりなほうれん草みたいな草をちぎってグラスの底へ。本場、キューバ産のミントだとか。炭酸で割ります。草の味がするんじゃないかという見た目のモヒート。口に含んでみたら、意外とさっぱりしてて美味しかった。その後、燻製ビーフジャーキーなんかもつまみ、ノンアルコールで本を読みに来た若い人ともちょろっと会話をしつつ、マスターと本のお話。数年Kindle漱石をここでも披露。関西弁のマスター、聞けば大阪からこのお店のために移ってきたのだとか。最初は三条って京都の三条かと思ってたようで(自分は札幌のイメージが強い)。近隣に豚骨やら家系ラーメンのお店がないことを嘆かれていました。ちなみにB級グルメの三条カレーラーメンはまだ試していないとのこと。逆に燕市の背脂ラーメンは美味しかったとのことで、燕三条駅近くのお店を教えてもらう。明日の昼はそこだろうか。ちなみに今日自分が泊まる旅館の存在は地元の若者すら知りませんでした。次のお酒。小説の題名をモチーフにしたカクテルもあるとのこととで『小さな王子さま』を注文。最初は蒸留酒感が強かったので、途中炭酸で割ってもらい飲み進めました。今年頭の展示のDMをリュックに数枚忍ばせておいたので「さて、この作品は何が言葉を押しつけられているのでしょう?」と、そんなことをやっておりました。楽しい旅の夜です。
 夜九時過ぎ。店を出ます。引き続き酔い心地。このまま通りを行けば旅館なんだけれど、それだとちょっとつまらないのでわざわざ遠回り。ゆったりとした足取りで小路を抜けていきます。やっぱり旧い町並みというのは、その土地に生きていた人々の思いがあちこちに息づいているようで、歩いていて何だか嬉しくなります。そんなわけで夜の旅館にお帰りなさい。帳場にはご年配ではなく、そのご家族だろう女性がいらっしゃいました。ご厄介になりますと頭を下げ部屋へ。そうして再び風呂に入り、おやすみなさいませ。

3日目
 夜中、階下のトイレに行った記憶もあるが、まぁまぁ眠れました。大雨の音を聞いた憶えもあるけれど、窓から手を出しても打たれず。何だったんだろう。共同冷蔵庫から昨夜買っておいたオレンジジュースを取り出し、昨日買ったパンをいただきます。黒ごま塩バター、カレー焼きそば、3種のチーズ。どれも美味しゅうございました。『朝風呂 御随意に』と札が提げられていたので、朝も風呂に入ります。浴槽の中、ライオンヘッドの横で体を伸ばします。ほんと、気持ちの良いお風呂で。
 さて出立。昨夜と同じ帳場の女性にご挨拶。いきなりの宿泊にて失礼いたしました。女将さんにもよろしくお伝えください、と旅館の名前の入ったポケットティッシュをいただき宿を出ます。本日は最終日。昼過ぎに新幹線に乗り込む予定です。北三条から燕三条まで電車もあるけれど、まぁ時間もあるし、いつも通り歩いて行きましょうか。というか改めて注意して見ると消雪パイプを中心に路面は赤茶けております。自分が見た限りではこの変色について多分どこも解説をしていなかったけれど、独特な景観ではあるし個人的には旅情も覚えるので、観光的に扱ってもいいんじゃないかなぁと。道すがら三条八幡宮にお参り。お賽銭は八円で。土手の上にあがり、大きな橋を渡っていく。ずっと向こうのほうにいくつかチェーンのホテルが建ち並んでいる、のは燕三条駅だろう。と、橋のたもと、馬がいた。柵はなく、草を食んでいる。逃げ出さないのかなと近づいていけば、首輪がつけられていました。乗馬クラブと看板が出てはいたけれど、牧場とか勝手に近づかないほうがいいという話もあるので少し離れた位置から眺めるだけにしておきました。三条島ノ城跡という石碑の前を過ぎ、日射しを浴びながら進んでいけば国道さん。ぶっとい幹線道路をびゅんびゅんと車が。地下道で向こう岸へと渡ろうとすれば、無人の通路に陽気なドレミの歌が流れておりました。これはずっと流れているんだろうか。さて、国道はチェーンの看板ばかりでつまらないので積極的に距離をとっていきます。刈り取り前の田んぼの脇を歩き、仕舞いにはあぜ道を行き、新幹線の高架下を潜る。目新しい学校、病院の前を抜け、バスケットゴールのある公園へ。そしたら『ボロネーゼ専門店』という看板が目につきました。