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動画コンテンツの課題は「知ってもらうこと」【日経COMEMO】

コロナ禍の現在、「キャスト×キャラクター」の動画コンテンツが増加していることを【前回】書きました。

ステージ開催が困難な現在、送り手にとって「動画」は、アニメやゲームよりも小規模からスタートできるキャラクターコンテンツというメリットがあります。

ですが、課題もあるように思います。

■オンラインイベントは新規作との”偶然の出会い”が発生しにくい

動画コンテンツの急増により、送り手にとって難しくなったのは「どのようにお客さんに知ってもらうか」だと感じています。動画は導線もさまざまで、私などは、未だにYouTubeの「オススメ」にひっかかり、お目当ての動画にたどり着けないことが多々あります。

数ある動画の中から、自社作品をどのように見つけてもらうか。
実は動画に限らず、アニメやゲームなどでも、新規作を知ってもらうことが難しくなっています。

『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ役で知られる人気声優・緒方恵美さんのインタビューによると、
総合イベントがオンラインになり、自分のお目当てのものしか見なくなりがちで、ビッグコンテンツとそうでない作品の差が大きくなっている、というお話がありました。

『Anime Japan』『AGF(アニメイトガールズフェスティバル)』『コミックマーケット』のような大規模な総合イベントが延期、会場規模を縮小、オンライン化したことで、新規作との“偶然の出会い”が減りました。

私もアニメライターとして、肌感覚でそれを感じています。たとえばTwitterでアニメ作品の記事を告知をすると、フォロワー以外の方から「いいね」やリツイートをしてもらえる機会もある一方で、私のフォロワーの方であっても、「そのコンテンツがあること自体を知らなかった」というお話を聞くことも増えたのです。

オンライン化のメリットは「今、自分の好きな作品」へのアクセスが容易なこと。
逆に言えば「何か新作ないかな?」という偶然の出会いが減ることがデメリットです。
周囲でも、「自分の“推し作品”以外の情報が入りにくくなった」という話をよく聞きます。

また、Twitterの「日本のトレンド」を見ても、わからない単語が増えています。
以前は、Twitterトレンドに作品名(たとえば『進撃の巨人』など)が上がれば、「現在人気の作品は何か」がすぐにわかりました。けれども最近のトレンド上位は、単語を見てもどこの何を示しているのかがわからない。

要因のひとつには、送り手側の「トレンド上位を目指す手法」がブラッシュアップされたことがあるように思います。
Twitterのトレンドに入るなら、あらかじめ番組に使用するハッシュタグを作っておき、同じ時間帯にファンに感想をつぶやいてもらうようにする、といった手法です。

トレンド入りを果たせば未知の人に知ってもらえるかというと、こうしたタグは、その番組を知っている人向けの単語であることが多く、未知の人には届かないケースが多いのです。

「キャスト×キャラクター動画」についても、
一番の課題は「知ってもらうこと」
にあります。

■誰もが「見知ったもの」で繋げていく

数多ある動画コンテンツの中で、どのように自社コンテンツを知ってもらうか。

従来の代表的なアプローチ方法が、「有名キャストを入れる」ことでした。商品の宣伝に著名人や有名ブロガーやSNSフォロワー数が多いインフルエンサーを起用するように、有名な声優を作品の役に起用する。かつてはそれだけで作品の認知度が上がりました。
ですが、現在はどのコンテンツも「有名な人」を入れるので、それだけでは目立ちにくくなってしまったのです。

もちろん、その手法が無効というわけではありません。特に動画の場合、出演キャストが少なくて済むため、有名キャストを入れれば、そのキャストのファンは視聴します。

さらに広げるためには、どうすれば良いか。
キャスト×キャラクター動画についても、新しい試みが見て取れました。

例を挙げてみます。

『GOALOUS5』 公式チャンネル

声優5人が「世界声福(征服)をもくろむ悪の組織幹部」というコンセプトでバラエティ番組です。紹介動画の服の色や、ポーズやアクションから、モチーフが《戦隊もの》であることが見て取れます。

