「もうひとりの渡辺喜久男さん」との出会いから始まった、とある街づくりの物語
ー農地転用から見える、土地の記憶と未来への継承ー
こんにちわ。都市開発デベロッパーの渡辺です。デベロッパーとして25年仕事をしてきました。数多くのプロジェクトに携わってきましたが、時として運命的な出会いが、その後の展開を大きく変えることがあります。今回お話しする内容は、まさにそんな不思議な縁から始まった物語です。個人的にはかなり長いお話ですので、どうぞお付き合いくださいませ。
予期せぬ出会い ー同姓同名の地権者ー
あれは5年前だったと思います。夏の午後、とある事務所の応接室のこと。農地活用の相談で来社された地権者の方の名刺を受け取った瞬間….
私は目を疑いました。
そこには「渡辺喜久男」―私と同じ名前が記されていたのです。
かなり珍しい名前だけに、互いに戸惑いの表情を浮かべながらも、やがて笑顔がこぼれました。振り返ってみれば、この不思議な出会いこそが、新しい街の物語の始まりだったのかもしれませんね。
受け継がれてきた土地の記憶
渡辺喜久男さん(以下、地権者様と表記)が守り継いできた約1,650㎡の農地は、地域の稲作地帯の中でも良質な水はけを誇る優良農地でした。50年以上にわたって、この土地は実りの恵みを周辺地域にもたらしてきた場所でした。また、渡辺喜久男さん自身、農業経営者の雑誌にも紹介される素晴らしい農業人の方でした。
「父から受け継いだ時から、ずっとここで米を作ってきたんです」
穏やかな口調で語られる言葉の端々に、この土地への深い愛着を感じとったのを今でも鮮明に覚えています。
「でも、息子たちは都会で別の仕事に就いていて...このまま農地として維持していくのは難しい。かといって、ただ手放すのも忍びなくて・・・」
高齢化と後継者不足―。日本の農業が抱える構造的な課題が、この土地にも影を落としていました。
土地活用の可能性を探る
地権者様との打ち合わせを重ねる中、何とか農地転用して、この土地の持つポテンシャルを最大限に活かせないかを考えたのです。
・最寄り駅から徒歩13分という好立地
・スーパーまで徒歩8分、小学校まで徒歩10分の生活利便性
・南側に広がる農地景観がもたらす開放感
・地盤の良さを示唆する50年以上の耕作実績
「この土地を、次の世代に誇れる財産として残したい」
地権者様のその言葉に、私たちのプロジェクトの方向性が定まりました。
プロジェクトの概要 ー14つの物語が始まる場所ー
約1,650㎡の敷地を14区画の建築条件付き宅地として整備する計画です。区画設計にあたっては、以下の3つのコンセプトを重視しました。
1. 自然との共生
・南側農地への眺望を確保
・季節の移ろいを感じられる区画配置
・緑地帯の設置による環境との調和
2. 快適な住環境の実現
・各区画165㎡~185㎡のゆとりある敷地設計
・南西角地中心の区画による陽当たり・通風への配慮
・プライバシーに配慮した動線計画
3. 持続可能なコミュニティ創造
・若いファミリー層をターゲットとした区画設計
・共有スペースを活用したコミュニティ形成
・地域との調和を意識した街並み形成
農地転用という挑戦
良質な農地を住宅地へと転換することには、大きな責任が伴います。現在、以下の手続きを慎重に進めています。
・農業委員会への転用申請
・都市計画法に基づく開発許可申請
・土地区画整理事業との整合性確保
・地域住民への説明会実施
特に農地転用については、以下の観点から慎重な判断が求められます。
地域の農業への影響
周辺農地への日照・水利への配慮
農業用水路システムの維持管理
営農環境への配慮
都市計画との整合性
用途地域の適合性
インフラ整備の必要性
周辺環境との調和
環境への配慮
雨水排水計画の適切な策定
緑地の確保
生態系への影響最小化
法律の観点からも色々と検討が必要で、皆さんが思ってる以上に農地転用のスキームを組み立てるのは大変です。
同姓同名が織りなす不思議な縁
先日、現地での測量作業中に地権者でもある、渡辺喜久男さんが立ち寄ってくださいました。
「名前が同じって不思議なもんやね。わしが長年守ってきた土地を、同じ名前の人が次の時代に向けて形を変えていく。なんかの縁を感じるわ」
その言葉に、私は深い感銘を受けました。同じ名前を持つ者として、この土地の未来に責任を持つ。そんな使命感が胸に込み上げてきました。
2026年秋に向けて
現在、2026年秋の分譲開始を目指して、着実に準備を進めています。
・農地転用許可申請(進行中)
・開発許可申請準備(書類作成中)
・造成工事計画の策定
・販売計画の立案
「渡辺喜久男」という同姓同名である地権者様とデベロッパー二人の出会いから始まったこのプロジェクト。単なる宅地分譲に終わらせることなく、土地の記憶を大切に受け継ぎながら、新たな価値を創造していきます。
デベロッパーとしての使命
不動産開発の仕事は、単に土地の形を変えることではありません。その土地が持つ歴史や記憶を理解し、新たな価値を付加しながら、次世代へと橋渡しをする―そんな重要な使命を担っています。
今回のプロジェクトでは、同姓同名という奇跡的な出会いを大切にしながら、この土地ならではの特別な価値を創造していきたいと考えています。
プロジェクトの完了まで、まだまだ多くの課題が待ち受けているでしょう。しかし、もうひとりの渡辺喜久男さんから託された想いを胸に、一つひとつ丁寧に進めていく所存です。
この土地が、いつの日か「渡辺喜久男」という同じ名前を持つ二人の想いが交差した特別な場所として、人々の記憶に刻まれることを願って。
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