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本当の悪は姿がない



映画版の「正義の行方」と、「マウリポリの20日間」をわりと立て続けに観て、思うのは、結局、映像には明確な悪はうつらないし、姿がないのかもしれないということ。
いや、そもそも最悪の事態を生み出しているのは、自覚のある悪なのかも疑問だ。
最悪の事態をうみだしたのは、誰か。「正義の行方」では、そもそも、久間さんは悪なのかどうか。「マウリポリの20日間」では、プーチンさえ死ねば戦争が終わるのか。
まあ、もしかしたら、プーチンが死ねば、侵略は終わるのかもしれない。でも、もしかしたら、死んでもその意志を継ぐ者がいるかもしれない。
実際に人が住んでいるところに砲弾を撃ち込む人間たちにも、彼らなりの意志があるだろうし、理屈があるのだろう。外からみれば、人が住んでいるところに砲弾を撃ち込むことそのものがいかなる理由があっても暴挙にしかみえないし、悪にしか思えない。そして、その悪をおこなう理由も分からないし、実感もない。色々な解説を読めば、それはそれなりに情報としては理解できるけど、なんら実感を伴わない。それは仕方ない。当事者ではないから。
それでも、映画を観れば分かるが、こんなに建物を破壊し、市民が怪我をし、死ぬ必要があるのか。
砲弾そのものが悪であり、いかなる理由があっても、それを使うことこそ、悪だということは分かる。
なにが、問題であり、どういう解決があり得るのか、誰が具体的な悪なのかは分からない。でも、実際に破壊されている街をみれば、それそのものが悪だと分かるし、それをフェイクニュースだと、言い張る人たちも存在するようであるが、砲弾を撃ったことすら、侵攻すらすべてがフェイクであるというなら、そうであって欲しいし、それを実証してほしい。フェイクニュースだ!というだけなら、誰でもできる。なんなら、フェイクであるほうがまだいい。
あんなにも破壊して支配しようとすることに、なにか意味があるのか個人的には全然分からない。
プーチンは自衛と言っているようだが、すべての戦争、争いは自衛意識で始まる、例外はない。
自衛意識こそは悪である。そう考えると生存本能こそが、悪であり、またそこで勝つことが適者生存であり、生き物の歴史なのかもしれないと、虐殺も戦争も、自然淘汰の一部か、と諦めるような気持ちにもなる。生存本能による自衛行動こそが、悪を生み出し続けていると考えれば、人類が滅びない限り、このような事態はなくならないということだ。絶望だ。
生き物に埋め込まれた本能が、この破壊の悪の本性だとすると、どうしたらいいか難しい。
そして、「正義の行方」は、そのような判断の難しさを追求した作品。誰が、正義で、誰が悪なのか、なんて判断できない。
事件は、絶対的に無垢な存在である小さな命が奪われている。その時点から、悪を探す作業がはじまる。
絶対的に無垢な存在の小さな命が奪われるのはマウリポリでも同じだが、この奪われた命の代償は一体誰が払うのか、または払われないのか、ほとんど払われることのない戦争はほんとうに邪悪だ。
「正義の行方」では、というかこの事件では、ひとりの人がその代償を払わされている。死刑になっている。
でも、本当にその死刑は、死刑であるべきだったのか、本当に犯人だったのか、この疑念が大きい。
とにかく、証拠が弱い。映画には出てこない事実も含めて、とにかく死刑になる根拠が薄すぎる。
死刑確定している事件、林真須美さんや木嶋佳苗さんも、証拠は状況証拠や、目撃証言だけで、本当に根拠が弱い。そんなことで、死刑になるのか、と驚く。
正義とはなにか、を問うことは、人間は悪を見極められるのか、人間が人間の悪を罰することが根本的に可能なのか、ということなのだろう。
でも、すごいシンプルにこの事件のことを考えると、もっと真摯に証拠にむきあえば、もしかしたら、別の結果があったのではないか。
真摯に事件にむきあう、このことを、検察や国家機関が本当にやっていたか、疑わしい事実が次々出てくる。そして、その当事者はカメラの前に姿を現さない。このことが、ウクライナの侵攻とも相似形をなしている気がする。
とにかく、決定的なことに手を下した当事者が出てこない。
久間さんのDNA鑑定の切り取り改竄を行った人、マウリポリの民間人施設に砲弾を放った人、この人たちは、映像には現れない。
そのことこそが、すべてを物語る。
撮れなかったこと、うつっていないことこそが重要なことであることもある。
実は、撮れていないものこそを思うときにこそ、これらドキュメンタリー映画の意味があるのではないか、撮れていることに固執するドキュメンタリー制作者は多いが、実は撮れていないこと、撮れないことを感じさせる編集こそ、本当に意味があるのではないか。うつっていないことを感じさせることこそ、重要なのではないかとつくづく思わされた。
うつらないところに、悪はいる。

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