キャスト動画から始まり、ドラマCD、イベント等を経て、現在は「キャラクター絵」が登場しました。

■「戦隊もの」と「アイドル」を繋ぐ”推し色”文化

『GOALOUS5』で目を引くのは、コンセプトの明確さです。
「戦隊もの」であることが、キャストの服の「色分け」からも見て取れます。
ファンにとって、メンバーの「色」が決まっていると、グループ内での各人の“キャラ”や立ち位置がわかりやすい。

紹介した『GOALOUS5』は「戦隊もの」のフォーマットを踏襲しており、「イエローはムードメーカー」(イエローが「カレーが好き」という王道すぎる設定!)「グリーンが参謀役」など、私のようなアニメファンにもわかりやすい設定です。

また、「色」と男性キャストのポーズからは「アイドル」的な文脈も見て取れます。近年、メンバーごとの「色分け」は、戦隊ものだけでなく、「アイドル」(アニメ、実在を問わず)にも活用されるようになっています。
“推し色”文化は、年々拡大しています。

広がる「推し活」グッズ パイロットやタワレコも(日経電子版)

ファンは、ステージ上のキャストを応援するときに、ペンライトを“推し色”に光らせて応援することができます。
また、コンテンツの送り手にとっても、グッズ制作の際に、キャラクターごとの商品を出しやすいといった利点があります(リングライトなど、同じ形状で色違いのバリエーションで出せる)。

■「○○もの」「○○繋がり」という入り口のわかりやすさ

『GOALOUS5』には、動画の各回に「ホスト回」「学園回」など、アニメ、ゲーム、マンガファンであれば誰もが知る「お約束」のモチーフが入っている点もわかりやすく、目を引きます。
アニメでは以前、『TIGER & BUNNY』(2011年)の大流行がありましたが、「アニメを見るのは久しぶり」というファンが多く集まりました。これは「ヒーローもの」という、アニメファン以外にもなじみのあるスタンダードなフォーマットがある点も大きいと思います。

コンテンツやユニットに「○○もの」という誰もが知るフォーマットを入れることで、新規の人が見ても、世界観に入りやすい。
これは「ご当地武将」をモチーフにして全国にファンを獲得した「武将隊」にも通じる作り方だと思います。

『GOALOUS5』について、ファン同士の"隠れたお約束"とも言えるものが、キャスト5名全員が、あの『アイドルマスター』シリーズの男性キャラクター版ゲーム『SideM』の声優であることです。

送り手側からはそうした発言は全くありませんが、ファンの人に話を聞くと、
「『SideM』の声優さんを追っかけている時に『GOALOUS5』を知った人も多い」とのことでした。
こうした「作品繋がり」「○○繋がり」も、お客さんに知ってもらう入り口として有効だと言えるでしょう。

■大手の参入 ジャニーズ×東映「戦隊学園もの」

「キャスト×キャラクター」動画の流行と呼応するように、大手コンテンツ企業も興味深いコンテンツを立ち上げました。

この21年7月から9月に、ジャニーズを擁するレコード会社、ジェイ・ストームと、特撮で知られる東映がタッグを組んで、テレビ朝日深夜帯ドラマ『ザ・ハイスクールヒーローズ』を放送しました。

テレビ朝日も、東映特撮ものである『戦隊シリーズ』『仮面ライダー』シリーズを放映する放送局です。

『ザ・ハイスクールヒーローズ』は、ジャニーズなどのキャストが、学園の平和を守る戦隊ヒーローになるというドラマ。東映戦隊ものの元祖『ゴレンジャー』も、彼らが憧れるヒーローとして登場します。

ジャニーズや戦隊ものが好きな”大きいお姉さん”向けに、ヒーロー、イケメン、学園ものといった要素を強化しているところが特徴です。

これまで声優等の番組は、AbemaTVなどのネット配信媒体が中心でしたが、同社の親会社であるテレビ朝日と人材交流や意見交換といった相乗効果があるのかなとも想像しています。

「動画配信」という、TVよりも小規模から始められるコンテンツが、徐々にスケールアップされていく。
「キャスト×キャラクター」動画は、コンテンツの新たなチャレンジの場にもなっているのです。

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