見出し画像

日系米人の強制収容を描いたPrisoner in My Homeland実況動画まとめ

Mission USはアメリカ史を題材にしたさまざまなシリアス・ゲーム(学校で利用することを前提にした教育用ゲーム)を制作しています。ゲームはすべて英語ですが、フルボイス音声にセリフの書き起こしがついてくるので英語の勉強におすすめです。独立戦争、ネイティブ・アメリカンの迫害、南北戦争と逃亡奴隷、ユダヤ系移民とアナーキズム、世界恐慌といったトランスナショナルな視点でのアメリカ史も勉強できます。

現在Mission USは6本のゲームを提供していますが、その中でもPrisoner in My Homeland(母国の中の虜囚)というゲームは第二次世界大戦中の日系人の強制収容を描いたもので、関心もあろうかと思います。


教育目的で非常によく作り込まれたゲームなのですが、全部英語でかつ学校でもあまり勉強しない日系アメリカ人の歴史という題材ではなかなか始めにくいかと思い、日本語で実況動画を作ることにしました。日系アメリカ人の歴史がご専門の亜細亜大学の今野裕子先生をゲストにお招きして、解説していただきながらゲームを最初から最後までやり通す動画が計8本あります。普通にご覧になるだけでなく、高校や大学などで授業に利用していただいても結構です。

ゲームと歴史

Mission USのゲームはどれもプレイヤーに選択肢が与えられていて、何を選択するかによって未来が大きく変わります。Prisoner in My Homelandの場合は、アメリカ人として米国に忠誠を誓い自分の忠誠心を示すために志願兵となることもできますし、逆に市民を強制収容するという米国政府の行いに抗議し投獄されることもあります。実際に日系アメリカ人の歴史を見ると、有名な442部隊に参加し勇敢に戦うことで戦後の日系人の地位向上に貢献した人もいれば、米国にも日本にも忠誠を拒否し「ノーノー・ボーイ」と呼ばれて戦後アメリカ社会で爪弾きに遭いながらもその原理的な正しさを後に再評価された人たちもいます。どちらかが一方的に正しくどちらかが一方的に間違っていたということではなく、さまざまな制約条件の中でそれぞれは小さな選択肢の違いが積み重なって大きな違いにつながることもあり、それは歴史の中の一個の人間にはどうにもならないことも多いものです。Prisoner in My Homelandは何度もプレイすることで、ほんの少しの違いで別の立場になり得た別の未来というものを想像できるように作られています。

この意味でPrisoner in My Homelandは『ゲーム的リアリズムの誕生』(講談社、2007年)で東浩紀が議論しているいわゆる「ループもの」のゲーム的想像力と関わるものです。東の議論は、写生文学的/カメラ・アイ的なリアリズムでは捉えきれない、まさにビデオ・ゲームの想像力や表現を通してしか描き出せない現実というものが現にありまたそこに可能性を見出そうというものです。「キャラクターがメタ物語的な結節点として与えられているがゆえに、あらゆる物語に対して別の物語への想像力が半ば自動的に開かれてしまう」(p125)というゲーム的リアリズムについての指摘は、そのままPrisoner in My Homelandにも妥当し、プレイヤーは自身の選択によって主人公のヘンリー・タナカが全く別のさまざまな未来を経験することを知っています。このように「ループもの」的な構造を持っていることで、Prisoner in My Homelandは単に過去に何があったのかを伝えるのではなく、ありうる未来の可能性の広がりの中から現実的な日々の問題に取り組みながら限られた選択を選びとらなれけばならない人間たちの苦闘の積み重ねとして歴史を描き出します。歴史の中で敗北したもの、消え去ったもの、惨めにのたれ死んでいったもの、そういったものたちの「別の物語への想像力」としてのゲーム・・・。


以下各回の実況動画へのリンクです。

第1回 ゲームの紹介と始め方の解説

ゲームの始め方や授業の中で使う際の補助教材について解説しています。


第2回 プロローグ

シアトル近郊でイチゴ農家を営むタナカ一家が、日米が開戦したことで強制的に立退させられるまでを描きます。


第3回 パート1 鉄条網の後ろで (前編)

マンザナー収容所での過酷な生活を少しでも改善しようとヘンリー・タナカが奮闘します。


第4回 パート1 鉄条網の後ろで (後編)

ターミナル島から来た癖の強いタダシやハワイ出身の帰米二世でロサンゼルスから来たウエノさんなどさまざまな日系人と出会います。


第5回 パート2 道を求めて (前編)

収容所の中で生活の基盤を作ろうとする中でさまざまな女性たちの姿が描かれます。


第6回 パート2 道を求めて (後編)

FBIに逮捕されていた父親が収容所での生活に馴染むように柔道をしたり、メイコとダンスパーティーに行ったりといった文化活動が描かれます。


第7回 パート3 忠誠

悪名高い忠誠質問に対するさまざまな反応を通して、日系人と言っても一枚岩ではなくさまざまな葛藤があったことが描かれます。


第8回 エピローグ

ヘンリー・タナカの選択の先には何が待っているのか。さまざまな選択肢と待ち受ける未来について考えます。Mission USが提供する教材を使った演習のようなこともやっています。


クレジット

出演
今野裕子(亜細亜大学・講師)
渡部宏樹(筑波大学・助教)

編集
張山紗彩

謝辞

  • この動画はMission USの許可の元作成しています。Mission USプロジェクト関係者にはお礼申し上げます。

  • この動画の作成に当たっては「なむ」さんの「ゲームさんぽ」を参考にしました。

  • この動画は教育・アウトリーチ目的で制作されています。動画内の出演者の発言を引用してのレポートや論文執筆などはご遠慮下さい。レポートや論文執筆に際しては動画の中で紹介した書籍・ウェブサイトなどを参照してください。

  • 教育目的での二次利用は自由に行ってください。営利目的での二次利用は禁止します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?