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歴史がつくるコミュニティのかたち

こんにちは。博報堂グループでスタートアップスタジオを運営しているquantumの渡辺です。変わりゆく社会のトレンドについて日々思いついたことをつらつらと書いていこうと思います。


年明け2度目の緊急事態宣言が始まって、そこからあっという間に時間が経ちそろそろ次の春を迎えようとしています。

コロナの不安とゴールの見えないオリンピックへの焦燥感にせきたてられて、走り出す人々の意識は行先を見失いつつあり、毎日いろんなできごとが起きています。

ワクチンとジェンダー論と既得権益、K字型の相場と仮想通貨バブル、そして今なお続く大震災の爪痕。

堰を切ったように、これまでの社会の歪みがこの短期間で溢れかえっています。

TwitterやSNSを見れば毎日この歪みが押し寄せて、心が疲れてしまうので、最近は少し控えるようになりました。

代わりにこれまで以上にものをつくることに意識を傾けるようになって、料理をしたり、絵を書いたり、そういうことに時間を費やすことが増えてきました。


ものづくりが好きな人は自然にそうしているのだと思いますが、ものをつくっているとものをつくっている過程そのものに楽しみを感じることが多々あります。

料理を作る時に材料を切る過程や、絵を書いている時に絵の具を作る過程それ自体がとても楽しく、普段使っている頭の部分とは違う部分が刺激されているようで心地よい気分にもなります。


ものづくりの今を知りたくなる

事業開発でも同じような瞬間は多くて、もちろん成果を目指して毎日を過ごしながらも、その中で試行錯誤している過程自体が楽しくて、僕も長いこと事業開発を続けているのかもしれません。

そう思っているとインプット自体も自ずと他人のものづくりの過程に興味を持つようになって、そういう情報を自然に取り入れるようになっているのですが、最近少し変化を感じています。

これまでは何かを作った人や、成し遂げた人の振り返った過去を本やテレビや記事などで見聞きし、自分が何かをつくる時の参考にしてきました。

ですが、常時接続時代になってその形が変化してきているように感じています。


私はお笑いが大好きで、よくいろんな芸人さんの番組やYoutubeをみているのですが、最近さまぁ〜ずさんがふかわりょうさんとYoutube上で曲を出しました。

内P世代には心温まる活動で、作品自体もふかわPのおかげで素晴らしい出来になっているのですが、この作品ができあがるまでずっとこの過程を追っかけていました。曲作りを依頼するところから、出来上がるまでずっとYoutubeで流しているからです。

企画が始まって、デモを作って、意見をぶつけ合ってレコーディングしてPV作って。

もちろんこれまでもテレビ番組では同じような構成で芸能人が曲を出すようなものはたくさんありました。

でもYoutubeで撮影から流すまでの時間が短くなっているせいか、今まさに起きていることを近くで見聞きしているように感じられ、より強く興味をひかれるように感じています。

PV自体の再生数はまだあまり回っていませんが、僕自体も興味をそそられているせいか応援する気持ちが強くなり、皆にこの曲聞いた方がいいよと言って回っているほどです。(この記事もその一環かもしれません笑)


コミュニティベースのサービス開発

この製作過程をオープンにすることで、ユーザーを巻き込んでいく過程はこれまでもたびたび注目されていて、オンラインサロン起点のサービス開発でたびたび論じられ、キングコングの西野さんを筆頭に映画化もされた「えんとつ町のプペル」は大きな反響を呼んでいます。

かつてのUGC(User Generated Contents),UGS(User Generated Service)から大きく枠組みを超え、コミュニティに集う人々とともにコンテンツやサービスを作っていく言うなればCommunity Generated Contents(CGC)やCommunity Generated Service(CGS)が進みつつあります。

事業開発の分野でもけんすうさんがアルを作る上で、その過程をオープンにするアル開発室というオンラインサロンを運営しているのもその一つの例です。

プロダクト開発の過程そのものをオープンにすることで、ユーザーの関心を引きながらユーザーフィードバックをリアルタイムで収集してプロダクトの改善に充てる。

このコミュニティからのリアルタイムフィードバックを内在した超ユーザーセントリックな事業開発プロセスは、高速、高回転でプロダクトマーケットフィットができるので、新規事業開発の手法として理想型のように思われます。


