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移り気!?なアニメファンの心を繋ぐ「公式展開」【日経COMEMO連載「オタク視点で見るアニメ」】

アニメ作品にとってIP(知的財産=版権)の長期活用は、今後もますます重要性が増してくる、と前回書きました。

こちらは原作となるマンガを生み出す企業と、アニメ化する企業が協業することで、IPの力を伸ばしていこうとする試みです。現在、IP活用に向けた企業の取り組みは様々な形で行われています。

コンテンツ供給側は、人気が出たアニメを長期に渡りIP活用するにあたって、アニメ第2期などの続編を制作することがあります。ですが、それがすぐに可能なタイトルは多くはありません。

アニメ制作には多大なコストがかかります。
では、アニメ第1作目を放送したあとに、アニメ制作以外でお客さんに作品への思いを持ち続けてもらうにはどうしたら良いか?
それがグッズ、展示、イベント、コラボカフェといった版権から派生した商品や催しです。

ファンはこれを「公式展開」と呼んでいます。

■アニメファンにとって「公式展開」は命綱

ファンにとって「公式展開」が意味することは何か。

それは“作品がまだ続いている”というメッセージです。

アニメファンにとって一番嬉しいのは「第2期決定」など、物語の続きが描かれることですが、公式からそうした告知が出ない場合は、グッズ販売やイベントなど、作品にまつわるものが何かしら供給されることが心の安心材料になります。公式展開がある=「作品は続いている」ということで、安心して応援を続行することができるのです。

逆に、グッズも出ないくらい公式展開が途切れてしまうと「作品が終わってしまった」と感じて不安になります。
「作品が終わる」という言い方は昔はあまり聞かなかったのですが、00年代後半から始まった公式の版権活用により、アニメファンも「アニメ作品の展開は、放送終了後も続く」という認識が当たり前になってきました。

コンテンツ供給側からすれば、アニメ放送を長く続けなくても、グッズ等を販売し続けることで「作品展開はまだ続いていますよ」とファンにメッセージを送ることができる。双方にとってwinwinだなと思うのですが、だからこそファンは、「公式展開」の動向に敏感になっていくのです。

■最終回=コンテンツが終わった感?

私が驚いたのは、こちらのインタビューでした。

アニメ『かくしごと』の原作者であるマンガ家・久米田康治先生は、ご自身のマンガ連載を、アニメ最終回の時期に合わせて終了させたそうなのです。

《久米田:(自分が)読者だった時、アニメが終わったら原作も終わった感あったからです。アニメ終わったのに連載だけ続いてるのに違和感がありました。現在のアニメ化は原作販売促進の宣伝の意味もあるから多少違うんだろうけど。》

『かくしごと』は、web媒体『アニメ!アニメ!』のアンケートで、総合ランキング第1位にもなったことがある作品です。そうした作品の作者である先生が、アニメ終了とともにマンガを終わらせる判断をしたことに、とても衝撃を受けました……。

けれども、アニメを追い続けてきた身としては、意図を理解してしまう部分もありました。

現在、アニメに関しては、ブームの移り変わりが非常に早いです。体感速度はマンガの百倍。
マンガのブームはコミックスが出ている間ずっと続くので5年、10年と熱気を保つ作品も少なくありません。
一方でアニメは放送期間が短く、「放送期間=ブーム」になりがちです。

現在、TVアニメの年間制作タイトル数は300以上。
しかも1クール(3ヶ月)作品が増えたため、せっかくひとつの作品が盛り上がっても、最終回が終わるとすぐに次の作品にブームが移ったりします。
また、アニメ記事媒体の作品特集も「放送時期」に集中しがちです。

作品が大ヒットとはいかなくとも、スマッシュヒットした場合。その後の展開が、公式側の判断によって分かれます。長期運用に積極的ではない場合もあるのです。

そこにはコンテンツ供給側が抱える背景もあります。アニメ供給側には、「10本の作品を出して、ヒットした1本の売り上げで、ほかの作品で出た赤字を回収する」という側面があり、もしスマッシュヒットで1本が収支トントンになっても、他の作品で出た赤字を補填するほどの売り上げでなければ、さらに投資して第2期という新作を作るまでには至らない。

「Blu-rayが一番売れるのは最初の第1巻。それがピークで、それ以上の伸びしろはない」
「熱心なファンは、減ることはあっても今後増えることはないだろう」
というふうに考えて、「第2期」までには至らない作品も多いのです。

コンテンツ供給側にとって「お客さんの心変わり」が最も心配なところだと思います。

■お客さんは心変わりしているわけではない

業界では、アニメファンについてこう捉える向きもあります。
「アニメファンは盛り上がる時の熱気はすごいけど、『古い』イメージがつくのを嫌う。移り気で飽きるのも早く、古いものはすぐに忘れられて、次の作品に行ってしまう」

たしかにアニメファンは常に新しいものを求める性分があります。
でも私は、ファンの心理を深掘りすると、「作品に飽きている」わけではないと思うのです。
飽きているのではなく、「今いるところに留まれない」のが実情ではないでしょうか。

●供給が早すぎて感動に浸る時間がない
先の「アニメの最終回が終わるとマンガも終わる感じになる」という点ですが、これは90年代まで多かった「1年間放送」の考え方に近いと思いました。
1年間見続ければ、確かに満足してしまう層はいたと思います。けれども、今は1クール12、3話がふつうで、満足するまでは視聴することができない。またキャラクターファンにとっては、グッズが出て友達と盛り上がるところからが本番です。

近年は、アニメ放送期間が1クール(3ヶ月)とサイクルが非常に速いです。
お客さんにとっては、放送が終わった作品が「古い」「飽きた」と感じるよりも、「この作品が好きでもっと反芻したいのに、感動に浸る間もなく、次の作品が来てしまう」。そんな悩みの方が大きい気がします。

