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NPS(ネットプロモータースコア)に代わるロイヤルティスコア NRS(ネットリピータースコア)

現在、ロイヤルティを測る指標として最も使用されているのが、アンケートで顧客の推奨度合いから算出したNPS(Net Promoter Score)である。しかし、多くの指標が万能でないのと同様にNPSにも問題点がある。本稿では、それらの問題を解決する新たな指標として、顧客の継続利用意向から算出するNRS(Net Repeater Score)の内容を紹介するとともに、その分析方法に関して解説する。
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推奨意向を見える化するロイヤルティ指標「NPS」
アンケートによるロイヤルティ指標の中で広く知られ、多く使われているのがNPS(Net Promoter Score)である。多くの読者が既にご存知の指標だ。
フレッド ライクヘルド氏(Fred Reichheld)が著書『ネット・プロモーター経営』で提唱したカスタマーロイヤルティを計測する指標で、仲のいい友人や家族に企業や商品を薦める可能性を0~10の11段階で取得し、9、10を推奨者、8、9を中立者、6以下を批判者と名付け、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いた値をNPSⓇ(Net Promoter Score)と称してロイヤルティスコアとしている(図1)。
6以下を批判者と定義する厳しいスコアのため、すぐにマイナススコアになるが、NPSが多くの企業で採用されている主な理由は次のとおりである。

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① 自分が気にいっている度合い以上に「信頼がなければ、他人には推奨しない」という消費者心理があり、継続利用意向より、推奨度合いの方がより高いロイヤルティの度合いを測ることができる。
②未来志向の目標数値として単純で分かりやすい。
③将来の収益性との関連性が過去の調査結果で証明されている。
④ワールドワイドで多くの企業がロイヤルティ指標として採用しているため、比較するベンチマークの情報が多い。
⑤すでにNPSを活用した分析や施策立案の手法が多く、知見を得やすい。
とくに今から採用する企業にとっては、④、⑤の実績による他社の知見を多く活用できる点は魅力だ。筆者もロイヤルティマネジメントのコンサルティングで採用しているもっとも多い指標は、NPSである。

NPSはデファクト・スタンダード一方、悩ましいデメリットもある
NPSはもっとも多く使われているデファクト・スタンダードといえるロイヤルティ指標だが、多くの指標が万能でないのと同様にNPSにも問題点がある。コンサルティングの際に苦労し、また、疑問を抱いた点やクライアントとさまざまな研究会メンバーから聞いたNPSの問題点は次のとおりだ。

①11段階評価では正確性が担保しにくい場合がある
アンケートでは推奨意向を11段階でお客様にチェックしてもらう。そのため、お客様によってその段階の重みづけが違ってくる。
同じ推奨の意向があっても甘くつける傾向のある人と厳しくつける人では回答が違ってくる。まあまあ評価が高く、推奨したいと思っていても、控えめに7ぐらいをつけて中立者になる人もいれば、10をつけ推奨者になる人もいる。さらに性別や年齢、あるいは国民性の違いも影響してくる。
すぐに9、10をつける国民性の国もある一方で、厳しくチェックする傾向が強い日本人は、9、10はつきにくく、NPSを採用しているグローバル企業の日本のマネージャーは苦労しているという話をよく聞く。

②自分は大いに気に入っているが他人には薦められないケースがあり、スコアに納得感を得られない場合がある
筆者がコンサルティングで悩む点がこれである。アンケートのフリーコメントの意見を考慮すると、自分は大いに気に入っているが他人に薦めないのは、次のような理由が考えられる。
・気に入りすぎて他人には推奨したくない。他人とかぶりたくない。自分だけのものでいたい(ファッション関連など)
・商品特性によっては他人には薦めにくい(ランジェリー用品、マイナーな趣味嗜好商品など)
・見栄に左右される(自分は立ち食いソバ専門だが推奨する際は高級蕎麦屋)
・仲のいい友人は皆知っているので薦めない(ブランド品など)
・人それぞれなので薦めることはしない主義
・友人や家族が少なくて推奨したくてもする人がいない

③あまりにもスコアが低くなってしまい、従業員の士気が上がりにくい場合がある
NPSでは、9、10が推奨者で6以下が批判者という厳しい採点をする。そのため調査によってはマイナススコアが大きくなる場合がある。
たとえば、法人相手のアンケート調査では、個人の感情が入りにくいため、高評価でも「8」までに留まることが多い。また、調査会社のネット調査会員に対する市場調査のアンケートは、企業が組織化している会員への調査に比べてスコアは低くなる。こうしたケースではNPSが極端に低いマイナス値になることがある。
調査会社が行ったNPSの市場調査データが軒並みマイナス値で、もっとも高いスコアでもマイナス値の結果になるのは、こうした理由からだ。
調査会社による市場調査結果はやむを得ないとしても、企業が調査した結果のNPSがおしなべてマイナスになると、従業員の士気が下がってしまうことがある。コンサルティングの現場でも、「この顧客セグメントのNPSはマイナス20ですが、他のセグメントよりかなり高くて良いですね」と言っている自分も辛いし、聞いているクライアントの担当者も辛く、お互い士気が上がらない。