ただ現状このような事業開発手法を取り入れているスタートアップはあまり多くありません。

それは何故でしょうか。

一つには開発工程を全てオープンにしてしまうことでコピーされてしまうリスクがあります。自分たちが考えているアイデアや製品をその途中で模倣されてしまうと、費やした投資の回収が思ったように進みません。

もう一つは、サービスが出来上がる前、まだ何者でもなく認知度がないスタートアップでは信頼が蓄積されておらず、人を集めるのは困難で、どれだけ強い思い(Why)があってもそれだけでは人が集まらないというのも大きいと思います。


さらけ出すことで生まれる強さ

新規事業を企業と共創する中で、最近多くの企業が、D2C(Direct to Consumer)ビジネスへの高い関心を示しています。

SNSをはじめとしたインターネットメディアを通じて顧客とダイレクトに繋がり、実現したい製品の世界観を深く伝えるとともに、ユーザーのフィードバックを通じてプロダクトの製造・販売・改善を繰り返すことで、顧客とのより深い関係を築いています。

Consumerビジネスを長くやられている日本の大企業は、長年の歴史の中で鉄壁のサプライチェーンを組み上げてきましたが、多様化するユーザーニーズの中で、これまでのマスプロダクト中心のビジネスモデルから、ダイレクトに顧客とつながるD2Cビジネスへ少しずつ軸足をずらしつつあります。


D2Cビジネスに参入する企業は多くが、これまでの事業開発とと同様にサービスローンチまで情報を漏らさずに、ユーザーからは見えないところで開発をしていますが、私はこの領域こそ前述のアル開発室のような常時接続でオープンに事業開発を行うプロセスCommunity Generated Serviceが有効なのではないかと思っています。


100年企業が3万社以上あると言われるほど、日本の大企業は長い期間をかけて人々の暮らしに貢献してきた歴史と個性を持っています。言うなればこれまでの取り組みが顧客の潜在意識の中で信頼を積み上げています。

その企業が強い思いを持って新たなプロダクト開発を宣言し、ユーザーコミュニティを集め、様々な情報をオープンにしてユーザーとともにプロダクトを作っていく。

コミュニティのリアルタイムのフィードバックから高速にプロダクトマーケットフィットが進み、ユーザーニーズに合致したプロダクトの開発が進むのはもちろんのこと、誰もが知る有名な企業が活動をオープンに情報公開することで、逆に周囲は模倣がしにくくなります。

活動をオープンにすることは他のメリットもあって、カッコ悪い部分も含めてオープンになっているので、POCまでは進むのにその後急速に事業開発スピードが落ちて、「上市に値するレベルまで外に出さない」と作っては直しを繰り返した結果マーケットが変わってしまいローンチを諦めるようになってしまったなんてことも減るでしょう。

このように、D2Cビジネスにおける企業の次の事業開発の形としてCommunity Generated Serviceのやり方は非常に有効だと考えています。


その企業にしかできないこと

スタートアップの世界では、起業家の原体験に根差したサービスは強く人を惹きつけると言われています。前田祐二さんやハヤカワ五味さんなどがその先駆者ですが、それまでの自身の歴史がサービス開発に至った動機と結びつくことで、その人にしかできないことと認識され、周囲から多くの後押しを得られています。

日本の企業は創業から長い時間をかけてその企業の個性を作り上げてきました。その個性は一つは技術のような具体的なものかもしれないし、一つは市場の洞察力のような抽象的なものかもしれません。

その個性で紡がれた歴史とともに、その企業が強い動機づけをもって次にやりたいことを示せば、同じように多くの共感と後押しが得られるのではないかと感じています。

私が、かつてたくさん笑わせてもらったさまぁ〜ずさんとふかわさんの後押しをしたいと思うように、これまでの歴史が周囲を動かすでしょう。

我々quantumも、これまでの歴史の先に次に進むべき道を見つけようとしている企業の後押しとしてともに事業を作っていきたいと思っていますので、一緒にチャレンジしましょう。


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