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街を鑑賞する その1 剥き出しの内臓

 皆さん、散歩はお好きでしょうか?私は街を特に目的もなく徒歩でウロつくのが結構好きです。目的が無いが故に普段気にしてなかった事に気がついた時にも、足を止めてじっくり観察することが出来るからです。そんな暮らしをしているうちに、普段気に留めていなかった建物の壁が結構味わい深いものである事に気がつきました。今日はそんな話をしてみようかと思います。

 昔々の話ですが、パリのポンピドゥセンターはエスカレーターやら空調やらの「建屋内トラフィック」を外に剥き出しにしたデザインで激しい賛否両論を巻き起こしたそうです。トラフィック、というのは人間で言うと消化器とか循環器とか内臓に当たり、それが剥き出しになった強すぎるインパクトに対して否定的な意見も沢山あった様です。

 それもやがて前衛芸術性を高く評価されて今に至ります。で、これがなんで街中散歩の話と関係あるのかといえば、街中にはそういう「内臓剥き出し」で印象深いクールな建物が実は沢山あり、ポンピドゥーセンターが芸術なら、もしかしてこれも?!なんて思いついてしまったからです。

 例えばまあ、こんな感じです。空調なのか水回りなのか、素人の私には不明ですが視覚化された建屋内トラフィックがメカニカルかつダイナミックな風情を建物に与えており、単純にカッコいい、と思ってしまいました。

 建物の形状に寄り添うように配置された機能パーツがカッコいい、これはどう言う事だろう、と考えていたらオートバイのカッコよさである事に気がつきました。アレも機能部品たる内臓を剥き出しにしたメカニカルなカッコよさです。つまりこれらの建物は自動車とかバイクに一脈通じる所があるのではないか?とか道に足を止めて一人でブツブツ言っているわけです。

 フラットな壁面であっても、今度はどこかグラフィカルな面白さがあります。機能優先で生まれた表現、というか実際に造った人たちは特に何かを表現しているという事もないのでしょうが、機能から始まったテクノチックなカッコよさがあります。

 では壁面フラット配置のものは平行垂直なテクノ感だけか、と言えばそうでもなく、中にはこんなアバンギャルドなレイアウトのものも存在します。この建屋をまるで無視したかのような斜め跨ぎの乱暴力にシビれます。

 室内トラフィックのパイプ類だけでなく、空調室外機のようないわば内蔵にあたるような機能部品も外に出されたりします。基本、建物はインテリアが体裁整っていれば良い、エクステリアで都合が悪いのはそこに在っても見えない事にしよう、という事になっており?室外機も見苦しいものとして扱われがちですが、果たしてどうでしょうか?

 これとか左の階段も合わさって、なんとなくリズムめいたものを私は感じたりします。ピンボールとかパチンコの役物感、とでも言いましょうか、確かに整ったデザインはされていませんが、マルセル・デュシャンとかのレディメイド同様、これを作品だと言い張ればそうなるような気もします。デュシャンと一緒にするな!と怒られそうな気もします。

 普段、気にも留められない室外機ですが、このくらい数があると壮観です。なんだかピンクフロイド関連のビジュアルでも見ているようです。もしかしてこの室外機達は我々に、文明社会の歪みの中で人間が何を問題とし、如何に生きるべきかを示唆しているのではないでしょうか?って大袈裟か。室外機はこの辺にして次に行きましょう。

 建物機能パーツ界広しと言えども、やはり造形的に特に見応えがあるのが飲食店の換気フード、煙突の類でしょう。建物機能パーツ界、というのは私が勝手に今作りましたが、換気フード系が特にカッコいいのは本当です。上の写真のものも金属感と相まって必要以上の存在感があります。

 これとかオートバイで言えばツインエンジンのエキゾーストシステムにあたり、お好きな方には堪らないはずです。自動車やオートバイの排気管は排気や燃焼効率を高めパワーを上げるチャンバーや消音のためのマフラーなどパーツが工夫されていますが、「鰻の匂いが1・5倍アップ」とか「厨房熱を効果的に削減」とかそう言うパーツがあったら良いですね。

 これとかメチャクチャカッコよくないですか?エンジンならトリプルシリンダー、と言う事になるのでしょう。もう完全に建物以上の存在感を醸し出しており、もうここまで来ると、本当にオートバイや車のマフラーの様に造形芸術の要素を入れて行っても良いのではないか、と思います。きっとポンピドゥー超え狙えます。

 これも中々の名作だと思います。何が良いかと言えば長年の使用で金属板表面がすっかり焼け、もしくはサビてしまい、大変味わい深い風合いになっている所です。茶人好みのダクト、と言えるのではないでしょうか。

 個人的にはこれが優勝です。おそらく気持ちとしては建物の裏側にヒッソリとつけてあるのですが、ヒッソリさせておくのが勿体無いくらいの異様な存在感です。もうこちらを建物のファサードにすれば良いのでは?と思うくらいのカッコよさがあります。

 もうこの辺で最後にしましょう。これまでとはスケール感がだいぶ違う、特大から通常サイズのものまで、パイプ祭りみたいな建物裏側です。

 またもやピンクフロイド感満載です。ピンクフロイドを知らない方にはすみません。ここまでメカニカルだと船とかに近い感じを受けます。実際、大きな船も内部トラフィックを剥き出しにするとこんな感じになるのでしょう。この手の物件は学校とか工場関係とかに多いですね。

 川崎とか富士山のあたりとか巨大工業地帯の建屋は生産工場機能が優先なので機能パーツは剥き出しかつ満載、よってインダストリアルクールな感じを直球で感じさせたりします。が、しかし普段我々が暮らしている居住空間にも実はそんな面白い要素がフワフワ漂って偏在している、というのが言いたかった事です。散歩で見つけたこうした街の味、建物の味、壁の味、というのはコレだけに留まらず他にもありますので、おいおい書き記しておこうと思います。

 あまり役に立たない様な与太話でしたが、ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。

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