予定ではこの先にある燕背脂ラーメンを食べるつもりだったが、その文言刺さりました。お店の正面にまわれば開店は11時半。あと10分程度。じゃあ少しさっきの公園で待つかと、東屋で荷物を下ろしてちょっと休憩。もういいだろうというタイミングで向かえば、早速駐車場に入っていく車。人気店なのね。開店と同時に一番乗りで入店。先払いのシステムで、店員の方がはきはきとご説明をして下さる。どっさりと粉雪チーズを積もらせたのがレギュラーメニューとのことでそちらを注文。席に着きテーブルの案内書きを読み込めば、日本で唯一のボロネーゼ専門店の、認定店なのだとか。料理はすぐに硬くなってしまうので賞味期限は10分だとか、そんなことが書かれている。期待が膨らむ。ほどなくして専門店のボロネーゼが。粉雪チーズの山を崩し、麓のパスタと絡めて口へと運べば、あっ、こりゃ美味いわ。こんな美味しいパスタは初めてだ。テーブルの上の辛味オイルやらニンニクオイルも垂らしてみるが、どっちも美味い美味い。やっべぇ。パスタがもちもちしてて、ソースがかなり肉々しい。うわー。そんな感動をお店の方に「このへんを旅してて、知らずに立ち寄ったんですけど、めっちゃ美味かったです!」とお伝え。いやぁ、大満足でした。
 ご機嫌ですぐ近くの道の駅へと足を運びます。初日に地図を求めた道の駅。そのときは開店してなかった物産館、は今日はオープンしてます(第1水曜が定休日のようで)。金物がずらり。その中でもやっぱり包丁は多いです。丁度水が切れていたので三条市が採水地の水と、初日にオープンファクトリーを見学した藤次郎の比較的安い包丁を購入。うむ。その後、燕三条駅へと戻り、新幹線の時刻までこちらもお土産屋内をうろつきます。っと、レジカウンターの脇に小さく『観光案内所』の表記が。加えてお店の一角には充実した観光マップコーナーが(ついでに初日空だった燕口脇のマップコーナーも日本語版が補充されてました)。どっちもあんなに探し求めたのに……がまぁ、『こうばの窓口』で十分な情報を与えられて、すっごく楽しかったので結果オーライで(初日にこうばの窓口で色々案内してくれた女性に礼を言おうかと思ったが、この日は不在のようでした)。店内の観光マップコーナーにある椅子に腰掛け、たまたま目に着いたポップのQRコード、三条市観光アンケートに暇だったので答えていきます(燕三条駅は駅長室が三条市側にあることから住所的には三条市のようで)。「観光案内所の場所がわかりにくかったです」と書いて送信ボタンを押せば、「近くの店員から粗品を受け取ってください」と思いがけない結果画面。そのままスマホをレジカウンターに持って行けば、少し戸惑った様子で。「粗品? ちょっとお待ち下さい」と二人のうちの一人が奥へ。もう一人の方が「昨日、アンケートを置かれたばかりで、何も聞かされていないんですよね……」とこぼしてらっしゃいました。なんか大きな会社あるあるといった感じで。で、お待たせしましたと三条市で作ったバターナイフをいただきました。これは結構嬉しい。
 そんなわけでいいお時間。ピピッと改札を抜け、東京行きの新幹線に乗り込みます。この旅日記が過去一番文章量が多くなっていることから見ても、それだけ人に話したい≒おそらくここ最近では一番楽しかった旅だったんだと思います。何も調べないで旅先へ行ったために、何があるか分からないという冒険感がその要因だろう、とは思うけれど、何があるか分からないからこそ誰かに尋ねる必然性が生じ、ここ最近の中ではとにかく人と話す機会の多い旅だったと振り返れば思います。きっと冒険感よりもそれこそが。
 多分またやるでしょう。それには程よくランダムで旅先を決めてくれる『どこかにビューン』がうってつけのように感じています。というわけで、こんなに長い旅日記をどなたが最後まで読んでくれるのか分からないけれど、長々とお付き合い、本当にありがとうございました。またいずれ旅の空の下で。それでは燕、弥彦、三条、また会う日まで。
 アイお世話!


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