④収益シミュレーションの不確実性が高い
ロイヤルティは顧客満足と収益を結ぶ重要なものである。したがってロイヤルティ指標から納得性の高い収益を評価できるシミュレーションをしなくてはならない。ロイヤルティは、お客様の「これから先の行動」に対する気持ちなので、収益の先行指標ともいえる。
マクロ的な観点ではNPSが向上した企業は収益が向上していることは多くの事例で確認されているが、日本では個々のプロジェクトでのシミュレーションが重要視される。NPSが上がることにより先々、どれくらい収益が向上するのかをシミュレーションできれば、ロイヤルティを高める努力の納得性が増す。
NPSは推奨度合いを測る指標のため、収益をシミュレーションするには、NPSが高まると、どれくらい推奨される人が増え、その中からどれくらいの人が自社の商品を購入し、収益に貢献するかを算出する必要がある。これは新規顧客獲得のシミュレーションとなる。
しかし、実際にはNPSの向上でどれだけの新規顧客を獲得でき、その顧客単価を想定するのは不確実性が高いため、金額換算したものの信憑性は高くない。

⑤トランザクション調査でお客様に推奨度合いを聞くことに違和感を覚える
NPS調査には、1年単位で企業や商品全体を評価するリレーション調査と、各顧客接点の都度の体験を評価するトランザクション調査の2つがある。トランザクション調査の場合は、たとえばコールセンターに電話した直後や店舗で購入した直後にアンケートを実施する。これらの1回の体験をもとに企業や商品の推奨度合いを聞くことになる。
この場合、コールセンターのオペレーターの1回の対応や店舗での1回の接客の結果から、企業や商品の推奨度度合いを聞くことになり、狭い評価となってしまう。

NPSの問題点を解消したロイヤルティ指標がNRS(Net Repeater Score)
今まで数多くのロイヤルティマネジメントのコンサルティングを手掛け、NPSによる分析作業をこなしてきた。そのなかで前述のようにNPSの問題点に直面することがあった。
その経験を踏まえて、NPSに代わる新たな指標を提唱している。NPSはデファクト・スタンダードであるためにメリットも多く、すべてを否定しているわけではない。クライアントの事情に合わせてNPSでは納得いかないケースに新たな指標を推奨している。
それは、「継続利用の意向」をロイヤルティのメイン指標にすることである。しかも、その継続利用の意向を1年後の継続利用の意向という先行指標として相応しい測り方にしている。さらにNPSと同様に、非常に高い継続利用の意向者(リピーター)の割合から離反リスクのある顧客の割合を引いた数値を「NRS(Net Repeater Score)」と定義した(図2)。
この指標を使うと、前述したNPSの問題点が解消される。問題点の項目に合わせてどう解消されるかを以下に解説する。

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① スコアとしての正確性が向上する
NPSでは11段階で顧客にチェックをしてもらうため、その評価の重みづけに差が出てくる。NRSでは1年後の継続利用の意向を具体的にすることで、意味に差を生まない表現で5段階の選択肢を用意しているため、より正確な評価が得られる。

②例外ケースが少なくなりスコアの納得性が増す
NPSでは自分は大いに気に入っているが推奨度では批判者になるというケースが存在する。NRSでは「1年後の継続利用の意向」という自分の行動意向の評価のため例外ケースがなくなり、スコアの納得性が向上する。

③NPSよりスコアは高めになるため、関係者の士気があがる目標値になる
NRSは顧客セグメントごとによるスコアの傾向はNPSとあまり違いはないが、全体的に良いスコアとなる。筆者の経験からは、NPSで軒並みマイナスというケースでも、NRSでは頑張って改善するとプラスのスコアになり、社員の士気は上がった。

④既存顧客の収益シミュレーションの信憑性が高い
NRSでは1年後の継続利用の意向を聞いているため、回答者の1年間の購買単価をベースに1年後の収益シミュレーションが正確にでき、納得性が増す。また、筆者の経験からは、推奨の意向より継続利用の意向の方が、ロイヤルティと1年間の購入金額の相関関係が高くなる。
5段階の回答を金額換算し、3(その時になってみないと分からない)以下をまとめた金額を「悪い売上」とし、さらに具体的名称として「離反リスク金額」と名付けてレポートする(図3)。
これは、年商の中で来年はなくなる可能性が高い金額の割合を意味している。経営者にはこの「離反リスク金額」の説明がもっともインパクトがある。これは、継続利用の意向をベースに算出しているため説得力が増すからである。

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⑤中期と短期のロイヤルティ指標として使えるためKPIとして一貫性が出る
NPSではリレーション調査もトランザクション調査も推奨度を聞くため、場合によっては違和感があった。継続意向には、「いつの時期の」という枕言葉を付けられるのがメリットだ。したがって、1年後の継続利用の意向をリレーション調査、次回の継続利用の意向をトランザクション調査にすると、ロイヤルティマネジメントの一貫性が保てる。
たとえば、店舗においてのトランザクション調査、すなわち今日の接客を評価する場合は「次回の来店意向」を聞き、リレーション調査においては、1年後の継続来店の意向を聞く。
図4にNPSの問題点とNRSによる解消をまとめた。

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施策につながる納得感が指標選びの最重要点
NPSの優位性や問題点、問題点を解消するNRSを解説したが、どちらの指標が優れているという議論ではない。自社にとってロイヤルティ指標として相応しい指標を選定することが重要である。筆者もコンサルティング現場では、必ず2つの指標を測り、使い分けて分析をするよう心がけている。
その際に留意しなくてはいけないことは、納得感である。アンケートによる回答は顧客の気持ちを測るため、購買データやWebのアクセスデータといった正確性の高いデータではない。高い正確性は担保できないことを前提に、どの場面ではどの指標を活用すると納得感があるかが重要である。
そして指標選びより前に重要なことは、ロイヤルティ指標は結果として良し悪しを判断するだけでなく、ロイヤルティと関連の高い要因(ロイヤルティドライバー)を特定し、施策を立案しなければ意味がない。その最上位指標として納得感のある指標を選ぶ必要がある。
適材適所の指標を選定して、納得感の高い施策を立案していくことが肝要である。

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