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おじさんと私~第2話~

これはお笑いとの戦い、いや、おじさんとの戦いを記したいわば戦記である。
念のためお伝えしておくが「おじさんと共にお笑いに挑む」ということではない。
そういう場面ももちろんあるだろうが、基本的な対戦カードは「おじさん対私」である。

おじさんの「気楽に軽いノリでやっていきましょう!」という言葉を真に受けて本当に悠長に構えていた私は、自身の考えや覚悟の甘さをおじさんによって痛感させられる。

まず初めておじさんともめたのは、初めてのネタ合わせで自己紹介部分の練習をした時のことだった。

(2人)  「どーも、きくばやしです」
(直子)  「わたし、直子と」
(おじさん)「西野カナさんリスペクト芸人菊池カナです」

どこにもめる要素があるかお気づきだろうか。

私が自己紹介で「小林直子です」と言わなかったことである。
私は「小林直子」は本名である為言いたくなかった。(会社やフリーペーパーでは旧姓の渡部を名乗っている)
しかしおじさんはコンビ名が【きくばやし】なのに、小林と名乗らないのはお客さんが混乱すると言う。

私    「…そんなに混乱しますかねぇ。」
おじさん 「大混乱が起きて、ネタに集中できないよ。お客さんの立場に立ってごらんよ。“ちょっとまって、え、きくばやしのばやしは?”ってまずお客さんの思考がストップしちゃうよ。考え過ぎちゃってそのことを考えているうちにネタが終わっちゃって、結局ネタ自体が全くウケなくなるに決まってるよ。だっておかしいもの。きくばやしなのにばやしがないのは。うん、ばやしはみんな欲しがるよ。僕だって菊地カナですって堂々と言ってるわけだし。」

おじさん、あんたそもそも本名菊池カナじゃないじゃないか。
なにが「僕だって」なのか。

M-1のエントリー用紙に小林直子と書いてしまったが為に、小林直子と名乗らなくてはならなくなったのだ。
多分名乗らなくてもいいのだろうが、おじさんのルール的にそれは許されない。
そのルールを教えてくれていたら私だって気の利いた芸名を考えた。
これが「僕(私)だって」の正しい使い方だと思う。

そしておじさんは気づいていないようだが、きくばやしの「ばやし」が何なのかハッキリしたところでそもそもウケないネタである。

とにかく物事を穏便に済ませたいが嫌なことは嫌な私は、
その時は納得したフリをしたもののその後のネタ合わせでもちょいちょいトボけたフリをして「直子です」という自己紹介をはさんでいった。そしてその都度おじさんは気づき、私を注意した。
素直に謝る私と、そんな私を「おっちょこちょいさん」と強めの語気で戒めるおじさん。
現在もこのやりとりは続いている。

他にも、「ちょいちょいちょぉい!!」みたいなツッコミをして欲しいおじさんと、そんなツッコミをするくらいなら解散したい私。

「…もぅ、やめさせてもらうわ!!」と元気いっぱいに、しかし吐き捨てるようにかっこよく言って欲しがるおじさんと、そんなことを言わされるくらいなら解散したい私。

演技がなっていないと怒られ、頑張って演技をしてみたところ真剣な面持ちで「ごめんなさい、ちょっと謎。」と言われたり、
発声がなっていないと怒られ、「遠く遠く遠く!!直ちゃんの声で向こうの山を押すイメージで!」と私の声を見えない山に誘導したり、
山を動かせなかった私はおじさんが長年通っているボイトレでやっている腰を曲げながら「にゃー」と叫ぶ発声方法の見学を強いられたり、
その発声方法をしているおじさんの後ろ姿を思わず盗撮してしまいおじさんに戒められたり。

おじさんと私の課題は山積みである。
練習中無言になることもしばしば。

しかし、おじさんは気持ちを切り替えることが上手な人で
「楽しく楽しく!!ハッピーハッピー!!イエイ!」
と笑顔で手を叩き空気を変える。

おじさんの無邪気な笑顔を見ていると、
「おじさんは一日も早く西野カナに会いたくて純粋に頑張っているだけなのに、なんだかわがまま言ってごめんなさい。」という気持ちになってくるから不思議だ。

(ちなみに西野カナは現在無期限活動休止中らしいのだが、その件についてどう思うかは聞けていない。)

そしてある夜、おじさんから一本の電話がかかってきたのである。
おじさんは真剣な声色でこう言った。

「お笑いの大先生にコンビを組んだことをご報告したところ、直ちゃんの本気度を見せて欲しいと先生が言っている。…直ちゃんの本気度、見せちゃってくれる?」

次回こそ、おまえの本気度を見せろ、に続く。

この写真は、おじさんと私の初舞台(この大変切ないエピソードもおいおい綴りたい)を記念して撮った写真である。
この服は私のお気に入りだったのだが、いつのまにか衣装となってしまい見ると何故か気分が塞ぎ込む代物になってしまった。
そしてもはやこの写真は「おじさんと私」ではなく「おじさんとにわかファン」である。

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