新作が来るのは嬉しいんだけど、「大好きな作品の展開が終わってしまう」ほうがうんと辛いです…!(本音)

●「過去作にハマることに抵抗がある」お客さんの心理
近年の大きな理由でもあると思うのですが、お客さんが作品に愛着を持って「推し続ける」心理の鍵として、《展開》と《共感》があると思います。

《展開》というのは「公式展開」です。
現在のアニメファンは、「公式展開」を非常に重視しています。特に00年代以降にアニメファンになった10代20代は、「公式展開という土台の上で盛り上がる」という行動がベースにあります。
だから、「公式の展開がないとハマりづらい」という心理があるのです。

公式展開がないとハマりづらいと言うと、昔からのアニメファンは「公式が展開していなくても勝手に好きになればいいだろう」とツッコミするかもしれませんが、そこで《共感》の話になります。

今、オタク女子界隈で話題になっているマンガ『同人女の感情』があります。
折しも今回のテーマは「過疎ジャンル」でした。

「過疎ジャンル」とは、アニメファンが言う「オワコン(終わったコンテンツ)」に近い言葉にあたります。ブームのピークが過ぎて次第にサークル数やお客さんの数が減っていく。その様子を見た人が、今からその作品にハマるのは、“時間をついやすことに見合ったみんなの賛同がもらえないからやめておこう”と思ってしまう心理です。

女性については「共感」「周りの賛同」がないと好きなものを表に出しにくいとは言われていますが、SNS時代は、男性であっても「好きなものを表明しても『いいね』がもらえない」「この作品の良さを共感してもらいにくい」ために、つぶやき投稿をためらうこともあると思います。
「誰もいないなら自分が布教してやる!」という根性の据わった人よりも、「みんなが好きなものから選ぼう」と考える人のほうが多いのではないでしょうか。

周りから「そのジャンル、もう過疎ってるじゃん。公式からの供給も少ないし」と言われるのがこわい。

もちろん周りの人は、実際にはそんなことは言いません。本人の心の中にいる自分がジャッジしているだけなのです。それでも「自分が過疎ジャンルにいると他人から思われる」ことに抵抗があるのだと思います。

■公式が「作品は続いている」メッセージを発信する

あるレコード会社のプロデューサーの方にこんなお話をうかがいました。
ライブのリピーターになってもらうには、ライブを終わるときに、アーティストが「次は○○のライブで会おうね」と、“次”の約束をすることが肝心なのだそうです。
”このコンテンツはこれからも続いていくんだよ”というメッセージを送ることで、お客さんは安心して次のライブにも使えるペンライトやタオルを購入できるのだろうと思います。

「“次”があるかわからない作品やアーティストのグッズを買っても、みんなに見てもらえない…」ということに、SNS時代のファンは敏感だと思います。

近年、公式側も、人気が出た作品について、アニメが放送できない期間にも“続いているよ”というメッセージを出す方法が固まってきたと思います。「続いていること」それ自体が、ファンの気持ちを繋ぐ方法なのです。

★「第○期」「分割○クール」放送
アニメ作品で“続いているよ”というメッセージを送る方法としてメジャーなのが、「第○期」や「分割○クール」放送というスタイルです。多大な時間と人的リソースが必要なアニメを1年間、放送し続けることは難しいけど、物語をパートごとに分割し、インターバルを置いて放送する。
そうすることで負担を軽減しながら続いている感を出し、さらにはインターバルを置くことで、作品のブームが長期に渡って続く形にできるのです。

★過去シリーズの再放送
人気作『ソードアート・オンライン アリシゼーション』は、「分割4クール」という形で進んでいました。ところが4月放送予定だった最終章(2ndクール)が、新型コロナの影響を受けて7月に延期になってしまいました。
その代わりに、4月から1stクール(全12話)の再放送を開始しています。過去作を放送することによって、作品が好きなファンの気持ちを高め、次の新作放送まで繋げることができました。
『Re:ゼロから始める異世界生活』も放送延期になり、過去作をアレンジしたバージョンを放送し、ファンの話題を集めました。

再放送には、元からのファンだけでなく、新規ファンを作る効果があります。
そして私が気づいたメリットとしては、再放送は「アニメ放送サイクルが早すぎて作品を味わう時間が無い」というお客さんに、物語を反芻してもらう効果があったと思います。それによって、作品の理解と愛着を深める効果があったのかなと感じました。

★一挙放送
近年増えたのが「過去シリーズの一挙放送/配信」です。一挙放送とは、週ごとに放送していた各話を、連続して放送することです。
一挙放送も、再放送と同様に作品が“続いている感”が出ますが、加えてSNSでの実況コメントの盛り上がりも期待できます。
ファンにとって、一挙放送でのSNS実況は、自分が「この作品が好きだ」と表明するきっかけにもなり、仲間と共感し合う場ができるのです。

■「リアルの場」が無い今、いかに盛り上がるか?

現在、私が気になっているのは、コロナ禍で制限された「リアルの場の盛り上がり」をオンラインでどのように作るかです。大規模イベントが開催できないことで、物販が苦戦しているとも聞きます。
ファンからしたら行くあてがないイベントのグッズを買っても、周りの仲間と共有できる場がない、ということかもしれません。
ファンにとっての「好きを共有できる場」を作ることは非常に重要だと思います。

現在、リアルで集まれないのならオンラインでと言われますが、「場の空気感」はなかなか出せません。
それでも一挙放送には、リアルの感覚に近い「盛り上がりの場」ができているなと感じます。

次回、このお話をしたいと思います。

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