A.「転ばぬ先の杖」という日本のことわざがあります。
これは「前もって用心していれば、失敗することはない」という意味です。
このことわざを英訳すると「Look before you leap」。
一方、最初と最後の単語を入れ替えた「Leap before you look」という英語のことわざもあります。
このことわざを和訳すると「見る前に跳べ」。
もう少し考えてから、もう少し様子を見てから、などと言っていたらチャンスはどんどん逃げていって、目の前にあるハードルを跳ぶことが怖くなります。
そういうときこそ見る前に跳んでみる。
もちろん見る前に跳んでなんかしたら、転んだり落ちたりしてケガすることもあるでしょう。
しかし、「跳ばないで待っているより、跳んで失敗した方が断然学ぶものが多い」という意味です。
最後に成功を収めるのは、リスクを怖がらずに跳んで、たくさん失敗した人なのです。
漫才師で映画監督でもあるビートたけしさんは、この言葉を『たけしイズム』の神髄として座右の銘に選び、また同タイトルの曲を歌っています。
他に1986年に出版されたビートたけしの私小説集『あのひと』では、あとがきで以下のように書き残しています。
このあとがきを読んで、もしもあなたの中で言葉以上の震動が起こったのならば、たけしさんの言う言葉の通り「その力の命じるままに動いてかまわないと思う。最低限のモラルを持ってさせいればどんどん走ればいい。」でしょう。
そして、それは私も同じで「見る前に跳べ」な判断をしたことで自身に新たな視点・選択肢を何度も与えてくれました。
あまりに無計画だと身の破滅を招きますが、あまりに計画にがんじがらめで縛られるのもまた危険です。
だから「計画は慎重に、行動は大胆に」、つまりは「見る前に跳べ」。
人が羨むような情熱的な人生には「ノリと勢い」が編まれているのは、そういう理由かもしれません。
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ちなみに、(たけしさんのあとがきでも記載されていた)大江健三郎の短編小説タイトルにもなっている「見る前に跳べ」。
この言葉は20世紀イギリスの詩人、W・H・オーデンの作品『見る前に跳べ(Leap before you look)』から来ており、大江氏は「勇気を鼓舞してくれるものとして引用した」と述べています。
また、映画評論家の町山智浩さんが『テネット』の批評を述べていたときにも引用しています。
19世紀デンマークの哲学者、キルケゴールの著書『死に至る病』に書かれている「信仰の飛躍」と翻訳された一文。
『インセプション』の台詞でも登場する、この「a leap of faith」について、町山氏はこの言葉の解説に、以下のように述べています。
「Take a leap of faith」=「信じて飛び込め」=「見る前に跳べ」。
この言葉の背景を少し覗いただけでも、目の前のハードルに「ノリと勢い」で跳びたくなってきたのでしょうか。
えー、ここまで能書きを垂れる講師スタンスの私も、今回の講義を通じて重々に肝に銘じます。
だって、さあ、「教える」と「出来る」は必ずしもセットじゃないじゃん……ねえ?(上目遣い)
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