【読書記録】陰摩羅鬼の瑕(京極夏彦)
高校生のときにハマって依頼、追い続けているシリーズの8作目。
9月に17年ぶりの新刊が出るということで8月から読み返してたんだけど、全然間に合っていない。でも新刊まであと一息〜
【あらすじ】
白樺湖畔にそびえる洋館の主、"伯爵"に嫁いだ四人の女は、婚礼の夜に次々と命を落としていった。ついに五人目の花嫁が迎えられたが、探偵と護衛役の奮闘もむなしく彼女もまたーー。必ず花嫁を生かして戻す。館へ現れた京極堂は思いもよらない言葉を吐いた。なぜなら、ある肝心な証言に「瑕」があったから……。(あらすじより)
【感想(ネタバレあり)】
陰摩羅鬼の瑕はいかにも事件が置きそうな舞台設定。村の外れの湖畔に佇む巨大で豪奢な、まるで霊廟のようにも見える洋館。そこに使用人と住む青白い伯爵。洋館に飾られるおびただしい数の鳥の剥製。書斎に主のように佇む漆黒の鶴。婚礼の夜に次々と命を落とす花嫁…昔の探偵小説っぽい!
今回、榎木津は高熱で通常の視力を失っていて、見ることができないけど、記憶だけ視ることができる状態。なので犯人らしき人の記憶は視ているけど、それが誰の記憶かわかっていない。簡単には犯人がわからない…!
関口は関口で先の宴でだいぶん精神が参っていて、いつも以上に不安定で卑屈で伯爵との会話もままらない。
伯爵は伯爵で病気がちで成人するまで家を出たことがなく、人との関わりもかなり限定的だったせいか、非常に聡明で論理的でありながら少し世間とずれていて、会話に違和感がある。この特異な環境が今回の悲劇のもとに…
陰摩羅鬼の瑕は比較的ストーリーを覚えてたので、結末を、伯爵の「瑕」をわかったうえで読めて、伯爵の小難しい言い方というか、ちょっと噛み合わない会話の真意がわかってよかった。
あと今回は儒教がメインテーマっぽくて、儒教の考え方や日本でそれを庶民レベルに広げるのに尽力した林羅山についての情報量がすごかった。
それから死についても。死は死以外に定義できない。説明できない。私達ってどうやって死を理解してるんだろう。伯爵はどうやったら死について正しく理解できてたんだろう。伯爵の悲しみを、絶望を思うといたたまれなくて、何も知らずに、何も気づかずにいられたのなら、と思わずにはいられない。伯爵に自覚はなくても、伯爵が死気を吸う陰摩羅鬼だったんだよね…
人としては心臓が止まり呼吸が止まり、生物として終わって人を人として繋ぎ止めている箍のようなものが外れることなんだろうけど、部分部分はすぐに死ぬわけじゃなくて、まだ生きていて、ちょっとずつ死んでいく。どこまで生きてて、どこからが死んでるんだろうか。
生きるということは死と向き合うこと、死と向き合うということは、非日常に身を投じること、というテーマも良くでてきた。関口は常に死と向き合ってるから日常を厭い、常に不安定なんだろうな。最後、妻と買物に出かける関口の姿にちょっとほっとした。妻や自分を含めた日常を厭っていた関口が、日常が凝縮されたような妻との買い物にいけるようになってるって、かなり恢復してるのではないだろうか。
次はいよいよ邪魅の雫だ〜!